第80話:夜会②
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ユリウス達が麗奈が逃げ出したと言う事が知る少し前の出来事。お風呂に入り、髪も体も綺麗にされ瞬く間にドレスにも着替えられて……姿鏡に映る自分をマジマジと見る。
≪うふふふ、似合ってる似合ってるぞ♪≫
自分の隣ではしゃぐのは大精霊アシュプ。後ろに控えている侍女達からは「似合っておりますよ」と聞こえてくるが、初めて来たドレスに戸惑いこれでいいのかと思ってしまった。
今は黒のドレスに、髪を結い上げた大人の雰囲気。装飾品はなく、恐らく麗奈が慣れていないのを見越したであろうギルティスの配慮。物凄く申し訳ない気持ちがでて、「うぅー」と唸る麗奈とは対照的に黄龍と青龍はパチパチと拍手している。
『よし、破軍に自慢しよ、してこよっと♪』
『殴られるぞ』
注意したが既に居なくなっていた黄龍。彼等もアシュプ同様に、周りから姿を見えなくしており『どうした?』と小声で聞けば「へ、平気?」と青龍に聞けば彼はコクリと頷いている。
「では、ギルティス様をお呼びしますので少し待っていて下さい」
「は、はい」
そう言って部屋を出て行く侍女達。ふぅ、と緊張したのか椅子に座りキョロキョロと周りを見渡す。周りには黒のドレス以外にも、様々な色のドレスが掛けられており全てギルティス達で揃えたと聞いた。
(………夜会、か)
説明されても、よく分からず頭が混乱する。
青龍が膝まつき『元気がないな』と心配そうに見つめている。
「……ちょっとね。夜会なんて、自分には縁のない感じだったから」
『だが、主はそれだけの功績を残した。……お礼と彼は言ってたのだから、素直に貰えば良いだろう?』
「場違いかなって。………ウォームさんとブルームさんを助けたのが、ディルバーレル国を助けた事になっただけだし」
≪うぐっ、それはまぁ……申し訳ない。だが、お嬢さん。ワシ等を助けたのが結果的に、この国をも助けたのだから良いではないか≫
『………主は目立つのが嫌い、なんだな』
青龍がそう言えばコクリ、と麗奈の首が縦に振られる。
ふむ、とウォームは顎に手を当て考え込む。王族から貰える恩賞やギルドでの実績により名を上げる事が多いこの世の中。
欲に目が眩み、没落する貴族やギルドも多く居る中で麗奈とユリウスはそんなものは要らないと突っぱねたのだ。
珍しがるも、それが惹かれているのであろうなと、改めて麗奈を見てウォームは思った。
≪目立つのは嫌いか≫
「嫌い、ですかね。……今までひっそりしていた訳ですし。それにこの血で怨霊とか引き寄せる為のものだと分かってましたけど、まさか魔物や魔族にも適応されるだなんて思わなかったので」
だからこれ以上目立つようなことはしたくない、と言うのが麗奈の本心。しかし、相手はこの国の王となったドーネル。断れないのもあり、自分が貰うような立場でないと言う気持ちで一杯なのかも知れない。
『………何代目かの朝霧は、怨霊を自分達に向けさせる為に色々と禁術を用いたようだな。その所為で、主には辛い思いをさせたな』
「いえ………その時の、時代では……それが必要な事なんだと思います」
優しく頭を撫でられ『それで目立つことは嫌いなんだな』と言い、肯定しながらも「性格もある、かな」とはにかんだように答えた。
≪まぁ、魔族に狙われたとしてもワシが居るから安心せい!!!≫
実際にやったことがある。
麗奈の血を舐める際にラークは自身の血を入れ、探知させる印をつけた。それはアシュプとの繋がりを少しの間だけ切れていた時に現れ、再びアシュプが首飾りに吸い込まれた際、彼はそれを感知した。
≪(ふん、邪魔じゃ!!!!)≫
気持ち悪いものを排除するように、麗奈に纏っていた力も完全に除去し、彼女に施されたと思われる物がないと分かり安心した。それを麗奈に言う事はなく、青龍は感知したものの言わないのであればとそのままにした。
『おじいちゃんでも力は強いからな』
≪うむ、大精霊の産みの親だぞ!!!≫
「ふふっ、ありがとうございます。これからも頼りにしますね、ウォームさん、青龍」
そう言えば同時に任せろと言い、麗奈のドレス姿を見つめていた。と、そこにノックする音が聞こえ「どうぞ」と言うがなかなか入ってこない。
「あの………」
鍵は掛けていないから入れるはず、と不思議に思って開けるとそのまま引っ張り出された。
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そして、現在。
「いやー悪かったね」
「い、いえ………」
今、ドーネルは新たなドレスを着た麗奈とダンスを踊っている。麗奈を連れ出したのも黒から、エメラルド色のドレスに変えたのも、首元の宝石を掛けたのも……全部、ドーネルのやったこと。
口を防がれ連れて来られた別室。そこでドーネルはドレスと身に付けて欲しい物があると、麗奈にお願いをした。
王家に伝わるエメラルド色の宝石。
その中心には虹の色が発しており、守護地のブルームを模しているとされている。妹達がイタズラで身に付けていたりと、大変な思いをして取り返したのが良い思い出だ。
「あの、でも、私なんかが………ドーネル様の隣に居ても良いんですか?」
「…………」
「え、あの………」
何故か返答をしないドーネル。
ずっとニコニコとしているが、答えが返ってこないので青ざめる。が、すぐにその答えにいきつくが言うのに戸惑った。
(え、でも………)
麗奈とドーネルは首都までの間に話もしたし、リーファーにも頼まれごとで2人だけで森に入ったりしたこともあった。遠慮がちに「ドーネル………さん」と小声で言えば「どうしたの?」と答えた相手にガクリと肩を落とした。
「あの、いえ………何でもないです」
「そう?ずっとそう呼んでくれると嬉しいな」
「………ど、努力します」
「えー。いつも通りでいいのに」
思わずむっとなって睨むも、相手はずっと笑顔のまま。
その時、ゾクリと背筋が凍るような感覚に思わず麗奈はバッと振り返る。しかし、周りはターニャ達が四苦八苦しながらもダンスをする人達で広がっている。
だから、今の視線の出所が分からない。
(………あぁ、分かりやすいよね)
チラリ、と見ればユリウスがドーネルを睨みながらも、パートナーのゆきをリードしている姿が見える。
今のが気のせいだと思った麗奈は、ずっとドーネルの足を踏まないように、踏まないように、と下を見ながらなのでユリウスの行動は目に入っていない。
(……もう少し恥ずかしがると思ったんだけどね)
チラッと見れば、足を踏まないように集中してこちらをなかなか見ない麗奈。ダンスをするので、いつもより密着するのだがその驚きよりも、相手が王族としている自分に対する失礼がないようにとする注意の方が強い様子だった。
(あとから気付いて、慌てるのか………)
そう考え、それが見れないのがショックが大きいなと思う。しかし、綺麗に仕上げられた麗奈を見て満足気に見つめる。と、麗奈と視線が合い……その途端、顔が赤くなりすぐに下を向かれた。
「麗奈ちゃん?」
「い、いえ……ち、ちちち、近いな、と」
「まぁ、ダンスだしね。本当はもう少し、近付くんだけど」
と、グッと腰を引き寄せ耳元でそう言えばビックリした表情の麗奈。
同時に自分に向けられた、殺気にも近い視線にクスクスと笑みが零れる。隙を見てダンスをしている所から少し離れ、恥ずかしさで自分にくっつく麗奈。
理由は知っており、自分がけしかけたことだからと言うのもある。「どうしたの?」と意地悪するように言えば「ちょっと、だけ。このままで……」とお願いを聞いた。
「少しは落ち着いた?」
「な、なんとか………あの、ドーネルさん。今のワザとですよね」
「そーう?気のせいじゃない」
「………うぅ、睨まれたらどうするんですか」
(既に睨まれたんだけどねー)
ユリウスに、とは言わない。
熱くなった顔を手で仰いでいると「主ちゃん」と、ひょいと麗奈を連れ出してそのままホールへと戻される。その手際の良さに笑っていると「何で僕まで……」と嘆くハルヒと会う。
「キールに引っ張られると大変でしょ?」
「えぇ、そうですね。れいちゃん、よくあんなのと居て疲れないなって思います」
(珍獣扱いか……)
正装姿のキールとハルヒ。うんざりしたようなハルヒに「夜会は嫌い?」と聞けば「合わないですよ」と、服の調子をみる。
「あと、周囲の魔物退治は終わってますから」
「仕事が早いね。助かるよ」
「魔王が居ますからね。彼はそのまま周囲の様子を見に行ってますよ。あと、破軍は置いて来た………アイツはもっと仕事しろ」
「はい、これ飲んで休みなよ」
そう言って手渡された飲み物を飲み一息つく。見ればキールにリードされながら慌てる麗奈の姿があり「あぁ、貴族なんだっけ、彼」と改めて思った。
ドーネルは「知らなかったんだ?」と言いながら、侍女達が用意した料理、ゆきや麗奈が考案し好評だった物を食べながら聞いて来た。
「知らないですよ」
「騎士は全員貴族だよ。まぁ、ラーグルング国の貴族は貴族っぽくないし」
「皆さん、気のいいお兄さんですもんね。でもあの人が貴族って」
「ふふっ、キールは意外なの?」
「れいちゃんしか見てない人が、とは思いますけど」
(君もだけどねー)
君も例外なく含んでるよー、と思いつつ口に出したら普通に反論してくるので止めた。
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「主ちゃん。その宝石はどうしたの?」
「あ、と……ドーネルさん、から………」
「へぇ………そう」
目を細めて言うキールに麗奈は視線を泳がせる。
睨まれている。キール以外にもと思うも、ちょっとピリピリする雰囲気に慣れないでいる。
「私があげた守り石よりドーネルのを取るんだ」
「……そ、それは」
「ふうーん」
「あ、あれは宝石だったし……持ち歩くのには、難しくて」
「主ちゃんの胸元だって宝石付けてるでしょ」
「う……それは、今はドレス、なので」
「じゃあ、主ちゃん、普段からドレスに着てよ。そしたら私があげた物だって付けられるよね?」
「そ、れは………」
キールの言う事はもっともだが、今日はいつもよりもしつこい上に言葉の端々が怖い。そう感じても逃げる方法が分からない麗奈は、リードされるままキールの質問に対しての正しい答えは何だと考える。
「あの、キールさん」
「なに?」
「そ、その服……似合ってますよ」
「…………」
答えを見つけるまでの間と思い、衣装を褒めた。
キールの葵色の髪の毛とは、少しだけ色が薄いながらも煌びやかな装飾品もある。なのに、圧倒されていないのは彼の存在感がそうさせるのか、と思えば貴族だと言われても分かるような気がする。
元々、中世的であり人形のように完成された顔は表情が分かりずらい。いつも笑顔で、表情を読み取らせないでいる彼の警戒心。しかし、今、彼の表情は麗奈の質問に意表を突かれたのか驚いたように固まっている。
「主ちゃんがドレス姿でいるって、黄龍から聞いたから急いだの。まぁ似合ってるんなら良かったよ」
「黄龍……が?」
そう言えば、と考える。黄龍がそんな事を言っていたような、と考えていると「ハルヒ君のもこっちが用意したの」と視線で見る様に促される。見ればハルヒはドーネルと話し込んでいるのかこちらに気付く様子はない。
(……やっぱりハルちゃんは似合うなぁ)
ハーフと言う事を嫌っている理由を知っている。しかし、と麗奈は思った。青い正装に身を包んだハルヒは、何処からどう見ても貴族と言った雰囲気と威厳があり、隣で話しているのは王のドーネルだ。近付きずらい上、2人共美形だ。
今も、ターニャに突撃されてやれやれと言った感じでハルヒが構う様子が見られる。
(ターニャ………)
彼女はいつも全力でこちらに向かって来る。
最初、初めて会った時に思わずラウルの後ろに隠れる位に、ターニャの元気さに驚いた。同い年だからと言う共通も含めて、あの日以降自分によく構うターニャに感謝しつつも素直にお礼は言えていない。
「おぉ、貴族様~」
「何が貴族様だ。僕に財力なんか求めても無意味だからね」
「でも慣れてる感じ!!!」
「ゆきと何度かデートっぽくしたからね。だからじゃない」
「何っ!!!麗奈とゆきも好きなプレイボーイなのか。でも、麗奈はダメだぞ?ユリウス陛下のだ」
「「声が大きい!!!!」」
ユリウスとハルヒに言われ、サティとラウルが躍っている時に彼女からチョップを喰らった。「いたっ!!!」と涙目になるターニャに、周りは踊りながらも暖かな視線を送っている。
一方、名前を出されたユリウスは顔が赤くなりながらも、ウルティエの事をリードしている。踊りのパートナーとなっているウルティエは、それをクスクスと笑いながらもダンスを楽しんでいる様子。
「主ちゃん?」
「ふぁ、ふぁいっ!!」
呼ばれて思わず声がひっくり返る。顔を上げれば、笑顔で背筋が凍るような感覚がした。この表情は怒っている時のものだ。慌てて言葉を紡ぐ前にパッと、視点が変わった。
えっ?と考える間もなく「まだいけるか?」と言われて、引き寄せられる。
「ラッ、ラウルさん!?」
「何で驚く」
「え、あ、えっと………」
チラッとキールの居た方を見ればセクトとフーリエにより、阻まれておりドーネルがそれを見て笑っている様子。困っている雰囲気の麗奈を、見かねて助けたと言った感じですよ、とサティと踊っていたベールが去り際に言われて納得した。
「………迷惑、だったか?」
「い、いえっ、その………ごめんなさい」
「いや。困ってないなら良いんだ。それに、良く似合ってるよ。身に付けてる宝石も、そのドレスも麗奈にピッタリだな」
「ラウルさんの、女たらし………」
「えっ……」
小さい声に反応したラウルは驚きながらも、リードするラウル。面と向かって言われて、褒めて貰って女性なら嬉しいのだろう。麗奈は言われ慣れていないし、褒められ慣れていない。
顔が赤いのを隠したいのに、ダンスをしているのでそれが出来ないでいる。それも少しの我慢だ、と思い早く終われと下を向きながら時間が過ぎるのを待った。
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「慣れてないのに、よく頑張ったよな」
「うっ、だっ、だってぇ」
ラウル、ベール、フーリエとパートナーを変えて踊り続けた。セクトは「あ、俺は平気。嬢ちゃん、よく頑張ったよ」と、踊らない代わりに麗奈を褒め続けた。
その間、ユリウスとキールに睨まれていると分かりつつも「休ませろよ」と込めて負けじと睨み返す。その攻防を微笑ましく見ているギルティスは「大満足」と、ボソッと言ったのをドーネルは聞き逃さなかった。
「ご、ごめん。ユリィの分までの体力が………」
「良いよ。初めてであんだけリードされたんだ。キール達は全員、加減していたしな」
じゃあ、本番はどうなるんだ。と思わず言いかけたのを飲み込んだ。
今、麗奈はユリウスに抱えられながら、ハルヒと話した噴水まで来ていた。今もパーティーを行っているゆき達とは対照的に、麗奈は踊り疲れと緊張しっぱなしでヘロヘロになっていた。
そんな時、ユリウスも少しだけ風に当たりたいと言う理由でホールから出る所までは良かった。出た途端に力が抜けてユリウスに寄りかかった。
それを見て笑ったユリウスは、そのまま麗奈を抱えて噴水近くまで運んできたのだ。途中、降りると何度も言ったが本人からは「絶対に嫌だ」と言われてしまう。
「でも、ユリィ達って凄いよね」
「なにがだ?」
「こうやってリードしたり、ダンスするのに慣れてるし………貴族って感じがするし。自分がそんな人達の中にいて良いのかなって思ってて」
「急に、どうしたんだ」
「あ、ううん。最初は気にしないようにって、思ってたんだけど………ユリィは王族だもんね」
相手が自分で良いのかなって不安になってきて……と、小声ながらも心の内の声を言い始めた。今までは感じてはいても、口には出さなかった。これも、ハルヒと話した事がきっかけであり、素直に言っても良いんだと気付かせてくれたからだと思った。
そしたら額に軽く触れる位のキスを落としてきた。驚いて顔を上げた時には、唇に触れてくる。目を閉じていた麗奈はゆっくりと、ゆっくりと目を開ければ柔らかく笑うユリウスの表情に、自然と顔に熱が集まる。
「少しは不安は消えたか?」
「……ちょっと、は」
「だったらその不安、俺が消すよ。王族とか、そんなの関係なく俺は麗奈が好きだし守りたい。それは変わる事ないし、これからも変わらない」
「うっ………あ、の」
「だからこれからも言って。麗奈の不安に思ってる事、素直な気持ち……これからも聞きたい。聞いて解消させたいんだ」
チュッ、と手の甲にキスを落とし自分を見るユリウス。綺麗で見惚れてしまう位に整った顔、真剣な目が嘘でないと伝わり返答に困る。紡がれる言葉1つ1つが、不安だった事を溶かされるみたいに解放されていくような感覚。
「………私、で、良いの?困らないの、ユリィは」
「言ったろ?俺は麗奈が好きなんだ。王族とか関係なく、1人の男として麗奈が好きなんだ。………あんまり何回も言うと、実感ないかも知れないけど」
ちょっとだけ、顔が赤い彼にクスリと笑う。
それから、と。麗奈はユリウスを見て、ぎゅっと抱きしめた。その行動に驚いたのか、内心で慌てながらも表情には出さないで平静を装う。
「こ、これからも。よろしくお願いします」
「あぁ。こちらこそ、な」
抜け出して良かったな、と思い2人で笑い合う。
少しだけ回復した麗奈に、ユリウスは立ち上がり誰も居ないこの空間。2人だけで邪魔も入らないのをいい事に、ひっそりとダンスを行う。1人占め出来る事で二ヤけそうになるのを堪え、麗奈が根を上げるまで踊り続けた。




