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聖剣の使いかたっ!  作者: sord
第1章 無銘の『聖剣』 編  
1/65

1-1 炎のドラゴン  


 穏やかな陽光が射し込む、昼下がりの森にて。



 昼寝でもすれば、そのまま日が落ちるまで眠ってしまいそうなほどに心地よい陽射しの下で、上井(かみい)颯斗(ハヤト)は思いっきり冷や汗をかいていた。



(まてまて・・・おかしい、これは絶対におかしい!)


 少しくたびれた学生服を着て、使い古した革靴をはき、髪を鬱陶(うっとう)しくない程度に伸ばしたその姿は、日本のどこにでもいる男子学生そのものだろう。身長も平均程度で特にこれといって目立つような特徴もない、ザ・男子高校生を極めたような姿。



 そんな平凡な男子学生であるハヤトがいるのは、かなりの大きさがある木の陰。やわらかな草が地面を覆い、小鳥たちが頭上で楽しげに歌っている、ピクニックでもするなら最高であろうその場所で、ハヤトはこの世の終わりでも迎えたかのような顔をしていた。


 その手に握られているのは(つるぎ)。学生服には不似合いなその剣は飾らない程度に造り込まれていて、機能美と意匠の両立を見事に成し遂げている。見ただけで業物(わざもの)だとわかる剣を手にしながらも、ハヤトの手は思いっきり震えていた。



(いや、これがすさまじい力を秘めた『聖剣』なるものだってことはわかったけどさ、いくらなんでもこれは無理だって!)


 思わず心のなかで叫んでしまうハヤト。


 そう、ハヤトの手にある剣は、こちらの世界では『聖剣』と呼ばれているとても強力な剣らしいのだ。国家間のパワーバランスさえも左右する、とてつもなく重要な兵器として扱われているーーーらしいのだが、



(だいたい、『聖剣』なんて言われても使いかたがわからねぇよ!! せめて取扱い説明書くらいつけろよ! 不親切すぎるだろ!!)


 手にした『聖剣』なるものを見つめたまま、一人心のなかで泣きそうになるハヤト。『聖剣』ってことは巨大な敵を一撃で吹き飛ばしたり、海を2つに割ったりできるんじゃないのか!? なんてことを最初はニヤニヤしながら妄想していたのだが、現実はこうである。



 ぶっちゃけ、使いかたがわからないのだ。



 試しに振ってみてもビームの1つもでないし、鋭く研がれていなければならないはずの刃もなぜか丸まっていて、これでは大根を切ることすら難しそうだった。この世界では最強とされている兵器である『聖剣』を手にしたまま、頭を抱えるハヤト。


(なんなの、ゲームっぽく俺のレベルが足りないの!? もっと敵を倒して、経験値を獲得してから出直して来いと!?)


 そんなことを永遠と心のなかで叫んでいるハヤトの耳へと響いてくるのは、地鳴りのように重く低い音。その音を聞いただけで、ハヤトは恐怖のあまり逃げ出しそうになる。するとそこに、



「カミー、そろそろ行けそうかい?」



 なんて声をかけてきたのは、ハヤトの隠れている大木の隣、(こけ)むした大きな岩に身を隠している金髪の男。大きめの剣を手にした、その細マッチョなナイスガイは、待ちきれないと言わんばかりの顔でこちらを見ている。



「無理だから! こんなの絶対に無理だから! 何なの、お前はどこまで筋肉バカなの!?」



 それを見て、思わず叫んでしまうハヤト。というより、今の状況では叫ばずにはいられなかったのだ。



「それに俺は上井(かみい)だよ、上井颯斗だ! カミーじゃないって何度言ったらわかるんだよ!」


「そうか、わかったよ。じゃあカァミーと、こう呼べば良いんだね?」


「アクセントの問題じゃねぇ!!」



 自分の置かれている状況も忘れて、全力でツッコミを入れるハヤト。この場でちゃんと訂正しておかないと、今後はずっと『カミー』なんていう呼び名で定着してしまいそうだったのだ。



「まあまあ、後でちゃんと呼びかたは直してあげるから、とりあえず今は落ち着かないと。あんまり叫ぶとヤツが起きてしまうよ?」



 思わず熱くなってしまうハヤトに対して、そう冷静に告げる金髪の男。そう、このナイスガイ、クルスこそがゲーム的にいうとハヤトの仲間だったりするのだ。仲間であるクルスの言葉を聞いて、ハヤトはとっさに自分で自分の口をふさぎながら、隠れている木の向こう側を恐る恐る窺ってみる。


 その視線の先、森の木々に囲まれた円形状の窪地には、赤黒い色をした巨大な塊があった。直径8メートルほどはあろうかというその巨大な塊はびっしりと鱗に覆われていて、規則的に動きながら地鳴りのような音を響かせている。そして、その塊には大きな黒い翼が2枚ほど生えていた。それは、RPGなどでは見慣れた姿の生き物。



 そう、ハヤトたちが見ているのは一匹のドラゴンなのだ。



 その長い尻尾でとぐろを巻くようにして体を丸め、巨大なドラゴンは気持ち良さそうにお昼寝しているのだ。丸まっていてこの大きさということは、普通に起きていれば10メートル以上はありそうだった。自分の大きないびきでハヤトの言葉が聞こえなかったのか、そのドラゴンは悠々と眠っている。


 そして、その牙の生え揃った口から不意に吹き出したのは火の粉。シュボッ、と音をたてて吹き出した紅蓮の炎を見て、ハヤトの背中を冷や汗が(つた)っていく。『聖剣』を握りしめている手のひらは、手汗でぐっしょりと濡れていた。



 そう、ハヤトとクルスはこの巨大なドラゴンを狩ろうとしているのだ。



 いや、『聖剣』を使えるように経験値を稼ぐにしても、いきなりドラゴンってハードル高すぎだろ!? と心のなかで叫ぶハヤト。炎を吐くドラゴンって、ラスボスかその一歩手前レベルの相手だよ!? とハヤトは心のなかで絶叫する。


 ハヤトが心のなかで永遠とそんなことを叫んでいると、その心を読んだかのようにクルスが、



「大丈夫、あれはまだ火竜だ。炎竜まで成長すると森ごと焼き払ってくるけど、火竜だったらちょっと火の塊吐くくらいだから」


「火吐く時点でどこも大丈夫じゃねぇ!! もはや焼け死ぬ未来しか見えねぇ!!」



 思わず声に出して叫ぶハヤト。対して、クルスはとても爽やかな笑顔を浮かべながら、ビシッと親指を立てる。



「安心してくれ、死ぬときは一緒さ」


「安心できるか!! 嫌だぞ、お前みたいな筋肉バカと人生終えるなんて絶対に嫌だぞ!! 終えるにしてもせめて女の子とが良い!!」


「たぶんあの火竜、角が小さいから女の子(メ ス)だと思うよ?」


「あんなキスしたら血まみれになるような子は嫌だよ!! それ以前に死ぬわ、焼かれて食われるわ!! そんな物理的に燃え上がるような恋愛、こっちから願い下げだわ!!」



 思いっきり叫ぶハヤト。対して、クルスは困ったような素振(そぶ)りで頬をかき、その大きな剣でドラゴンの方を指し示しながら、



「そうは言ってもね・・・カミーが嫌だとしても、お相手さんは結構やる気満々になってるみたいだけど?」



 そう軽く言い放つクルス。その意味を理解したハヤトは、恐る恐るその剣が指し示す先を見てみる。するとそこでは、よほどハヤトの叫びがうるさかったのか、ドラゴンが不機嫌そうに大量の火の粉を吹き出しながら、緑の巨大な瞳をこちらに向けていた。それを見て、思わず後ずさるハヤト。



「・・・終わった、俺の人生短かった!!」


「大丈夫だよ、僕たちで倒してしまえばいいだけの話なんだから。あんなの、火を吐く前に仕留めれば、ただのでっかいトカゲじゃないか」


「んなことできるか!! ただのでっかいトカゲって、お前はどこまで筋肉バカなんだよ!? ちょっとは現実ってものをだなーーー」



 ドラゴンそっちのけでハヤトが叫んでいると、ふと前のほうから空気を吸い込むような音が聞こえてくる。それと同時に感じるのは、肌を焼くような熱風。異常な熱を持った、独特な生臭さを感じる風。


 それが意味することを察して、ゆっくりとドラゴンへと視線を戻すハヤト。


 そこでは、今まさに火を吐かんとするドラゴンが大量に空気を吸い込んでいた。それと同時に、その口から溢れる紅蓮の炎が一気に膨れ上がっていく。そのあまりの迫力に、ハヤトは思わず硬直してしまう。



「うん?」



 ただのでっかいトカゲこと、炎のドラゴンの様子にようやく気づいたらしいクルス。ハヤトはそんな筋肉バカを完全に無視し、とにかく全力で横へと跳ぶ。今はクルスに構っている時間などないのだ。そのまま体を丸めて地面を転がり、とにかく距離を取ろうとするハヤト。その瞬間、



 ゴオォォォォォ!! と。



 ドラゴンの口から吐き出された炎は、一瞬にして草木を焼き払っていく。


(死ぬ、これは本当に死ぬっ!!)


 つい先ほどまで自分が隠れていた大木が炎に包まれながら倒れていくのを見て、思わず震え上がってしまうハヤト。まるでガソリンでも撒いたかのように、炎は草木を焼き尽くしてもなお地面で燃え続けている。もはや、辺りはちょっとした火の海と化していた。


(ヤバい、これは本当にヤバい!!)


 焦りながらも、『聖剣』を握ったままなんとか立ち上がるハヤト。クルスがどうなったのかは考えるまでもないが、今はそんなことなど気にしていられない。あんな筋肉バカと心中するつもりなんてさらさらないのだ。


 短い間だったけどありがとう、バカだけどお前は良い奴だった! なんてことを記憶のなかのクルスに言い残しながら、とにかくこの場から逃げようとするハヤト。だが、そこで、



「危ない危ない、あやうく丸焼きにされるところだった」



 なんてことを言いながら炎の中に立つ、がっしりとした体つきの人影が目に映る。それを目の当たりにして、唖然としてしまうハヤト。そう、それは見間違えようもなく、あの筋肉バカことクルスだった。草木の全てが焼き払われて、まだ炎が燃え盛っている地面の上にクルスは悠々と立っている。


 それも、全裸で。


 その大きな剣を肩にかつぎながら、隠すべき所を隠そうともせずに堂々と立っているクルスを見て、ハヤトはドラゴンのことすら忘れてまた叫んでしまう。



「なんなの、お前は本当になんなの!? 自分の筋肉見せつけるためなら生死すら超越できるの!?」


「いや~、僕も一応は『英雄』の子孫の家系だからね、魔術とかはほとんど効かないんだよ。さっきの炎自体は魔術の派生系だから、食らってもちょっと熱かったな~、くらい?」


「なにその凄すぎるチート!? もう魔術の存在価値が消え失せてるじゃねーか! 末期のバトルマンガ並みに強さのインフレ進みすぎだろ!!」



 あまりのチートっぷりに思わず叫んでしまうハヤト。対して、クルスは髪をフサァ、と優雅にかき上げると、



「安心してくれ、体は大丈夫でも服は焼けるから」


「どこに安心できる要素があるんだよ!? 逆に不安しかねーよ、ただの露出狂にしか見えねーよ!!」



 全裸のまま爽やかな笑顔を向けてくるクルスに対し、ハヤトは全力で叫ぶ。クルスはそこらの雑誌に出てくる俳優並みに爽やかな笑顔を見せているが、その下は完全にありのままの姿なのだ。もはや誰がどう見ても、そういった趣味の危ない人間にしか見えないだろう。


 対して、クルスは爽やかな笑顔のまま(あご)に手を当てると、



「さて、邪魔な服も消えて動きやすくなったことだし、そろそろ反撃に移るとしようか」


「移るか! というか、言ってることがもう完全に変態の言葉なんだよ! せめて隠せ、こっちに見せつけてくんな! だいたい、お前は炎食らって大丈夫でも俺は焼け死ぬんだよ!」


「大丈夫だ、この僕が囮になろう。だから、その隙にカミーが『聖剣』でヤツの首を叩き斬ればーーー」


「できるか!!」



 思わず叫ぶハヤト。だが、クルスは手にした大きな剣でドラゴンを指し示しながら言う。



「でも、やらなきゃ殺られるだけだよ? アイツは空も飛べるし、やる気も満々みたいだし」



 その剣の示す先、そこではドラゴンがその巨体を完全に起こし、口から大量の火の粉を吹き出していた。その緑の瞳に宿るのは怒り。ハヤトたちを焼き殺せなかったことがよほど悔しかったのか、ドラゴンは翼を広げて威嚇するかのように羽ばたかせる。


 それを見て、思わず『聖剣』を落としそうになるハヤト。


 あの炎のドラゴンが本気で追ってきたならば、逃げることなんてほとんど不可能に近いだろう。逃げたとしても追いかけられて、空から火を吐かれでもすればどうしようもないのだ。背中を流れていく冷たい汗。絶対絶命、そんな言葉だけが頭をよぎる。



「ほら、いいかげん覚悟を決める時だと思うよ? 人間、やればできるものさ」



 言いながら、ハヤトの肩をぽん、と叩く全裸のクルス。そんな変質者もどきに触れられたハヤトは、本能的に飛び退くようにして逃げながら、



「・・・わかったよ。こうなったらやってやるよ。俺の本当の力、あのトカゲ野郎に見せてやる」



 ハヤトは『聖剣』を握り直しながら、ようやく覚悟を決める。こうなったからにはもう、やるしかないのだ。自分の力、それを信じるしかないのである。


(そうだよ・・・俺はこの『聖剣』に選ばれたんだ。使いかたなんて考えるものじゃない。感じれば良いんだ)


 じりじりとドラゴンとの間合いをはかりながら、祈るような気持ちで手にした『聖剣』を強く握るハヤト。そして、大きく息を吐き出すと、クルスに向かって小さく頷く。対して、それを見たクルスは、とてつもなく爽やかな笑顔を浮かべると、



「さあ、この僕の肉体美の虜となれ! ウワッハッハッハァ!!」



 なんて奇声を発しながら、全裸のままドラゴンへと突撃する。その姿はもはや完全にイカれた変態と化しているが、これ以上にドラゴンの気を引くものはない。それを見てドン引きしながらも、ハヤトは回り込むようにしてドラゴンへと走り出す。


 真っ直ぐに突っ込んできたクルスに対し、腹に響くような咆哮を上げながら、牙の生え揃った巨大な口を開くドラゴン。そこからは灼熱の炎が溢れ、かなり離れているハヤトにまで熱が伝わってくる。


 しかし、そんなことは全く気にしていないと言わんばかりに、クルスは真っ直ぐにドラゴンへと突っ込んでいく。そしてドラゴンの目の前へと一直線に突き進んだクルスは、奇声を発しながら剣を振りかざす。



 対して、容赦なく炎を吐き出すドラゴン。



 その瞬間、炎の濁流がクルスを完全に呑み込み、そして一気に押し流していく。それは先ほどよりも明らかに火力の高い、本気で焼き殺しにきている炎。


(うおっ、危ねぇ!!)


 クルスを狙ったその火炎放射に、離れた場所にいたハヤトも危うく巻き込まれかける。あまりの熱にヒリヒリとする顔。恐怖のあまり思わず足が止まりそうになるが、それでもハヤトは炎を迂回するようにしてなんとかドラゴンの元へと辿り着く。


 そして、クルスの言っていた通りにドラゴンの首を狙い、ハヤトは手にした『聖剣』を振りかぶる。その瞬間、ギョロリ、とこちらに視線を向けるドラゴン。人の頭ほどもある、巨大な緑の瞳がこちらを見据える。巨大な2つの瞳に睨まれ、思わず足がすくみそうになるハヤト。それでも、



「ーーーく、くそっ! これでも食らえっ!!」



 あまりの迫力に泣きそうになりながらも、ハヤトは『聖剣』を力任せにドラゴンへと叩きつける。その瞬間、



「ーーー!?」



 ギィン!! と鈍い音を響かせて、ハヤトは思いっきりのけ反ってしまう。


 そう、ドラゴンの頭へと叩き込んだハヤト渾身の一撃が、ドラゴンの鱗によっていとも簡単に跳ね返されたのだ。傷一つ与えられずに跳ね返された『聖剣』を見て、ハヤトは思わず叫んでしまう。



「やっぱり無理だ!? こんな使えないナマクラ1本でドラゴンを退治しろとか、無理ゲーにもほどがある!!」



 そんなハヤトに構うことなく、目の前で開かれるドラゴンの口。生え揃った牙の奥に見えるのは、渦を巻く紅蓮の炎。ハヤトはのけ()った体勢のまま、呆然とそれを見つめる。



 そして、一気に膨らんでいく炎。



 炎は目の前で一気に膨れ上がり、視界を埋め尽くしていく。肌を焼くような熱風を全身に感じながら、ハヤトは走馬灯でも見ているかのように、どうしてこんなことになっているのかを思い出していた。




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