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信じて

改行後の一マス空けを忘れてしまいました。

読みにくかったら、すみません。

大好きなマリレナ。小さな頃から共に過ごしてきた、スゥの大事な親友である。だから、彼女との思い出はたくさんで一つ一つが本当に大切だし、スゥはそんな彼女に何度も助けられて来た。明るく無邪気な笑顔が、いつも不安なスゥを安心させてくれていた。けれど、今、彼女に会うことは出来ない。スゥが魔法を使えないからだ。今、彼女はどんなに不安であろうか。知らない土地で、不安な気持ちでいるのかもしれない。今のスゥのように泣いているのかもしれない。なのに、スゥはマリレナがしてくれたことを逆にしてあげなければならない時に、することが出来ないのだ。スゥは魔法を使えない自分を強く責めた。そして、


━━私は何のために学園に来たの?


気付くと、スゥはそんなところまで考え始めていた。

それは魔法を学ぶためだろう。我ながらアホな問いだ。しかし、魔法が使えないのに、何故通っているのだろう。この学園の入学は、希望制だ。この世界に生まれたほとんどの子供が通ってはいるが、無理に通うことはないのだ。

それから思う。朝会ったあの少年は、何のために学園へ通っているのだろう、と。スゥは、何故だか今、彼に会わなければならないような気がした。彼に会えば、何か分かるような気がしたのだ。

そう考え始めると、スゥは居てもたってもいられなくなる。


「先生。今、何の時間ですか?」

「ええっと、お昼休みかしら」

「あ、ありがとうございます……っ!」

「え、あっ、ちょっと! 今走ったら危ないわよ?! もう少し安静にしてなさい!」

「えっと、もう大丈夫です……っ!」

「ス、スゥちゃん?!」


突然保健室の扉を開けて走り出したスゥを止める先生の声が聞こえるが、スゥは止まらない。スゥを心配してくれている先生には申し訳ないが、今、どうしても彼に聞きたいのだ。何故魔法を学ぶのかと。


スゥは学園中を駆け回り、ようやく少年を実践大教室の裏の桜の木の下で見つけた。


「あ、あのっ!」


息を切らせてスゥは少年に声をかける。すると、少年はスゥの声に驚いたかのように振り返った。


「ん? って、あっ、朝の……」


スゥは少年の言葉にゆっくりと頷く。

改めて見ても、少年は白かった。真っ白な髪は、明らかに世界に馴染んでおらず、白さが際立っている。だが、スゥは、どこまでも白いその髪を綺麗だと思った。よく見ると、朝はあまり見ていなかったので分からなかったが、少年の制服には、現在二年生であることを示す刺繍が施されている。


「あっ、あ……の」


言いかけて、スゥの声は萎む。

魔力について聞くのは、やっぱり失礼かもしれないと思ったのだ。もし、それが少年のコンプレックスだったとしたら、申し訳ない。

だから、スゥは、途中で切った言葉を、相手が違和感を感じないように丁寧に続ける。


「あのっ、朝のこと、ありがとうございました!」

「えっ、いや、大したことないよ。俺、魔法使えないから、ああいう方法でしか割り込めなかったし」

「いえ、あれで助かりましたし。ありがとうございます」


やはり魔法が使えなかったのだ。これほどの白なら、使えなくてもおかしくない。しかし、「魔法使えないから」、というフレーズの言い方に、劣等感は微塵も感じられなかった。サラリとした言い方は、まるで使えないことを完全に受け入れているかのようで。

だから、スゥはやっぱり聞いてみようと思った。


「それから、えっと……、あなたはなんでこの学園に来たんですか……? 私も、その、使えないので……、気になったんです」


言ってしまった。

瞬間的に、スゥはそう思った。

この世界で魔法を使えないというのは、軽蔑されることなのに。例え少年にとって、それがすでに受け入れている事実だったとしても、やはり言うべきではなかったのかもしれなかった。スゥが感じ取れなかっただけで、少年はそれにコンプレックスを抱いていたのかもしれないと思い、後悔した。

スゥは少年の顔を見るのが怖くて、おずおずと顔を上げる。


「それ、君と同じだと思うけど? 君だって魔法を学ぶ為にこの学園に来たんだろ? いつか使えるようになるんじゃないかって信じてさ」


少年は、何でもないような表情をしていた。

気まずく思ったのは、スゥだけだったのだ。

少年は、違うの、とでも言いたげな顔で、スゥを見やる。

違くなんかなかった。スゥは、それを信じて入園を決めたのだ。少年の言葉は、思えばスゥにとっても当たり前であった。

スゥは思い出す。幼い頃、たくさんの人に魔法が使えないことを不審がられ、それにショックを受けて魔法を使えるようになりたいと思ったことを。世界に溢れる鮮やかで綺麗な魔法を、自分でも使えるようになりたいと思ったことを。

何故忘れていたのだろう。今思い返せば、こんなにもはっきりとあの頃を思い出せるのに。マリレナが居なくなったことでパニックを起こしたとしか考えられなかった。


「そうですよね。私が馬鹿でした。なんかごめんなさい。私、それを信じて学園に来たのに」


スゥは、さっぱりとした顔で少年に笑って見せる。マリレナが居なくなったという事実で、本当はまだ混乱してはいるが。


「ううん、大丈夫だよ。そういえば、一年のクラスで何か騒ぎがあったみたいだけど、大丈夫? 君、一年生だよね?」

「はい。でも、もう大丈夫です」


少年は、スゥの制服にある刺繍を見て、心配そうに尋ねる。

本当は、まだ全然大丈夫ではない。マリレナが戻ってきていないのだから。けれど、今のスゥには大丈夫なような気がした。すぐにマリレナと再会できるような気がしたのだ。




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