入学式 1
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ここは、魔法のある世界。これは、ある子供達の物語だ。
「スゥ! スゥってば!」
「何? 私、もう家、出なきゃなんだけど……」
窓の外を見ると、一人の少女が箒に乗って部屋の窓の前で手を振っていた。彼女の名前はマリレナ。人懐っこい笑顔が似合う、スゥの幼なじみだ。
「何言ってるの!? ここから歩いていくなんてアホなの!? ほら、あたしの箒に乗って! 歩いてったら入学式の前に疲れちゃうよ」
「……で、でも」
「ふん! あたしがスゥ乗せたら堕ちちゃうとでも? 全く、あたしが箒に乗れるようになってから何年経ったと思ってるの!? 堕ちるわけないじゃない」
「……は、半年……」
「……うっ」
スゥは小さく溜め息を吐き、乗れない私よりは良いけどね、と加える。
マリレナは、そんなスゥを悲しげな目で見やった。
「大丈夫だよ。スゥなら直ぐに乗れるようになるって! 例外な訳、ないでしょ?」
「……そうかな」
「そうだよ!」
そう、スゥの髪色は深い青であった。深い海のような綺麗な青色である。この世界では、髪色が濃いほど個の持つ魔力値が大きいと言われている。だが、何故かスゥは髪色が濃いにも関わらず、全く魔法を使うことが出来ないでいた。マリレナは、そんなスゥをいつも気にかけてくれている、優しい子である。
「じゃあ、乗って! これからあたしがスゥのこと乗せて学校行くから!」
「う、うん。ありがとう。助かるよ」
「それじゃ、しゅっぱーつ! って……あわわっ……」
スゥを乗せ、部屋から飛び立った瞬間、突然箒が高度を下げた。恐らく重さに耐えられなかったのだろう。
「上がってっ……!」
慌ててマリレナが箒に魔力を込めると、箒はようやく上に上がっていく。
「……ふぅ、良かった……」
「よ、良かったじゃないよ! やっぱり私、降りるよ。これじゃあ学校に着く前にマリレナが疲れちゃう」
「……もう、大丈夫だってば! スゥは気にしすぎだって」
スゥの申し出を断り、マリレナはにこりと笑う。そんなマリレナに、スゥはこれ以上言うことが出来ずに黙り込んだ。
「ほら、もう着くよ。私たちの新しい学園生活の始まりだよ!」
そうこうしているうちに、着いたようだった。これから、スゥたちの物語が始まる。
「スゥ、やっぱり離れちゃったね……。まぁ、仕方ないか!」
スゥとマリレナの二人は、掲示板の前で話していた。掲示板には、クラス分けの結果が貼り出されている。スゥは最上位クラス、マリレナは下の上のクラスであった。ここの学園では、髪色によってクラス分けが行われるのだ。
「だって、あたし、こんな髪だからね」
マリレナは、自分の髪を指に巻き付け溜め息を吐いた。マリレナの髪色は、クリーム色。ほんわかとした髪色は、とても可愛らしいが、この世界では、その髪色は才能の無さを示している。
「でも、マリレナは魔法使えるんだから自信もって? 私なんか、こんな髪でも魔法使えないんだから」
スゥはマリレナを元気付けようと、笑って見せる。
「ん、ありがとう。じゃあ、それぞれのクラスに入ろっか」
マリレナも微笑み、スゥをクラスへと連れて行く。
そうしてスゥは、そっと教室の扉を開けたのだった。