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私のかわいいお人形(中編)

「ねぇねぇお人形さん」

「なにかねお姉さん」


完全に「おじいさん」「おばあさん」みたいなノリでしゃべってるよね私たち。え?御隠居さんだっけ私たち。そんな不安に襲われるけどきっと気のせいだよね。

お人形さんが来て数日が経った。

私たちは寝ても覚めても一緒な仲になった。私がお人形さんと一緒に寝たがるからだけどね!


「あのね。お人形さん、好きな色ってあるの?」

「好きな色?…物が何かにもよるんだけど…」

至極もっともな意見が返ってきた。お人形さんのくせに生意気な。

「そこは素直に色言ってくれればいいと思うよ。強いて言うなら、身に着ける物かな」

「すみませんね素直じゃなくて…それだったら緑かなぁ。真緑っていうより、モスグリーンくらい」

モスグリーン。お人形さん、渋い好みですね。


「そうか…もっとこう、ぼくあかがすきー!とか、あおがかっこいー!みたいなのはないんだ」

「お姉さんはぼくに何を求めてるの?」

すごい速さでつっこまれた。表情は動かないけど、きっと怪訝な顔してるんだろうな。

「それはもちろん!かわいさでしょう!」

胸を張って答える。幸い張るくらいの胸はあるもんね。女子だから。

なんかお人形さんの方から残念な子を見るかんじのオーラが出てるけど、気にしちゃいけない。


「…お姉さん。申し訳ないんだけど実はぼく…」

「待って!それ以上いけない!」

聞きたくないよ!聞いてないよ!年齢なんて!

「私の中でお人形さんは永遠の少年だから…!」

お人形さんをむぎゅっと抱きしめながら現実逃避。知らない知らない。現実なんていらないよ。

「お姉さんがそれでいいならいいよ」

胸の中でむぎゅっとつぶれたお人形さんから声が聞こえる。諦めてるような、あったかいような声。






 



「時にお人形さん。私はお腹がすいたでござる」

今日はお休みだけど。さすがに夜8時になればお腹も盛大に鳴るよね。女子としてはどうかと思うけど。

「ぼくはお腹すかないんだけどね、お姉さん。更に言えば動けないから作ってあげることもできないんだけどね」

「ですよねー。知ってた知ってた」

そう言いつつもお人形さんをむぎゅむぎゅすることをやめられない。

あーお人形さんふもふもかわいいよー。癒されるー。おこたつあったかいよぉ。


「はぁ。じゃあぼくも一緒に行ってあげるから。ご飯作ろう?」

「一緒に行くって言いながら私が連れてかないと行けないくせにー」

ぶつぶつ言いながらも顔がにやける私。よかった。お人形さんこっち向いてなくて。

よし行くぞ。気合を入れて、お人形さんと共に立ち上がる。




「今日は簡単カレーにしようとおもいまーす」

「なんでそんな男一人暮らしみたいなメニューに…」

「お人形さんが食べるんじゃないんだからいいでしょ」

おしゃべりしながらも手を動かす。

お人形さんは座椅子の上に。ブランケットを掛けてちょっとぬくぬくしてるかんじを出してみた。タータンチェックの赤はやっぱりあったかそうに見えるよね。


玉ねぎはくたくたのほうが好きだから一番先に。強火で茶色くなるまで炒めたら、お肉とにんじんとじゃがいも入れて炒めて。

お水は少なめで煮込んで、その間にお風呂入っちゃおう。

「お人形さん、お鍋お願いね」

「しょうがないなぁ」

ちゃんと聞こえるようにしておいてねーの声。相変わらず出来たお人形さんだ。

「一緒に入るー?」

「いいよー」

「えっ、ほんとに!?じゃあさっそく」

「嘘だよ…早く入ってきなよ…」

くそう。出来たお人形さんなんてとんでもなかった。お人形さんのくせに生意気な。

「一緒に入りたいって言っても入ってあげないんだからねー!」

「その前にどうやって一緒に入るつもりなのさ…」

遠くで声がしたけど聞こえません。ふーんだ。いいもん、さみしく一人で入るもん。





さっぱりして煮詰まってたスープにカレー粉足した簡単カレー食べて。

しあわせしあわせ。

「ねぇねぇお人形さん」

「なんだいお姉さん」

いつもの会話。変わらない会話。






いつまでいるの?


どうして来たの?







訊きたいこと。


他にもたくさんあるんだけど。







訊いちゃいけない。


それだけ知ってる。


だって訊いたらきっと。








「お人形さん、もう寝ちゃった?」

「まだ寝てないよ。もう寝るの?」

「私はちょっと起きていたいの。お人形さん、先に寝てほしいな」

「そっか、わかったよお姉さん」


なんで、って訊かないお人形さん。やっぱり生意気。

でもとっても優しいお人形さん。




ねぇ。




いつまで私のこと甘やかしてくれるのかな。























「ねぇねぇお人形さん」

「なにかねお姉さん」

「やっぱり寒いね」

「そうだねぇ。昼間だからって言っても12月の公園のベンチだしねぇ」

一応陽当たりがいいベンチ選んだんだけどな。風が通り抜け放題だからか、どうにも寒い。


「そんな寒い日には!やっぱりこれでしょう!」

バッグから今日の朝までがんばって、なんとか間に合わせた包み。緑の包装紙、真っ赤なリボン。

「はい、お人形さん」

「…え?これなに…」

しかもぼく開けれないし。言わなくても知ってるよぉお人形さん。

自分で包んだプレゼントを、自分で開ける。リボンを解いて包みを開けて。ちょっとせつないんだけど気にしない。お人形さんの為だもんね!


取り出したプレゼントを、お人形さんにくるくる巻く。ちょっと長かったかな。




モスグリーンの、マフラー。




「…ぼく寒くないって言ったのに」

「いいの。私が作ってプレゼントしたかったの。お出かけの時につけてくれてるお人形さん見たかったの」

抱っこするとちょうどいい位置にくるお人形さんの頭にあごをのっける。結構大きいんだよねお人形さん。持ち運びするといい感じに私、不審者っぽくなるもんね。


「…ありがとう」

小さい声。でもちゃんと聴こえてるよ。

「いいってことよお人形さん」





どきどき。どきどき。



お人形さんには伝わってるのかな。

私の心臓の音。






喜んでくれてよかった。

喜んでくれてる姿を見れてよかった。











間に合って、よかった。










「あのね、お姉さん」

「なんだいお人形さん」

「…ぼくね、そろそろかもしれない」

「…そうかい、お人形さん」








「だからね、お姉さん」








その後に続く言葉を聞きたくなくて、お人形さんをむぎゅっと抱きしめた。


聞いたって聞かなくたって一緒だもん。


「もういいよ、お人形さん」

「…そうかい、お姉さん」







あのね、お人形さん。

もういいよ。







きっと、がんばれるから。







「お姉さんもね、もういいよ」

「え?」

「お姉さん。もういいんだよ」

「…そっか」






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