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私達の戦闘機隊と爆撃機隊

 十二月二十七日、陸軍東部軍司令部に十一時半過ぎ、八丈島上空の哨戒機より二五〇度二一〇キロ及び園後方へ三目標北進中と情報が入った。

 十五分後には横須賀鎮守府全管区に警戒警報を発令、空襲警報も同時に発令された。


編成

 第一飛行隊

    雷電隊:第一小隊 

       :第二小隊 

       :第三小隊 

 第二飛行隊

    月光隊:第一小隊 

       :第二小隊 

   零夜戦隊:第一小隊 

          一番機 荒木俊士大尉

          二番機 櫻井紀少尉

          三番機 磐城佳祐上飛曹

       :第二小隊 

          一番機 森岡寛大尉

          二番機 水地透少尉

          三番機 春日井碧一飛曹

  彗星夜戦隊:第一小隊 

          一番機┌操縦 水杜寛貴上飛曹

             └偵察 当麻要人少尉

          二番機

          三番機

       :第二小隊

    銀河隊:  一番機




 雷電二十七機が厚木北方上空、月光八機が駿河湾、御前崎上空、零夜戦六機が厚木及び小田原上空、彗星夜戦隊と銀河隊が御前崎上空〜南方へと発進した。


 一番最初に会敵したのは御前崎上空に向かった月光隊と、月光隊を目前に望む形で飛行していた彗星夜隊第一小隊だった。

 月光隊から敵機発見の「ヒ」連送と、攻撃開始の「ト」連送が届いた。

 当麻が双眼鏡をのぞくと、月光隊が次々と接敵の機動に入っていくのが見えたのと同時に、やや下方に九機編隊のB-29を確認した。


「よし、俺らも波に乗るぞ!」

 当麻が伝声管を通して水杜に声をかけると

「はい!」

 と、水杜の勢いの良い返事が返ってきた。


「俺が的確に爆弾を落としてフカの餌にしてやるから、大船に乗ったつもりで操縦しろよ?」

 当麻が言うと、水杜はふっと伝声管の向こうで笑った。

「では、私はその爆弾を的確に落とせるようにしっかり操縦しますから安心してください」

 そんな風に言う水杜に、当麻もふっと笑って、いい仲間を持ったと思った。


 B-29を先に撃ち墜としたのは月光隊だった。

 銀色に光るB-29の分解した胴体が、海に白波を立て沈んでいく。そこへ、被弾した月光一機が錐揉み状態になって海面へ激突していくのが見えた。

 既に月光も何機か被弾しており、煙を上げて宙を旋回している。彼らの為にも、絶対に成功させなければならないと思った。

 彗星隊の到着に、月光隊が脇へと逸れていく。

 当麻は緊張感を抑えるように深呼吸をした。


「ちょい右、ちょい右」

 当麻は照準器を覗きながら指示をする。

 自分の主翼の付け根の後ろあたりに敵機がきたところで

「ヨーソロ!」

 海軍独特の掛け声で、水杜に直進の合図を送った。

「ヨーソロ!」

 と、水杜が復唱したと同時に機体は直上方攻撃の姿勢に入った。管楽器のような風を切る金切り音を立てながら、一気に背面から垂直急降下する。


「速力二九〇ノット、前方よし!」

 当麻は声を張り上げた。


 時速に換算すると約五五〇キロ、重力に耐えながら当麻はその一瞬のタイミングを見計らって投下ボタンを押した。


「撃てーーっ!」

 当麻が叫んだと同時に、機体はB-29の先方を勢いよく通り過ぎた。

 その瞬間、ズドォン!とした腹に響く衝撃音と共に、猛烈な爆風と衝撃が機体に走って、尾翼が浮いた。


 当麻が咄嗟に振り向くと、花火のように美しい糸を引きながら、敵編隊の真上で次々と爆弾が炸裂している。いくつかの敵機からは煙や炎が上がっていた。


「水杜、やったな!」

「はい! やりましたね!」

 お互い伝声管の向こうで笑い合った。


 敵も勿論打ち返してくる。

 空中を光りながら、無数の曳跟弾が矢の如くこちらに向かって飛んで来た。

「左!」

 当麻が叫ぶと、水杜はすぐさま機体を滑らせ、曳跟弾が右翼をかすめた。間一髪だ。


「水杜、捻り込め!」

 曳跟弾が通り過ぎる音を耳で感じながら、水杜は機体を縦に傾け、宙返りの体勢に入った。

 機体を捻り込みながらの、戦闘空域からの離脱を試みた──が、

「うわっ! 被弾した!」


 捻り込む前に、無数の衝撃音が機体に響いたと同時に、赤黒い煙がコクピット内をたちまち覆い尽くして、当麻は慌てて消火装置を探した。


「消火!」

 幸い消火装置が正常に作動してすぐに鎮火したが、曇ったコクピットから薄っすらと穴だらけの主翼が見えて思わずぎょっとした。

 急降下して海面すれすれの位置を飛びながら、水杜は緊張からか、息を切らしていた。

「かなり喰らいましたね」

「まるで蜂の巣だなあ」

 当麻は再び主翼を見ながら苦笑した。

「こんだけ穴だらけにしたら、整備科と修補科に怒られるだろうね」

 当麻が双眼鏡を手に上空を見渡すと、既に敵編隊の機影は雲の中に隠れ、見えなくなっていた。


「機体の脚も恐らくやられました。胴体着陸するしかなさそうです」


 酷い振動のする彗星を騙し騙し、厚木へ向かう事にした。



***



 一方、荒木率いる櫻井一行は、三浦半島南西上空で激戦を繰り広げていた。


──敵は、B-29八機編隊。


 一番機の荒木が直上方からB-29の先頭機に射弾を浴びせたのに続いて、櫻井も機体を背転させ、直上方から急降下した。

 敵機に二十ミリと十三ミリを容赦なく斉射すると、右翼に命中して燃料が吹き出した。放っておいてもやがて火を噴き出すだろう。


 そのまま敵機直前をすり抜け、目の前に現れた同編隊のB-29の主翼付け根を狙って再び斉射すると、右翼から炎を発してたちまち空中分解していった。


 千葉県犬吠埼上空へ出たところで、市街地への投弾を終えて洋上へ出たB-29を、下方から斜銃を撃ち放った──が、弾は全くあさっての方向へ飛んでいく。

 左舵から三十度、上へ十度の傾斜のある斜銃は、若干個体差があり、思うように弾が飛ばない事もあった。


(もっと近づかないと駄目だ)

 櫻井はギリギリまで接近した。すると、主翼付近をB-29の曳跟弾が掠めた。

 モタモタしていたら、こちらが撃たれてしまう。

 櫻井は、剥き出しのB-29の腹へ目掛けて再び撃ち放ち、左旋回で離脱した。

 すると火を発して燃え広がるB-29から、落下傘がぽつぽつと浮かんだのを確認した。


 櫻井が離脱して向かった先の銚子の上空では、三番機の磐城が奮闘していた。

 既に一機落としたのか、下方へ一の字に黒煙が糸を引いている。


 そんな中、磐城機は、翼に細い白い雲を引きながら、雨のように注ぐ曳跟弾の中を旋回していた。B-29の曳跟弾は光るので弾道がよくわかる。


 そのうちの一機のB-29が、磐城の後ろを取った。


(まずい、やられる!)

 櫻井は磐城の後ろを取ったB-29に的を絞った。


 間に合え──そう願いながら、櫻井は金属を擦るような風を切る猛烈な音を出して、エンジンを全開に急降下していく。

 そしてぶつかるかぶつからないかのところで、二十ミリと十三ミリを容赦なく撃ちこんだその時──敵機の曳跟弾が磐城機に吸い込まれていくのが見えた。

 櫻井がB-29の目前を通り過ぎて振り向いた時には、B-29と磐城機が黒煙を上げて落ちていくのが見えた。


「磐城!」

 櫻井は叫んだが、磐城からの無線は無かった。








 

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