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同窓会のお知らせ

4月20日 午後6時頃

家に帰るといいにおいがした。そのにおいにつられるように僕はキッチンに行く。

「ただいま」

「おかえりなさい」

キッチンの窓からオレンジ色の夕日が流れ込んでくる。お母さんは忙しそうに準備していたが、ふと思い出したように言った。

「同窓会のお知らせ、届いてたわよ。行ってきたら?」

「……うん。そのうち考えておく。それより、今日の晩ゴハンは何?」

「今日はホワイトシチューよ」

のぞき込んで見てみると、乳白色のとろりとしたシチューに野菜がこれでもか!というくらいに入っている。

「へぇ、おいしそうじゃん」

「うん、そうでしよ。さっきの話だけど、高校の頃のお友達なんて今しか会えないわよ」

トントントンと野菜を切る音が部屋に響く。

「わかってる。僕だって友達に会いたいよ、久しぶりだもの」

「じゃあ、行ってらっしゃい。お金のことは心配しなくていいから」

「……うん」

お母さんは料理している手を少しだけ止めて、こちらをふっと見ると首を傾げた。

「なぁに?乗り気じゃないの?」

「うん。ちょっと他の人に相談してみるよ」

ふすまを開けて隣の部屋に移動する。

和風な感じのどこにでもある部屋だ。

テーブルの上にあったハガキに目をやると、『同窓会のお知らせ』と書かれている。

僕はそれを苦々しいまなざしで見てから、仕方なく手を伸ばした。

「K高校かぁ」

卒業してもう2年が経つ。

思えば、2年なんてあっという間な気がする。

どんどん加速して、卒業してから、あっという間に今現在に至ったような気がする。

「高校の頃は1日があんなに長かったのにな」

1週間という単位ですら永遠に思えた僕は、今はどこかに消えていた。

ただあんなに長かった学校生活ですら、忘却のかなたへ消えかけているような気もする。

つながりを断ち切ったはずなのに、僕の前にあるこのハガキはつながりを示していた。

それがなんだか居心地の悪いものに思えた。

それは、きっと、昔のことを思い出すからなんだろう。

そして、やっぱり僕の中ではつながりは消し去れていなかったのだろう。

同窓会は5月5日の午後6時から、市内のグランドホテルで行うようだった。

ポケットから携帯を出して電話を掛けてみる。

高校の頃の友達だったヤスと話すのは久しぶりだ。

元気にやってるかなぁ?とか、今なにやってるんだろう?とか、色々な疑問が頭のなかをよぎった。

『もしもし』

「マサです。ヤス、久しぶり」

『おっ!マサかぁ。久しぶり』

「この前会ったのって、この前の夏祭りだよね」

『そうそう。あれは楽しかった』

「そうだね。ちょっとさ、聞きたいことがあるんだけど今いい?」

『うん。いいよ、何の話?』

「この前、同窓会のお知らせって届いたよね?」

『あぁ、届いたよ。あれどうしようか?行く?』

「あぁ、いや、ちょっと迷ってるんだ」

『何人くらい行くのかな?』

「うーん…20人くらい?」

『全然来ないかもしれないけどな。まぁ、来なかったら寂しいかも』

「そうだね」

『頼みがあるんだけどさ、一緒に行かない?』

「……そうだな。…うん、どうしようか」

『なっ、行こうぜ!頼むよ、1人じゃ寂しいしさ』

「うーん、分かった。一緒に行こう」

『やった!あっ!でも、都合が悪いなら大丈夫だよ』

「いや、大丈夫。それより、同窓会楽しもう」

『うん。そうだな。ありがとな。じゃ、また今度』

「うん。また今度」

そう言って、電話の通話終了ボタンをピッと押す。

相談するつもりだったが、約束を取り付けることになった。

ヤスの強引なところは全然変わってないなと、ちょっとだけ苦笑いした。

しかし、変わらないところに安心感も覚えた。

「変わってないなぁ」

「レイに相談するべきだったのかもなぁ」

レイと言うのは僕の高校の頃の友達だ。昔はよく一緒に話をしたり、ふざけあったりした。

レイなら、優しく「嫌なら行かなくてもいいんじゃないかな」と言ってくれたと思う。

そうしたら、自分は行こうと思わなかったかも。

ヤスに電話を掛けたのは背中を押してほしかったからなのかもしれないなとも思った。

僕は大きく伸びをすると、クリームシチューのまろやかな香りが流れてきた。

「ちょっと手伝って、マサ」

「はいはい、分かった」

「お皿持っていってね」

「うん」

熱々のクリームシチューの入ったお皿を、1枚1枚丁寧に運ぶ。

食事の準備は着々と進行して、僕たち家族4人が全員そろってきた。

「じゃあ、いただきます!」

父がそう言うと僕らもそれを適当に復唱して、ガツガツとクリームシチューを口に運ぶ。

「このクリームシチューうまい!」

ニンジンは適度な柔らかさで、ジャガイモもホクホクして美味しい。

マイルドなシチューが絡みついて、食欲をそそる。

僕はペロリと料理をたいらげて、ごちそうさまと言ってから、自分の部屋に向かう。

この日は疲れていたのかぼんやりと時間を過ごして、ゆっくりとした眠りに入った。


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