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8.戦勝 ドロップアイテム

「ぜー! ぜー!」

 武雄は必死に喘いでいた。戦闘中は気づかなかったが、体が酸素を渇望していた。


『凄い威力でしょう? この剣にはチートな攻撃力があるのです。ゴブリン程度のザコは見ての通り、イチコロです』

 箱が誇らしげに言う。


 たぶん、普通の日本刀で斬っても、似たように結果になるぞ。武雄は思ったが、それを口にしないだけの分別はあった。


 武雄はよろめき、草の上に尻餅をつくと、大の字になった。聖剣は傍らに放ってある。不作法だが、どのみち、剣を清める懐紙もなかった。


「はー! はー!」

 全身が燃えるように熱かった。旅人の服は汗で重たくなっている。いや、汗だけではない。血も吸っている。


『ダメージを受けてしまいましたね。宿で寝ればHPヒットポイントを回復できます』

「……宿か。……宿ね」


 武雄はどうにか動けるようになると、旅人の服の袖を破って傷口を縛った。傷は細長い裂傷で、骨には達していない。

 だが、感染症に陥るかもしれない。ゴブリンの武器にどういう黴菌が付着しているのか分からないのだ。


 せめて、水があればいいのだが、近くで手に入るアテはなさそうだ。

 いざとなれば、自分の尿で洗浄する方法を考える必要がある。


 武雄は、傷口のチェックを終えると、グランフォゾムを拾って鞘に戻した。

「……自分が自分とは思えないほど、激しく戦っていた。こんな風に戦えるとは知らなかった」

 武雄は聖剣を抱えて言った。

『あなたは転生者ですからね』

「転生者だからか……」


 艱難辛苦は人を強くする。

 武雄は死という実に劇的なイベントを乗り越えて転生した。


 自分はもはや、うだつの上がらないニートではない。別格なのだ。

 自分はチートな能力を持つ超人スーパーインヒューマンとなりつつあるらしい。


「俺の目もずいぶん進化しているな。ゲシュタルト知覚も向上している気がする。自分の目とは思えない」

『素晴らしいことじゃないですか。冒険の役に立つことでしょう。心配なら、一度眼科の受診をお勧めします』

「分かった」


 武雄はゴブリンの死体を見下ろした。

 集中して視ているうちに、ゴブリンの落としたドロップアイテムが何なのか、頭に浮かんできた。


□             □

 錆びた鎧  9ケ

 手斧  9ケ

 腐った干し肉  4ケ

□             □


「便利なものだ。この視力……ゲームで言うところの、鑑定スキルみたいなものか?」

『鑑定というのは、古い陶器みたいものの価値を見極める能力のことを言います。今あなたがやっているのは、せいぜいチラ見しているだけですね』

「じゃあ、この能力はチラ見と呼ぼう」

 武雄は言った。


 ドロップアイテムが何なのか分かったところで、それが役に立つかとなると、話は別だった。


 ゴブリンの鎧は、人間にはサイズが合わなかった。


 ゴブリンのドロップしたウエポン、手斧をチラ見する。そのステータスが浮かび上がった。


□                            □

 『手斧』

 片手斧

 攻撃 60(スラッシュダメージ・パーカッションダメージ)

 特性 トマホーク(メレー → プロジェクタイル)

□                            □


 所詮は、モンスターの武器か。グランフォゾムと比べると、随分と攻撃力に劣る。持って行くにも、かさばる。


 腐った干し肉に至っては、触れる気にもならなかった。


 そもそも、ドロップアイテムがあっても、運ぶ手段がなかった。鞄や背嚢なんて持っていないし、いま着ている服にはポケットすら無いのだ。アイテムは両手に持つしか運ぶ手がない。つまり、インベントリがないのだ。


 武雄はアイテム回収を諦めた。


 武雄はゴブリンの死体へ目をやる。ゴブリンの死体は注視しても、何の情報も浮かんでこない。死体は死体でしかなく、何の役にも立たないと言うことか。


 しっかし、まあ、ゴブリンどもは死んでなお、おぞましい見た目であった。


「モンスターがいるとは……」

 武雄は嫌悪感も露わに言う。


『勿論いますよ。ダンジョン! ギルド! クエスト! ファンタジー世界にありそうなものは、みんな揃ってますよ』

 箱が明るい声で説明してくれる。

「そうか」

『あと、忘れちゃいけません! ハーレムもあります!』


「ハーレム」

 武雄はその単語を味わうように反芻した。


『ただのハーレムではありません! 奴隷ハーレムです!』

「……似たようなものじゃないのか?」

『似てませんよ。奴隷という言葉の背徳感にそそられるエロスというものがあるじゃないですか。これは奴隷ハーレムに没入して、イケないことやワルいことをする上で、最高のスパイスになるのです』


「なるほど」

 クラフト・キューブの説明に、武雄は頷いた。


 とはいうものの、武雄は、生まれてこの方、一切、異性にモテた経験がないため、何を期待するべきなのか、イメージできなかった。









 ……いや、本当にイメージできないのだろうか?

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