5.聖剣グランフォゾムのチュートリアル
次の瞬間、武雄の頭の中で動画が流れ始める。
武雄は息をのんだ。まるで、頭の中にテレビが出現したかのようだ。目で見る情報の他に、全く違う動画が目に映っているのだ。
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モノクロ動画の中で、聖剣グランフォゾムを持った男が、カメラに向けて深々と一礼する。武雄も思わず礼を返しそうになる。
男は羽織袴に、丁髷という出で立ち。男はサムライだった。
サムライが聖剣グランフォゾムを構えた。突きに特化した軽いグリップだ。左手は腰に当てている。横を向いて、右手の剣を突く。
左上にキャプションが出る。
『ステップ 壱』
大昔の無声映画のような、セカセカした動作で剣を突きまくった。
サムライは突きを続ける。突いては戻し、突いては戻すを繰り返す。
『ステップ 弐』
テキストショットのカットインが入る。
『この儀、忘れる事まかりならぬで候』
やがて、Finという文字が表示された。
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頭の中の動画は、始まった時と同じく唐突に終わった。
武雄はしばらく目を細めて、
「……凄いな。頭の中で動画が流れたぞ。どういう仕掛けなんだ?」
『あなたの頭の中にビジョンを送りました。あなたと私には魂の絆が存在するため、それを経由してこのような芸当が可能なのです』
「魂の絆が結ばれている? おまえと? そんなものを結ぶ申請もされてなければ、受理した記憶もないぞ?」
『あなたが死んでいる間に、いろいろ手続きを終えてあるのです。ご心配なく』
「大した手際だ」
武雄は言った。嫌みとも誉め言葉ともつかない声だった。
『さてさて、忘れないうちにチュートリアル通りの動きを練習してみてはどうでしょう?』
「別にいい」
武雄は剣を鞘に戻しながら言った。
「剣の使い方なら知っている」
武雄は子供の頃からかなり長いこと、近所の寺で和尚様から剣道の手ほどきを受けていた。ニートでクズの自分が、唯一、これはできるんだ、と誇れるのが剣道だった。人生で唯一、真面目に、精一杯成し遂げることができたことだった。
日本では剣道ができるからといって、ニートに何かが与えられることはなかった。この世界ではどうなのだろう?
その他、寺では抜刀術、柔術、忍者殺法を教えていたが、これらは性に合わなかったのか、長続きしなかった。果たして、異世界で日本の技能がどれほど役に立つのか分からない。
それでも、必要にかられれば、死んだ気になって戦うつもりだった。やすやす殺されるつもりはない。
武雄は聖剣グランフォゾムを見つめて、心に決めた。
『では、実戦を経験しましょう』
クラフト・キューブが言う。武雄は頷く。
クラフト・キューブがサイレンのようなアラート音を鳴らした。
『警告。敵対勢力が接近中。応戦の準備をしてください』
「敵対勢力?」
武雄は顔を上げる。
数メートル先に、魔物が立っていた。
魔物は燃える眼で武雄を睨むと、猛々しい咆吼を放った。