3.箱型美少女ヒロイン
武雄の背後に、箱があった。
一辺一メートル程度の、黒い箱が草むらの真ん中に鎮座している。
石のような質感の表面が、弱々しく二つの月の光を反射していた。
その表面には、箱根の寄せ木細工を思わす、複雑な紋様が描かれていた。こんなものが置いてあって、今まで気づかなかったのが驚きである。
それにしても、怪しい箱だ。宝箱だろうか。それとも、アイテムそのものなのだろうか。
武雄は疑義を顔に浮かべ、恐る恐る箱に近づいた。用心深い手つきで手を伸ばし、箱に触れる。その表面は、ひどくヒンヤリとしていた。
「何だこりゃ……? 分からん」
武雄は呟きながら、表面を撫でた。
『きゃ。くすぐったい』
甲高い声が上がった。
「……きっと空耳だな」
武雄は自分に言い聞かせるように言った。箱を注意して観察していると、箱の下の方に細長い溝があるのに気づいた。
何か、スロットのような溝だ。
武雄は屈み込んで、その溝というか、割れ目に指を差し込んでみた。
『いやん。エッチ。変態』
箱が悲鳴を上げる。武雄は、勢いよく飛び退いた。
荒い息を立てながら、箱を睨む。だが、箱は沈黙したままだった。
気色が悪い。箱が喋っている気がする。武雄は立ち上がり、眉間に深い皺を刻んだ。
いや……箱が喋るだなんてあり得ない。これは、幻聴なのだろうか。自分は、異世界転生のショックでイカれ始めているのか。
「……俺は、頭がおかしくなったのかもしれない」
武雄は呻いた。
『それは大変です』
箱が応じて言った。
武雄は目を剥く。箱は構わず続けた。
『適切な防御を行い、更なるダメージをふせぎましょう』
十代前半の少女を思わす、高く弾む声だった。
武雄は胡散臭そうな顔つきで、この喋る箱を見下ろしていた。
と、箱の下の、疑惑の割れ目から、何かが出てくるのに気づく。何か薄くて、細長い物だ。
スロットから出てくる、薄っぺらいものから、武雄はカードか、チケットのようなものを連想した。
だが、違った。箱から出てきているのは、そんな小さなものではなかった。物体はどんどん出て来る。
最終的に長さ一メートル近い細長い物体が箱から突き出す形となった。
箱から出てきたもの、それは剣だった。
『聖剣グランフォゾムです』
箱は言った。