27.早くもハーレムに一人目参入の予感!?
「×××××! ×××××?」
「××××! ××××××!」
武雄が名を聞いた後、村長は武雄を前にして傍らの男と協議を始めた。
村長と傍らの太った男が、武雄を横目で見ながら、知らない言語でヒソヒソと言葉を交える。
武雄は、太った男を観察した。
その太った男も村長に負けず劣らず、立派な服装をしていた。
また、太っていることは、豊かさの象徴でもあるだろう。
文明レベルが十分に発展していないナイドラメアでは、権力や富を持っている人間と、そうでない人間が、一目で区別できた。
男はギラギラした腫れぼったい眼をしていて、顎がたるんでいた。頭頂部が禿げていて、凄い福耳をしている。マフィア映画に出てきそうな、ふてぶてしい面と貫禄を備えている。ウォナガン村長よりも、よっぽど偉そうな態度であった。
その声は妙に掠れていた。首回りに脂肪が付きすぎて、声帯を圧迫しているのだろうか。
「×××××。×××××」
「××××。××××××」
「おい。内緒話は嫌いだ。おまえらを除く全員がな。ブラヒジェン語で喋んな」
武雄は不機嫌な声で告げた。
「も、勿論でございます、タケオ様」
村長は、慌てて何度も頭を下げる。
「×××××」
太った男は、にやりと笑って何事か言い捨てると、その場を去っていった。
武雄は男の正体が気になったが、村長が話しかけてきたので、そちらに集中せざるをえなかった。
「タケオ様、卑しい山賊を退治して、村を救っていただきました。我ら、フロンティカ村の村人一同、タケオ様に命を救われたようなものです」
「なに、大したことではない」
「できる限りの恩返しをさせていただきたく存じます。何か、お求めのものはございませんでしょうか?」
……欲しいものか。
欲しいものは決まっている。
「では、横になれる場所はあるか。少し疲れた」
「勿論でございます。わたくしの屋敷は村の中央にございまして……」
村長は自慢げに口を開いたが、その言葉は尻すぼみになって消えた。
村長は武雄の頭の上から爪先までを見やる。視線が何往復かした後で、村長が難しい顔になった。
まるで、血まみれ泥まみれの武雄を自分の屋敷に入れるべきかどうか、思案しているような顔つきだった。
やがて、ウォナガン村長は悲しげに首を振った。
「わたくしは、村長として、自分の財産は全て村のために捧げて参りました。おかげでわたくしの生活は酷くつつましいものでございます。そのため、わたくしの屋敷には、タケオ様のような方をお泊めするのに、適した客間が無いのでございます。残念極まります」
村長は無念がって、はらはらと涙をこぼした。
「客間でなくて構わない。屋根さえあれば、納屋とかでも構わないが」
「そのようなスペースは一切ございません」
「そうか。そりゃ残念だ」
武雄は低い声で言った
村長の屋敷に、武雄一人を泊めるスペースがない?
本当なのだろうか。
賊から村を守ってくれるのは大歓迎だが、どこの馬の骨とも分からない流れ者を家には入れたくない。そんな意図が見え隠れしそうな台詞じゃないか。
何にせよ、体力を回復しなければ、まずい。
酷くダメージを蓄積してしまっている。
何としても、傷の手当てと、休養が必要だった。
「じゃあ、村長の家じゃなくて構わない。誰か、一夜の屋根を客人に提供してくれる者、分かち合えるパンを持っている者はいないのか?」
武雄は尋ねた。
ウォナガン村長は瞬時に泣き止むと、黒目の大きなブタのような眼を光らせて、村人たちを見回した。
それが、ぴたりと止まる。村長が見つめていたのは、武雄にハンカチを差し出した、金髪の女性だった。
「タケオ様、この女はティーゲルと申す者です」
村長が女性を指して、声を張り上げる。
「こんな田舎のババアではございますが、フロンティカ村の一員として、客人のもてなし方は心得ているはずです。今宵、タケオ様と一夜をともにして、ベッドの中、その身体でもってタケオ様を悦ばせることでしょう」
「は?」
「へ?」
この言葉には、武雄が驚く以上に女性を驚愕せたらしい。
二人は異口同音に驚きの声を上げた。
村長は構わず続ける。
「文化的な奴隷ハーレムもない、辺鄙な村でございますが、なればこそ普段と異なった趣向を試してみるのも一興というもの。村の乙女と、ゆきずりの関係となってみるのもアリだと思いますが、いかがでしょう?」
「ちょっと待った……」
武雄は思わず呻いた。
ついていけない。
この村長、マジで言っているのか?
武雄は村長の顔をまじまじと見つめる。
村長は真顔に見えた。
ナイドラメアには、そんな習慣があるのだろうか?
その、つまり……通りすがりの旅人に……村の女をあてがうような……?
よほど隔絶された地にあるコミュニティなら、共同体維持のために、外の血を入れる必要があるのかもしれない。
それに、ナイドラメアは、奴隷ハーレムなんてものが公然と存在するらしき世界だ。日本のモラルや常識が通用すると思う方が間違っている。
……だとしても、あまりに急な展開である。
武雄にとって、異性にモテたり、ねんごろな仲になっていただくというのは、非常にデリケートな問題でもあった。
もう少しムードとか考えて提案して欲しかった。
衆人環視の村の通りというのは、こういう話をするのに最適な場所なのか、ちょっと分からない。
武雄の心臓は早鐘のように打っている。
それを自覚しながら、武雄は、村長の提案にどう返答しようか頭を捻った。




