22.必殺技 メガ・クラッシャー
耳が完全に麻痺していた。
全てが、異常にくぐもった低音に支配されている。
嵐のように轟く低音は自分の心臓の音だろうか。
武雄は首を巡らす。俺は……どこで……何をしているんだったっけな……。
自分が、息をしていないことを思い出した。意識して口を開いて空気を吸い込んだ。途端に、全身で痛みが爆発する。
俺は戦っている……誰と?
視界は真っ白であった。空気が粉塵で煙っている。
目の前に壁があった。手を伸ばす。
それは壁ではなかった。路面だ。
身を起こそうと四つん這いになる。滴り落ちる血が路面に花開いた。
武雄は全身に力を込める。どうにかして起き上がろうとする。
俺は……生きている。
まだ……戦えるのか?
全身が痛んでいた。目を動かすと、自分の体が目に入ってくる。
長い敷石の破片が、ふくらはぎに深々と突き刺さっているのが見えた。
今、分かる深手はこれだけだ。細かい傷は数え切れないだろう。
出し抜けに、聴覚が戻った。
粉砕された路面の石が落下する、パラパラという音が聞こえる。それは雨音そっくりだった。
粉塵も晴れようとしていた。
周囲の家屋のガラスは全て割れ、敵の必殺技が着弾した地面にはクレーターができている。
敵は……どこへ行った?
武雄は敵の姿を探す。
恐ろしいほどの巨漢が、どこかへ消えてしまっていた。
そのとき、路面に空いたクレーターの中で立ち上がる影があった。
影はクレーターの中から、のっしのっしと身を揺らして登ってくる。
敵が来る……戦わねば。
武器は?
剣は? 聖剣グランフォゾムは?
必死になって探そうとするが、体はのろのろとしか動かない。
ガガバルがクレーターを登り切る。必殺技を放ったことで、敵の姿は変貌していた。
髪は逆立ち、全身の筋肉が発赤して、隆起している。ハンマーは、もうもうと白い煙を立てていた。
およそ人間には見えなかった。悪夢から出てきた何かに見える。
くそ、聖剣グランフォゾムはどこだ?
武雄は必死に眼を巡らせる。
聖剣は、力なく路面に転がっていた。
それは、ガガバルと武雄の中間の地点にあった。
聖剣を取り戻さねば……!
「ふっ!」
武雄は気炎を上げて立ち上がろうとする。
だが、武雄は立つのに四苦八苦している間に、ガガバルは聖剣に歩み寄ると、それを蹴飛ばした。
聖剣は路面をスピンして、道の側溝の中へと消えた。
グランフォゾムは武雄の手の届かない所へとやられてしまった。
武雄の武器はなくなった。
武雄は側溝へダッシュしようとする。だが、直後にガガバルの太い脚が武雄を蹴り倒した。
武雄はなすすべもなく路面を転がる。
「くそ」
武雄はしわがれた声で毒づいた。
「ここまでだな」
地面に這いつくばる武雄を見下ろしながらガガバルが言った。
武雄は血走った眼で敵を睨み付ける。
ガガバルは途轍もなく巨大で、力に溢れ、勝ち誇っていた。
直ちに止めを刺してこないということは、なぶり殺そうというわけだろうか。ガガバルとしては腕一本壊された敵だ。あっさり殺しては収まらないということだろう。
武器を失った武雄は、どうすることもできない。勝負はあった。
だが、何もできずに殺されるわけにはいかない。
闘争をやめてたまるか。闘争をやめてたまるか。闘争をやめてたまるか。
自分にそう言い聞かせながら、どうにかチャンスを探そうとする。
「いい武器のおかげで、少しはこのガガバル様を楽しませてくれた。だが、貴様自体はクズだ。武器がなければ、このザマよ。ガッハッハッハ!」
ガガバルは高笑いしながら、節くれだった指を武雄に伸ばしてくる。
……武器は本当にないのか?




