20.ボス山賊の登場!
武雄は恐怖に身震いしたのではなかった。
武雄は、嫌悪感に耐えきれなかったのだ。
「つまり、あれか。おまえ達はあれだな。悪い奴か」
武雄は言った。
周囲の山賊どもは、武雄の台詞にうまい言葉で反応できなかった。彼らは口をぽかんと開けて、お互い、目を見合わせている。
武雄は構わず、暗い声で続ける。
「止むに止まれない理由があれば、情状酌量の余地もあるだろうが、おまえ達は違うな。おまえ達は無法者であることを誇り、盗むことを楽しんでいる」
武雄は言いながら息を吐き、全身を弛緩させる。
「世を腐った方、腐った方へ持って行く……それが、おまえ達だ!」
武雄の手が、残像も残さず動いた。
ダガーを突きつけられているおかげで、背後の山賊の位置は丸分かりだった。
聖剣グランフォゾムが一閃する。山賊の首が、ぽんっ、と跳ねとんだ。シャンパンのコルクの抜く感じに似ていた。
山賊の首が、イヤらしい表情そのままに宙を舞う。
武雄は剣道と比べると、居合いを得意としていなかったが、聖剣グランフォゾムの性能がそれを補ってくれた。
武雄は首のなくなった男の身体を蹴り飛ばした。
さらに間をおかず、この先制攻撃に呆然としている手前の山賊を一人、斬って捨てた。
「おまえたちに楯突くのが問題だというのは理解した。だが、この世界に、損得を考えずに正義を遂行できうる存在が降臨してしまったのが、おまえ達の運の尽きだな。さあ、正義の時間だぜ。悪事の代償を払う時が来たんだ」
武雄は声を低くして言いながら、聖剣グランフォゾムを構えた。
唐突な暴力に、硬直していた山賊どもが我に返ると、
「黙れ、ど三一!」
山賊どもは血相を変えて、突進してきた。
周囲から一斉に襲いかかってくるのは、武雄にとって都合がよかった。
武雄はニヤリと笑う。
右手の聖剣グランフォゾムが鳴いて、オーラを迸らせるのを肌で感じていた。
武雄の眼には、刃を走らせるべき完璧な道筋も見えていた。
「回転斬り!」
腰を落とし、足を広げ、剣に体を従わせる。ぐるり、と視界が360度回転する。
剣風が方々で湿った音をたてた。山賊どもの首が胴体から切り落とされた音だった。
あまりに呆気ない手応えだった。
山賊どもの体は突進していた運動エネルギーをそのままに、ヘッドスライディングするような形で武雄の足下まで滑ってきた。そこで首の切断面から、盛大に鮮血をぶちまけた。
山賊どもの首は、ビーチボールのように軽やかに地面を転がった。
武雄はただの一太刀で、十人もの山賊の首をはねたのだ。
村の中の誰もが凍り付いた。
今の今まで、村人と山賊がチマチマと斬り合っていたのだ。お互い、得物は農具や手斧、あるいは棍棒だった。
そこへ、降って湧いたように聖剣をひらめかせた若い男が現れ、瞬時に十人を越える山賊を成敗したのだ。
この場にそぐわない、圧倒的な戦力。
ショックで戦場は凍結した。
村人も、山賊も、口をあんぐりと開けたまま、フリーズしてしまった。
そんな中、動く者があった。のっしのっしと巨漢がこちらへ歩いてくる。
山賊の頭領であった。
頭領は二メートルを軽く超える身の上から武雄を見下ろし、笑う。
「ガッハッハッハ! いよいよもって面白い奴だ!」
山賊どもは総じて逞しい者が多いが、こいつは別格も別格だ。
全身の筋肉が極度に盛り上がっている。二の腕の筋肉など、武雄の胴体を四つ纏めたくらいの太さがあるだろう。
世間のボディビルダーが蒼くなって逃げ出しそうな体つきだ。ステロイドでもやっているのだろうか。
「滅槌のガガバルだ」
巨漢が言った。
「おまえの名か?」
「そうだ」
「格好いいニックネームじゃないか」
「本名だよ」
男は乱杭歯を剥いて唸った。
ガガバルは大槌を握っている。巨漢の身体との対比で、小さなトンカチに見えるが、並の人間では持ち上げるのがやっとの重さだろう。
日曜大工の道具でないというのは、ハンマーについた血と肉片が証明している。
とてつもない圧迫感だった。
だが、武雄はノッている。負ける気はしなかった。
むきむきした筋肉というのは、世間じゃえらく買いかぶられているが、こっちにはチートな聖剣と剣術があるのだ。
武雄は腰を落とし、剣の切っ先を背後の地面に向ける。
いわゆる剣道の脇構えであった。
そして、滅槌のガガバルを迎え撃った。




