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2.異世界に転生してしまった!

 武雄は寝転んだまま目を見開き、眼球をゆっくりと巡らせた。

 そうして、信じがたい光景を、どうにかして解釈しようとしていた。



 空気は暖かく、そして、信じられないほど澄んでいた。窒素酸化物にもフレオン・ガスにも放射性物質にも毒されていない空気だった。


 そして、ラズベリー色の空。空は信じられないほど広くて、吸い込まれそうだった。

 遙か上空の成層圏あたりを、ドラゴンとしか思えない生き物が飛翔している。


 地平線へと目をやれば、島が空中に浮遊しているのが見える。あまりに距離があるためだろうか、それは霞んで見えた。もしかしたら蜃気楼かもしれない。


 辺りには、一面草原が広がっていた。黄金色に輝く草は、遠目には小麦畑に見えるが、麦穂のようなものは実っていなかった。草は羊毛のように柔らかく、寝転ぶ武雄の身体を受け止めている。


 草原の上を蝶が踊るように舞っていた。幻想的な光景である。

 地平線の果てまで、そんな光景が広がっていた。起伏の多い草原の上に、動く人影や動物の姿はなかった。蝶が舞うばかりだ。その蝶も、針金のようなフレームに、ステンドガラスのような羽根を持った、不思議な蝶だった。



 どう見ても異世界だった。何か、想像を絶する理由で、異世界に転生してしまったのだ。



 武雄は転生後、記念すべき第一声を発した。

「くそっ」

 武雄は、しわがれた声で毒づき、激しく咳をした。


 転生してしまうとは、まったく信じられなかった。


 脱法ハーブでも吸引してラリって、幻覚を見ていると思いたいところだが、そういうわけでもないようだ。現実逃避をしても仕方がない。今は、転生してしまった事実を直視する他なかった。



 武雄は、インターネットの大手小説投稿サイトで異世界転生トリップ物のファンタジーを読んだことがあった。

 クソつまらないという感想しか抱かなかったが、まさか、そんな自分が転生してしまうとは……。


 武雄は拳を握りしめた。


 人間、想像可能なことは実現可能だと、かのアインシュタインが言っていた。だからこそ、人間が想像する転生は現実に起こりえる現象というわけであろうか。


「ちくしょう」

 武雄は転生後、記念すべき第二声を発した。



 武雄は立ち上がる。目眩を起こしてふらつくが、それも束の間の事だった。武雄は自分の姿を確認する。


 武雄が今着ているのは、麻の粗末な服だった。死ぬ前に着ていてたジャージはなくなっていた。トラックに激突された際に破けてしまったせいかもしれない。


 着ているのは、酷く地味な色合いの、黄土色のシャツに灰色のズボンだった。縄の帯で腰を結っている。パンツがないため、やけに股間がすうすうすうすうして落ち着かなかった。ズボンは丈が足りず、脛が突き出ている。ポケットもなかった。


 足には革の靴を履いていて、くるぶしの所で縄を巻いていた。ソールもヒールも鳩目も靴紐もベロもない、粗末な靴だった。


 着ている服を見つめているうちに、これが『旅人の服』であることが分かった。


 なぜか、分かった。更に、旅人の服の耐久力や防御力まで分かってくる。

 まるで、火が燃える物であり、水が流れる物であることを知っているように、分かったのだ。



□          □

 体:『旅人の服』

 分類:ライトアーマー

 防御:5

 重量:0


 足:『皮の靴』

□          □



 武雄は呻いた。死んで、異世界に蘇った上に、ものを見ているだけで、その名称やステータスまで頭に浮かんでくる。自分自身の知覚が変化しているようだ。


 何がどうなっているのか、さっぱり分からなかった。

 あまりに突飛な展開に、ついていけない。パニックに陥りそうである。


 誰か、現状を説明してくれないものか。武雄は、険しい顔つきで、周囲を探る。


 武雄を転生させた神か何かが出てきて、説明してくれてもいい。神様が親切に説明してくれれば、神仙崇拝の念も湧こうというものだ。武雄は神を探して、辺りを見回した。



 神は見当たらなかった。代わりに箱を見つけた。




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