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異世界転生者のダンジョン闘争記(コンバットDT)  作者: ツングー正法
2章 通りすがりの転生者が、よこしまな山賊を成敗して、村を救う話
18/31

18.転生者として果たすべき責務

 自分は今まで、人生の岐路で多くの失敗を犯してきた。

 やるべき事をやらずに後悔してきた。





 どこか暗い世界のことを思い出す。

 無明の夜、スマホの液晶画面が唯一の光だった。

 トラックの咆吼が耳に轟き渡る。

 恐るべき衝撃が体を引き裂く。

 その痛み。

 喪失感。

 死。





 武雄は目を開け、弾けるように立ち上がる。

 聖剣グランフォゾムの鞘を握りしめる。拳の血管が浮かび上がった。


 感情が沸き上がる。

 そして、自分の感じているものを否定する根拠もなかった。


「村が悪者に襲われている、この光景を見ながら、黙って立ち去ると言うことの意味を考えてみろよ!」

 武雄は語気も荒く言った。


『……人道主義に目覚めましたか? でも、この村を山賊から救ったからといって、貴方の努力に報いてくれるでしょうか? お礼に、値打ちのあるアイテムをくれるとは限りませんし、ハーレムに加えるほどの美女や美少女が待っているとも限りませんよ?』


「いいんだよ、そんなの。重要なのはな……ダンジョンだの、ギルドだの、ハーレムだの考える前に、人として果たすべき責務があるんじゃないのか? 俺は、今、この光景を見て、ムカついているんだ!」


 武雄の声はひび割れ、裏返り、自分のものとは思えなかった。


 その、誰のものとも分からない声で、武雄は続ける。

「日本では胸の悪くなる光景を目にしても、目を逸らすしかなかった。世が腐っていても、正すことは、まかりなかった。でも、ここでは違う! ここでは、多少、物事がシンプルなようだな!」


『虚飾も遠慮も無しに、生きるつもりですか?』

「これは俺のセカンド・チャンスだ。一度目の失敗を繰り返すのは、愚かすぎるだろう? 一度目の世界で、俺はニートだった。クズでゲスな人間だった。誰からも、まるで必要とされていなかった」


 武雄の目に炎が宿る。日本でニートをしていた頃には、決して燃えたことのない炎であった。


「同じ間違いはしない。決して! 俺は決めた!」

『素晴らしい覚悟ですが……命をかける程のものなのでしょうか?』


「俺はチートな戦闘力を持っているんだろ!?」

『そりゃ……持っていますよ』


 武雄は、発作的な鋭い笑い声を上げた。

「じゃあ、何をビビる必要があんだよ!」


 箱は返事をしなかった。

 が、武雄は、箱が肩をすくめたような気がした。


血族イエに伝へし勲を刻むが為の暁来たり、クローズ!」

 武雄はクラフト・キューブを腕輪型に収縮するための呪文を思い出して、唱えた。

 箱が折り畳まれて、腕輪になる。武雄はそれを装着して、走り出した。


「闘争しようぜ!」

 武雄は怒鳴りながら、谷を駆け下りていく。

 岩を蹴って、ほとんど自由落下と言っていい勢いで眼下の村へ迫っていく。





 村は荒れ果てている。火をかけられた民家が盛んに燃えている。

 のみならず、オレンジ色の爆炎があがって、教会らしき尖塔が崩壊した。


 村のあちこちで、村人が鍬や鉈で必死に防戦している。だが、攻め入る逞しい山賊相手に不利であることは一目瞭然だった。非戦闘民である女子供は、悲鳴を上げて狼狽える他ない。


 村の通りで、一人の女性が数人の山賊に囲まれて、絶体絶命のピンチに陥っているのが見えた。それを助ける余力のある村人もいない。


 村人の誰もが、悲壮に顔を歪め、どうにか生き延びようと足掻いていた。





 そんな狂乱を余所に、武雄は村に悠然と歩み入る。

 まるで別世界からやってきたかのように超然とした態度だった。


 村人と山賊は、徐々に斬り合いを停止していき、この異様な闖入者に目を奪われた。


「なんだおまえ……」

 山賊の一人が問う。


「通りすがりの勇者様だよ」

 武雄は笑って名乗った。


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