17.響き渡る略奪の音色
「お、始まったか」
それまで、立ち樹の枝に風がザワめきわたる音が聞こえるだけだった。それが、今やひどく騒がしいことになっていた。
鐘がヒステリックに鳴らされている。
眼下の村から煙が上がる。炊事の煙とは違う、黒い煙だった。そして、様々なものの燃える不快な匂いがここまで漂ってくる。
日本にいた頃は、テレビをつければ、余所の発展途上国における内戦の模様を見ることができた。
今見ているのは、テレビではない。実際に目と鼻の先の人里が、無法者に襲われ、略奪を受けているのだ。現在進行形で。
金属音が間歇的にあがっていた。
武雄は、初め、これも鐘や銅鑼のような、警戒を促す信号だと思った。が、違った。信号にしては、生々しすぎる。
これは、武器がぶつかり合う音なのだ。
斬り合いの金属音が甲高く、幾重にもこだましている。
つまり、村で村人と、あの山賊どもが殺し合いをしているのだ。
そう、これは、戦闘音楽だ。
日本にいた頃、武雄に剣道を教えてくれた和尚様から聴いた話を思い出す。
日が落ちると、お寺の講堂で、和尚様が戦時中での経験を子供たちに話して聞かせてくれたものだ。
金属と人肉と悲鳴の織りなす、不協和音が武雄の耳朶を打つ。
人と人の集団が殺し合う、戦闘音楽なんてものを実際に、この耳で聴くとなると感慨深かった。
村の人々が生涯かけて築いた財産と家庭が、山賊どもによって奪われ、壊され、焼かれようとしているのだ。
「正義は……ないのか」
ぽつりと呟かれた武雄の言葉は、あっさりと喧噪に打ち消されてしまう。
武雄の背中を、何だかよく分からない震えが走った。
どうしたものか。
なりゆきを見守るのが手だろう。
この世界ナイドラメアの人間が殺し合っているのに、わざわざ首を突っ込む必要もない。
介入すれば、戦いになるだろうし、そうすれば山賊は自分を殺そうとするだろう。
日本で育った自分に、他人と殺し合いなんてできるのだろうか?
生き延びたとしても、酷い深手を負うかもしれない。また、山賊どもの恨みをかって、命を狙われ続けるかもしれない。
リスクが大きい。
では、村を守ることで得られるのは何だ?
武雄は旅をしてきた。休養をとりたいし、十分な食べ物もほしい。
村を救えば、それは手に入る。村にショップがあれば、装備も調えられるだろう。
この村をやり過ごして、また別の、有るか無いか分からない人里を求めて冒険を続けるのは、なかなか辛そうだ。
それと、もう一つ、メリットを思いつく。
正義だ。
山賊を倒せば、村は救われる。
武雄は聖剣グランフォゾムへ目をやった。
そのために自分は山賊を斬れるか?
確かに、あの山賊どもは、殺した方が世の為、という手合いに見えた。
武雄はじわりと目を閉じ、座禅を組んだ。
瞑目しながら、武雄は呟く。
「リスクはあるな……リスクは……」