16.ダンジョンとは何ですか?
武雄は一団が峠をこえて見えなくなるまで睨んでいた。
……無法者か。
危うく山賊の野営地に飛び込んでしまうところだった。全く、油断ならない。
今見たことを解釈する為に、クラフト・キューブのもとに戻った。
「ナイドラメアの人間と接近遭遇してしまうところだった」
『接近遭遇? 他人に会うことを、そんな風に呼ぶ習慣があるのですか?』
クラフト・キューブが怪訝な声で言った。武雄は首を振る。
「山賊だったよ」
『ええ、この辺は多いですよ。人類社会の中央政府機関、神聖ハイラム帝国の治安維持能力が及んでいないのです。ちゃんと自衛してください』
「わかっているよ」
武雄は聖剣の柄を平手で叩いた。
「盗賊ギルドに属していると言っていた。ただのゴロツキではない感じだな?」
『ええ、盗賊ギルドとは、夜盗や山賊、海賊の同業者組合ですね。犯罪結社とも呼べます。盗み、強請り、タカり、脅迫、誘拐、暗殺、何でもござれです。ナイドラメアでも特に嫌われた集団に違いありません』
「敵に回すと厄介そうだな。やれやれ……。しかも、俺の目的地である村を襲うつもりときたもんだ……。くそ。異世界転生して、初めて会うのが、エルフの美女とかではなくて、見るからにバカで不潔な山賊の群れとは……。最高の相手じゃないか」
『あんなのがいいんですか? 不思議な性的趣向をお持ちで……』
「今のは、皮肉だ!」
武雄は怒鳴った。
「あと、連中はダンジョンが村の近くにあるとも言っていたな。ダンジョンとはどういうものなんだ?」
『世界の各所にダンジョンは存在すると言われています。内部は謎めいた迷宮となっていて、その闇の中にはモンスターが潜んでいることでしょう』
「モンスター? 物騒だな。なんで、そんなダンジョンを、山賊はありがたがるんだ?」
『モンスターが何を守っているか想像つきます?』
「……財宝とか?」
『大正解!』
「なんでモンスターが財宝を守るんだよ? モンスターも金を使って贅沢する習慣があるのか?」
『そこは、モンスターの生態に詳しい人に訊いていただくとしまして……』
クラフト・キューブは語尾を濁した。
ダンジョン。モンスター。財宝。
資本主義経済下で育った人間として、武雄は財宝やゼニが嫌いではなかった。異世界で生きるにしても、金は不可欠だろう。
ダンジョン。それを攻略することで一攫千金を狙えるわけか。
その一方で、ダンジョンとは、実に闘争の気配を感じさせる単語であった。
一筋縄で攻略することはできないだろう。