13.人里を求めて……
微かな道が続いている。だから、そちらへ行った。
出し抜けに森は終わる。森の反対側は、黄金の草原と似ても似つかない世界だった。
武雄は棒立ちになった。
途方もなく大きな谷が眼前に広まっている。
幅が何キロもあるだろう。基準となる尺度がないため、分からない。その周りは山だらけだった。鋭い山が天めがけてそびえ立っている。
空は驚くほど広く、心が寒くなるほど蒼かった。
周囲のいずれの山も森林限界を越えていて、黒い山肌が露わになっている。氷河にその身をえぐられた山も多かった。
山から吹き下ろす風は冷たい。
本格的な装備なしで近づける山ではない。武雄は低所を目指した。
ゆっくりと丘を越えて、谷間を降りた。足下は、どこも湿ったコケで覆われていた。
二、三度、山羊のものと思しい糞を見かけたが、動いている生物は見かけなかった。
谷間には小さな沼が沢山あった。木々の根は沼に浸かっていた。
足下には注意しなければならなかった。今の粗末な靴は信用ならない。凍傷で足の指が腐り落ちるのはゴメンだった。
厳しい自然。障害は多い。
だが、乗り越えてやる。
「今度は、俺を殺せないぞ」
武雄は歩きながら、噛みしめるように呟く。
前の世界のように殺されはしない。
川があった。渡河して横断するリスクは避け、沿って下流を目指す。
水が入手できるのはありがたい。
川の水をそのまま飲むことで、寄生虫をもらう恐れはあった。だが、炭がないので、濾過器を作る方法がなかった。水温から考え、リスクは少ないと見越して妥協する他ない。脱水の方が余程恐ろしかった。
川の流れに顔をつけて、水を飲んでいた武雄は、はっとして身を起こした。
目の前を木の板が流れていった。
「人里が近いな」
更に進むと、廃墟にぶつかった。
打ち捨てられて、随分経っている。いまにも崩れそうで、一夜の宿にする気にはならなかったが、武雄の旅を勢いづかせてくれた。
更に、木々に薪を採った痕を見つけた。
そして、ついに武雄は人里を見つけた。峠を越えたところで、谷底の真ん中に村を見たのだ。
煉瓦づくりの壁に、茅葺きの屋根という、中世の農村風の家々から煙が上がっている。炊事の煙だろう。
「さて、この世界ナイドラメアの人間が、友好的なのか、それとも俺のことを夕食として食べようとするのか、確かめるとするか」
武雄は呟いた。