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異世界転生者のダンジョン闘争記(コンバットDT)  作者: ツングー正法
2章 通りすがりの転生者が、よこしまな山賊を成敗して、村を救う話
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12.異世界の放浪者

 歩けども歩けども草原は続き、その上を蝶が踊っていた。

 唯一変化するのは、頭上で位置を変える二つの月だけだった。

 黄金の草原はどこまでも続いているように見えた。


 自分は前に進んでいるのだろうか。その場で足踏みをしているだけなのだろうか。

 さっぱり分からない。

 進んでいるにしても、環状彷徨に陥っているのかもしれないが、確かめる術もなかった。


 コンパスも地図もないのだ。

 コップと糸と磁石があれば、コンパスは作れる。だが、この世界ナイドラメアに磁気そのものがあるのかどうかも分からなかった。


 何度か野生モンスターとかち合った。


□                                □

 巨大なヘビのようなモンスター、『ヘビー・ヘビ』!

 締め付け攻撃を得意とする!


 ヒトの形をしたスライムのようなモンスター、『スライム・マン』!

 粘つく、イヤらしい攻撃をしてくる!

□                                □


 いずれも、大したことのない敵であった。

 大した経験でなかったので、大した経験値も溜まっていないことだろう。


 ゴブリンのように、徒党を組めばそれなりに荒っぽい真似をするのだろうが、数の少ないうちは脅威でもなんでもなかった。武雄はすでに実戦を経験した。命のやり取りを経ているのだ。簡単にやられはしない。


 スライム・マンは、倒すとアイテムをドロップした。


□             □

 スライム・フリンジ 1ケ 

□             □


 これは、なんだか胸くそ悪いアイテムであったので、武雄はその場に捨て置き、腐るに任せた。


 腕輪と化したクラフト・キューブは本当に機能を停止しているようで、惑いの言葉をかけて武雄を混乱させることもなかった。


 やがて、黄金の草原が尽きるところにまで来た。


 先には、森が広がっていた。鬱蒼たる森が。

 黒い幹に、クジャクの羽根のような鮮やかな青色の葉をまとった針葉樹が立ち並んでいる。


 迂回する理由もなかったので、武雄は森に入り込んだ。




 既に凄い距離を歩いているはずだったが、疲労らしい疲労も感じなかった。

 奇妙なほど歩き続けることができた。

 餓えや乾きも大した問題でなかった。


 クランベリーのような果物が、そこら中の茂みになっていた。

 武雄は用心しながら、口に入れてみた。痛みも苦みも感じない。


 数時間たって、体調に変化を感じなかったので、食べていくことに決めた。

 人体に必要な栄養が含まれているのか疑問だが、とりあえず腹に入るものは入れていくべきだろう。


 周囲の茂みを注視すると、強化された視覚が果物を拾い上げた。


□               □

 アナンタベリー 1273ケ

□               □


 便利なものだ。


 水の方の問題はなかった。喉が渇けば、岩と岩の隙間を流れる清水を飲むことができた。


 何の問題もなかった。

 この不思議な異世界で飢えることも乾くこともない。寄せる魔物も討ち果たす力がある。


 道もない森で、聖剣グランフォゾムをふるって下生えを払い、歩き続けた。

 全ては順調だった。




 それでいながら、どうしようもなく不安になってくる。

 自分はこの世界に属している存在ではない。言うなれば、紛れ込んだ異物だ。

 かといって、自分に帰る場所もない。自分はトラックに挽かれて、日本を永久に退場した。


 自分は死人なのだ。それが、こんな所で何をやっているのだろう。

 ファンタジーな世界で剣を与えられて、旅をして……。


 全ては夢のようなものなのだろうか。


 トラックに挽きつぶされる寸前、ほんの一瞬の間に見ている、長い長い長い長い夢なのだろうか。


 考えるとキリがない。

 そして、結論が出ないことは自分でも分かっていた。




 一つ、重大な疑問が浮かび上がってくる。


 異世界転生のショックに人の精神はもつのだろうか?

 いま、心に浮かぶ不安感は、精神崩落の序章か?

 死を経て転生した自分を、自分たらしめるのは何だ?



 俺は……何なのだ?



 やがては、考えなくなった。


 発狂するまで自問自答するつもりはない。

 トラックに挽かれたこととて、全ては、遠くの別世界のことだ。いま、集中すべきは歩くこと。そして、生き延びることだ。

 いずれは結論を出さなければならない問題だが、ひとまずは忘れなければならない。




 暗くなってきたが、灯りは必要なかった。

 月が出ていた。それも、二つも出ていた。その明かりで歩き続けることができた。


 神経を常に張りつめている必要があったが、頭はぼんやりした。

 自分はどこへ行くのだろう。分からない。全く分からない。




 惚けていてはダメだ。

 現状に集中させてくれるものがあった。それは、痛みだった。


 出し抜けに、武雄はゴブリンに斬られた肩を掴む。

「うおっ!」

 ハゲタカに鋭い嘴で傷口をついばまれたような痛みが爆発して、思わず声が漏れた。


 痛みはいい。強烈な自覚が沸き起こる。


 俺は生きている! 俺はここにいる!

 何の価値もなく、排除されてたまるか!




 自分の中で何かがせき立て、歩き続けるよう駆り立てた。

 何かが言うのだ。


 歩け! 進め!


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