10.箱に見捨てられた武雄
モテるモテないは別にして、自分の身なりが酷いのは否定しようがない。
これは、どうにかしなければ。人里に近づいた際に物乞いや無宿人と思われて、トラブルを招きたくはなかった。
早くショップを見つけて、装備を整えたかった。
武雄は、何気なくクラフト・キューブの方に目をやる。
こちらも、戦闘中にゴブリンの血をぶちまけられて、酷く汚れていた。
クラフト・キューブも武雄の視線から、言わんとしていることに気づいたようだ。
アラート音をかき鳴らした。
『警告。ルックス40%低下。至急、クラフト・キューブを清掃してください。今すぐ!』
「信じてくれ。箱のルックスなんて、誰も興味ない」
武雄が言うと、箱はあからさまに不機嫌になった。
『ぐぬぬ……。毒舌転生者様ですね。レディ相手にデリバリーのない言葉しか吐けないと、死ぬまで童貞ですよ』
「余計なお世話だ。あと、デリバリーって何だ。それを言うならデリカッセンだろう」
武雄が誤りを指摘すると、箱は忌々しげに口を閉ざした。
だが、すぐに別の方向から文句を言ってくる。
『それから、話変わりますけど、チュートリアルにない動きをされても困ります。ちゃんと習った動きだけしてください』
「知ったことか」
武雄は吐き捨てるように言った。
実戦で型は役に立たない。これは、剣道の試合ではない。明らかに異なっている。真の闘争だ。
生存を継続するため、あらゆる手をつくさねばならない。
僅かな軽挙妄動で、草の上に頃上がる死体は、武雄となるだろう。
『何が回転斬りですか。センスの欠片もないネーミング、信じられない』
クラフト・キューブは、なおもブツブツ言っている。
「おい、この世界の詳しい仕組みを教えてくれ。政体は? 宗教は? 大まかな歴史も知りたい」
武雄の問いに対して、クラフト・キューブはふてくされたようなブザー音で応じた。
『エラー401。……塩。味噌。醤油。豚骨』
「教えてくれないのか? サポートしてくれる箱なんだろ?」
『私、はっきり言って貴方のことムカついたんで、サポートやめます。勝手に野たれ死んでください。ふんっ!』
ぷんすかしながら箱は言った。
武雄は見捨てられてしまったのである。
困った。
口は災いの元とはよく言ったものだ。