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番外編 九月の雪

今回はオカルト色は極薄でございます。おやつ的な回としてお楽しみください。


挿絵(By みてみん)

 


 今年は秋の訪れが早い。

 セミの声が途絶えたと思ったら空が高くなって夕方から涼やかな風が吹き、早朝は開けっ放しの窓から入る冷風に目を覚まされる……

 ここ数年、こんな秋らしい秋、九月らしい九月を迎えた覚えがない。ウエルカム、日本の秋。

 そんな平和なわが家に、突如訪れた異変とは……


 珍しく平和な日常が続くわがオカルトハウスを、オカルトハウスらしい怪異が見舞ったのは、九月のある昼下がりのことだった。


 うちには元気が取り柄の三毛にゃんこシスターズがいる。

 絵にかいたような美貌のミケがすずちゃん、

 ルネサンスの名画の裸婦のようにポッテリとしたおなかが自慢の縞三毛がすみれちゃん。

 その日も、勝手にテンション上げて家中を走り回る「狩りタイム」が訪れて、どたばたと二匹が走り回ってると思ったら、急に足音がやんでシーン……

 おやおや?

 正直、こういう時はたいていろくなことがない。部屋を出て廊下に出たら。

 あら、まあ。

 あたり一面雪景色。

 秋だというのに、室内にまんべんなく白いものが降り積もっている。室内に振りしきった九月の雪。吹き溜まりもあちこちに。


 ………な、はずがない。

 小麦粉じゃない。もっと粒粒が大きい。洗濯洗剤の箱を食い破ってくわえて走りまわった?いや、においがしない。

 これは。この自己主張の激しい極小のつぶつぶは……

 あの手触りのいい、圧力の分沈み込むようなクッションとか、まくらの中にパンパンに入っているあの……


 パウダービーズだあああっ!


 わかったとたん、あまりの惨状に全身から汗が吹き出した。このビーズどもめは、静電気を帯びて空気がそよぐたびにふわふわ移動して、足につくわ壁につくわ服につくわ、どうにも手におえない。それがまさか家中に?

 元凶はどこ? とうろうろしてるうちスリッパもビーズだらけになってゆく。

 そしてみつけたのは、すっかりしぼんだ大きな蛇のぬいぐるみだった。

 ピンクと緑のねじねじ蛇。それが、あちこち食い破られて、キッチンのシンク前におちている。……

 これ、確か、娘の誕生日か何かに買ったような……

 風を通すためドアを開けていた娘の部屋の、(今は家を出ています)棚の上にあったぬいぐるみを、あほ猫二匹が引っ張り出してくわえて振り回してぶち撒いたと。

 てことは、二階は?


 ……惨憺たる有様だった。

 わが家は、一階の床はほとんど総タイルなのだが、階段から上はじゅうたん敷きで、それがまんべんなくビーズにやられて積雪状態なのだ。二階の廊下も、娘の部屋も!

 ベッドの上も机の上も、そして不快そうにベッドに丸くなってるあほ猫どもの顔も体も……

 つぶつぶつぶ。つぶつぶ、つぶつぶ。

 見とれてる場合じゃないっ!

 これは、戦うしかない。ありとあらゆるツールを使って。

 武器はほうきとダスキンモップところころ粘着テープとハンディ掃除機。

 そのすべての本体にビーズが静電気で張り付いてきやがる。ふわふわほろほろ、ほうきとダスキンは逆にまとわりつかれてビーズだらけに。

 きりがない……しかも、静電気を帯びてビーズを全身にまとった猫がうろうろと移動するんで、もう、もう、あああああ!

 マンガみたいに額から汗を垂らし、不可能を可能にすべく、ありとあらゆるものの上に降り積もった粉雪と戦うこと時四時間余り。あほ猫にご飯をやる暇もなく、戦いは続いた。

 そのつけはすぐにやってきた。

 ばりばりがさばさ、ぼりぼりガサガサバリバリといやな音が一階から。

 慌てて見に行ったらば、

 掃除用具を取り出すためにあけた物入れからくわえだしたキャットフード(ドライタイプ)の袋を、すずちゃんが食い破り、直接頭突っ込んで食い散らかしているではないか!

 きっ。とこちらを向いたその美しいお目目の瞳孔は、興奮のあまりたどんのようにおっぴらいてまっ黒なのだ。

 ドライフードの袋にはでかでかと「ねこ元気」

 普段なら、これはおいしいネタだと写真に撮る余裕もあるわたくしなのだが、あまりなことにただ呆然と薄笑いを浮かべるのみなのであった。

 戦って戦い抜くこと丸一日、何とか通常の姿に近いところまで持っていったのはもう夕暮れ。

 猫本体は、直接コロコロクリーナーでコロコロしてやったらシャーと激怒状態で、あとはもう押さえつけて「多少ぬれた手でなでなで、なでなで」を繰り返してとるしかなかった。

 いまだに毎日家のどこをコロコロしても、ビーズの粒粒がいくらでもついてくる。


 それにしても、気ままな飼い猫ほど手におえなく、また怪しい存在もない。

 犬と違ってしつけても学習能力がない。

 そのくせ甘えれば何でも済むと思っている。

 おまけに人間の飾らない素顔を愚痴と本音をすべて近くで聞いている。

 そして呆れたことに、猫に飼い慣らされた人間はなにをされても許すしかないのである。

 かくて猫は動物界で一番といっていいほど人間の衣食住すべてに割り込み、その仔細を観察し、忍耐と愛情の限りをためし、そしてその結果を……

 あの美しい目で見て繊細な機械である脳みそに記録し、あの耳からひそかに電波を出して、宇宙のどこかで待機している母船にデータを送り続けているのである!


 今日のI家における忍耐実験。

 パウダービーズ攻めにおいて、堪忍袋の尾は切れず。

 さらなる沸点を見極めるため、新たなディザスターを準備中……


 じゃ、ないといいんだけど。


 あな珍しくをかしき九月の雪ばなし、これにて完。


 挿絵(By みてみん)

「あー、楽しかった」



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