嵌め殺しの窓と憧憬
小説家は世界が文字のようにして読めるのだと思っていた。
音楽家は世界が音のようにして聞こえるのだと思っていた。
芸術家は……良く分からなかった。とにかく、私とは見えている物が違うのだと思っていた。
そして私の世界が光り輝く七色に飲み込まれていた。素敵な音の並に溢れていた。自分にしか感じ得ない特別に塗れていた。
そんな私は一体どんな人間になることができるのだろうと、とてもわくわくしていた。
人が全員、違った物の見方をするのだという事を、何故か私は物心付く前から理解できていたのだ。
だけど程なくして、私の見ている風景は特別でもなんでもないのだと気付いた。
私ははめ殺された窓のように、その呪いを受け止め続けるしかないのだと知った。
「一体私は何者になれるのだろう」
「一体君は何者になれるのだろう」
そんな囁きが日毎に私を苛んだ。
だから私は私を殺す『ハメゴロシノマド』をかち割る事にした。
案外素っ気なく、窓は罅割れた。
蜘蛛の巣状に入った罅が、世界をほんの少しだけ、特別に塗り替えた。
そしてこの日を境に、私はもう二度と戻れない『フツウ』に憧憬を抱き始めた。