表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ある夏の日

作者: むきりよく

ある夏の日。幼馴染の男が急にこう言った。

「お前まだ霊とか見えたり話せたりする?」



「は?」

「だからさ、」

「いや、皆まで言うな」

「話が早いな。じゃあ早速」

「いやいや待て待て」

「なんだよ」

「理由を述べよ」

「何文字以内?」

「10文字以内」

「あいつに惚れたから」

「はぁ?」

「理由も言ったし、ほら行くぞ」

「な、おい!!!」



何が悲しくて男に手を引かれねばならないのかと、振り切って走ったにも関わらず後ろから羽交い絞めにされてギブギブ!!

結局前をルンルンで歩く男の後ろをついて歩く事になった。

そうしながら着いた先は古びたアパート。

うわぁ。

「なんかデそうなんだけど」

「あ、俺いまここに住んでるから」

「はぁ?」

「大学生の一人暮らし」

「いやそれは俺もしてるから分かるけどお前収入良いじゃねーか」

幼馴染は顔良し、性格良し、頭良し、気前良しの四良しである。

そんな彼は家庭教師のバイトで各家々の奥様方やお嬢様方を虜にしつつ、本人は一切奇麗さっぱり下心無くただ派遣された先の学生さんの学力を上げる事に努力して、その姿勢が職場からはかなり可愛がられている。

そんなコンビニ店員の自分とは雲泥の差の高スペック保持者の現在の家を御邪魔すると、外観を裏切らない薄暗さ。

昼間なのになんかデそう。

いや、

「・・・・・・・・・・・」

「あ、見えたか?」

見えた?はは。見ちゃったよ。てかあっちが見てくるんですけどね!?

部屋の奥の障子。その隙間からのぞいてくる女にゾォと背筋が凍る。

ヤバイ。もしかしたら彼女はこの幼馴染のちょっとイッちゃったストーカーさんかもしれないけれど、過去、霊とかそんなもんによりトラウマされた記憶が叫ぶ。

あれは・・・

「・・・あんま彼女見んなよ・・・」

え。おいおい幼馴染。なんでここで不機嫌そうに俺を見んだよ。

・・・・え?



まぁ、言ってしまえば彼女は都市伝説とかに出てくる「すきま女」らしい。

ほかの「すきま女」を見たことがないから確証がないが、まぁ、隙間から見てくるし確実だろう。

で。ここからが肝心なんだが・・・俺の幼馴染はその「すきま女」に惚れちまっているらしい。はははは、笑うしかない。

なんでも何時も見てくる彼女の健気さ(・・・?)に惚れて、ただいま絶賛求愛中だとか。

都市伝説の怖いところが幼馴染にとって可愛さアピールになっている事にまずびっくりだ。

常人なら・・・まぁ自分も含めて何時も隙間から見てくる彼女に寒気しか沸かないのだが、恋愛は人を狂わせるというか。最近の病デレ(?)ブームというかまぁ・・・理解はできない。

で、今。そんな自分を彼女(「すきま女」)と幼馴染の間に置く幼馴染が一番理解出来ない。

「怖いんですけど!?」

「大丈夫だって、彼女怒ってるみたいな顔だけどほんとは優しい」

「はい、惚気とか!?ちげーよバカ!!正真正銘の霊にビビってんだよ!!」

「はは、じゃあ将来俺恐妻愛妻家って呼ばれるのかー」

「日本語を理解しろ!!!」



鳥肌が立ちまくってんのを抑えて、幼馴染との会話を諦めた後残る選択肢は幼馴染の願いをさっさと済ましてこんなところから1秒でも早く脱出することに全精神を傾ける。

本当は嫌だ。やりたくない・・・が、背に腹は(というか俺の鳥肌がそろそろいろいろヤバイ)代えられないので、仕方なく。

「あー・・・少し話していいデスカ?」

彼女に引き攣り笑いを浮かべながら提案すれば、変わらず彼女は見てくる訳で。

プレッシャー(前からもだか後ろからの幼馴染からのがパねぇ)に耐えながら、両手を合わせながらこれまでの経緯を説明しながら、如何に幼馴染が彼女を想っているかを彼女に伝えた。



なんで幼馴染じゃなくて、俺がそんな役をやっているかというと俺のばーちゃんは巫女さんで、よく霊退治なんかに呼ばれていた。

そんなばーちゃんの血を一番引いたのが三人兄弟の中で真ん中の俺だけだったといういらないミラクルにばーちゃんは呆れながら俺に霊に対するいろいろな事を教えてくれた。

それこそ徐霊から、今している対話まで。

対話って言うのはばーちゃんオリジナルの霊とのコミュニケーションの取り方で、「人間話して事が終わればそれに越したことはない」との事。

まぁつまり徐霊なんて体力も精神力も使うことよりも、話して「ここにいると色々あなたにとって迷惑だから他行ってくれませか?成仏したいならお手伝いますよ」と打診をするのだ。

本来はそういう役目の対話を、幼馴染の想いが如何に真剣かを伝える方法になっていると知ったらあのばーちゃんは呆れを通り越して爆笑するだろう。

あまり霊感がない幼馴染の声は彼女に届いてもひどくぼんやりとしてしまうので、仕方がなく俺が代弁していることで勘弁して貰いたい。やってて凄く嫌だけど。



「――・・・てな訳で、こいつは一見優男みたいですけど、何事にも誠実ですし、あなたの事を一途に想っています。どうか彼と話をしていただけませんか?」

最後にそう締めくくって、パンッと手を叩く。

これで対話は終了。あとは彼女がどう反応するかだ。

ちらりと見た彼女は相変わらず見てくる訳で。・・・え?効果なし?ていうか聞いてました?

と思いながら幼馴染と場所を交換して、彼女の前に座らせる。

「好きだよ」

ぐはぁ!!さらっと言いやがったこいつ。さらっと!!!俺のだってそんなことネットの中でしか叫んだこと無いのにこいつ言いやがった!!ていうか前に座った瞬間に言うんじゃねぇ!!!

と俺が悶絶しながら幼馴染を睨めつけた時、すぅぅと彼女の白すぎる手が幼馴染へと伸びて、






ある夏の日。俺の幼馴染に彼女が出来た。

彼曰く彼女が照れて最近は障子の奥に隠れて碌に顔も見えないらしい。でも引っ張り出して抱っこしていっぱい好き好き言いまくってるらしい。

「すきま女」の都市伝説を根本から覆している彼女にも驚いたが、そんな彼女を引っ張り出す幼馴染にはもっと驚いた。

彼女に触れるという事。それは彼女が彼を認めなければ絶対出来ないことで、なおかつかなり霊感を持っていなければ持続できない。

しばらく山籠りしてたと言っていたのはどうやら嘘ではなかったらしい。恋愛のパワー、恐るべし。

世間的に見て霊の彼女と人間の幼馴染の恋愛は止めに入った方がいいかもしれないが、そこは「人の恋愛に首を突っ込む奴は、馬に首の骨蹴られて死に曝せ!!」だ。

あとは本人たちの問題で、他人がどーこー言う事じゃない。

まぁばーちゃんの墓参りの時に話のネタにはさせてもらう。最近のリア充はばーちゃんを越えてイっちゃってるってな!!




ちなみにばーちゃんは先に逝ってしまったじーちゃんをお盆に迎えてはらぶらぶしてた人です。

お粗末さまでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ