序
行き当たりばったりで、序章です。
またもや女の子ばかりですがよろしくお願いします。
七図家に双月の宝あり。
片方はまこと見えるが白い月の如く、白皙の儚げで優しい深窓の姫君なり。
もう片方は白皙の美貌は同じなれど、その姿、苛烈な気性に彩られ月に裏側があるのを感じさせるものなり。
天に輝くべきは一つの月であるがゆえに、二方が一緒に表に出ることはなく、これは七図家の秘密とされていた。したがって、この事実を知るのは生みの親である七図家当主夫妻と乳兄弟たちだけであった。
桃の花が咲く弥生の季節、その知らせは大路家長女の遥日の下に届いた。
手渡されたのは上品な料紙に書かれた上に、すぐに高級な物だと分かる薫物が香る手紙であった。
宛名は大路遥日――つまり遥日本人であり、ある程度の教養を持った人ならば何処の大貴族様がよこしたのだろうと目を見開きたくなるものでもある。それは末席とは言え貴族に名を連ねている大路家の姫である遥日にも言えることであった。
「……これは?」
遥日は震える手で受け取った。中身を見るなんて名前を聞くまで恐ろしくてできやしない。
(こんな、見るからに高級そうな手紙を送れる人なんていたかしら)
そう考えつつ答を待つ。手紙を持ってきたのは見目麗しい男の童で、その身にまとう服は絹。明らかに貴族の家、しかも大路家とは余り関係のなさそうな位の高い家に仕えているのだろう。
大路家は都に家を構えてはいるものの帝にお目見えすることもない。遥日の祖母だか、曾祖母だかが貴族に見初められ、その人について京に上っただけの家であった。
貴族として最低限の暮らしは営んでいるが、その中身は町民にひたすら近い。
「七図家、月葉様からの文でございます」
「しちとけ、というと、あの七図家でございますか?」
「"あの"がどのを指すかはわかりませんが、その通りで」
しずと頭を下げる。その姿さえ高貴に見えて、上に立つものが違うと下のものまで違うのだなと遥日は変に感心した。
七図家は雅なことで知られる一族であった。政治に強い立場ではないものの、その家から輩出されるもの、男女に関わらず、歌の才があったり、楽の才があったり、とにかく風流な事を好む貴族の間では重宝される家である。
「七図月葉さま。お名前は重ね重ね伺っていますが、私のことなど知るはずもないお方……」
どうして、という思いは尽きないが間違いではないのか、と尋ねても遥日宛で間違いないと言われる始末。
見ないことには始まらないかと遥日は丁寧に折りたたまれた料紙を広げた。
"大路の家の一の姫様へ"
そんな見出しで書き出されたそれには驚くべきことが書いてあった。