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タヌキ、悪役令嬢を救う。

作者: はにか えむ
掲載日:2026/04/06

 ぼくはタヌキ。ご主人様には『たぬぽん』と呼ばれている。大好物はふかしたお芋。

 ご主人様は、ぼくを助けてくれた。ぼくは小さいころ、車っていう怖ろしい生き物におそわれたんだ。それで足をけがして、ご主人様がひろって育ててくれた。

 ぼくはご主人様に抱っこされてるときが、一番幸せ。あったかくて、柔らかくて、幸せな気持ちになるんだ。

 

 ある時、お散歩していたら、川があった。ぼくは暑かったからお水に入りたくて、川で泳いだ。そうしたら思っていたより流れが速くて、ぼくの体はどんどん水に沈んでいった。

 ご主人様の叫び声がして、ぼくの体はいつものあたたかなぬくもりに包まれた。それがぼくとご主人様の最期。

 ごめんなさい。ごめんなさい。ぼくが溺れたから。ご主人様も死んじゃった。

 ぼくはいっぱい神様にお願いした。ご主人様を生き返らせてください。ぼくは生まれ変われなくてもいいから。

 神様は、ぼくの願いを叶えてくれた。違う世界で、ご主人様は生まれ変わった。その代わりに、ぼくは神様にお仕えすることになった。

 

「たぬぽん。君は私に長らく仕えてくれた。今ね、別の世界で君のご主人様が助けを求めている。君をご主人のもとに返してあげよう。彼女を助けておあげなさい」

 

 何年も経って神様はこう言った。ご主人様のピンチ! ぼくが必ず助けるから。

 

 神様がぼくの額に手をかざすと、ぼくは優しい眠りに落ちた。次に目が覚めた時、ぼくは大きな建物の中にいた。たくさんの人間がぼくを見ている。ぼくは怖くて動けなかった。

 

「たぬぽん……?」

 

 目の前にいた女の人が、ぼくを見て目を見開いている。顔も声も違ったけれど、ぼくにはわかった。ご主人様だ!

 周りからはひそひそと話す声が聞こえる。体が固まってしまって動けないぼくを、ご主人様が抱きしめた。どうしよう、泣いているみたいだ。ぼくはご主人様の涙をなめた。大丈夫。ご主人様。ぼくが絶対助けるから。

 

「何をしているエミーリア。召喚が終わったなら早くどけ」

 

 なんだこいつ。ご主人様に命令するな。ぼくはうなり声をあげて威嚇した。

 

「だめ。たぬぽん。大丈夫だから」

 

 ご主人様に背中を撫でられて、ぼくは威嚇を止めた。ご主人様はぼくを抱き上げたまま、部屋の隅へ歩いた。

 

「また会えて嬉しい。ずっと会いたかった」

 

 ぼくもずっとご主人様に会いたかった。久しぶりのご主人様のぬくもりに安心しながら、ぼくはまた眠ってしまった。

 

 

 

 次に目を覚ました時には、天井が三角の不思議な部屋にいた。

 

「起きた? たぬぽん。ここは私の部屋よ。屋根裏部屋だから、寒いと思うけど我慢してね」

 

「屋根裏部屋?」

 

 ぼくが喋ると、ご主人様は驚いていた。神様がご主人様とお話しできるように言葉を話せるようにしてくれたんだ。

 

「たぬぽんと話せるなんて嬉しい! たくさんお話ししましょう!」

 

 その日は夜通しご主人様と話した。ご主人様はこの公爵家の長女で、お母さんは隣の国から嫁いできたんだって。でも公爵はお母さんが死んだ後すぐに愛人を後妻にした。愛人にはご主人様と同じ歳の子供がいて、異母姉妹なのだそうだ。

 公爵も愛人もご主人様のことをとても嫌って、ご主人様の悪い噂をばらまいている。

 妹は珍しい聖魔法が使えて、こちらもご主人様に虐げられていると嘘をついているらしい。ご主人様の婚約者の王子様も、妹の方を信じているんだって。最低だ。

 

 それで今日は精霊召喚の日で、ぼくはご主人様の守護精霊として召喚された。

 

「見張りがついているから、外にも出られないの……窮屈でごめんね。本当はお母様の実家に助けを求められたらいいんだけど……」

 

 そこでぼくはピンときた。守護精霊には能力がある。ぼくの能力でご主人様を助けられないかな。

 

「ぽんぽこぽーん!」

 

 ぼくが叫ぶと、ぼくはご主人様の姿に変わった。ぼくの能力は『変化』なんにでもなれるんだ。

 自分そっくりに変身したぼくを見て、ご主人様は驚きのあまり腰を抜かした。

 

「ぼく、何かの役に立てないかな?」

 

 作戦を考えられるほど、ぼくは賢くないからご主人様に丸投げする。その日から、ぼくとご主人様の逃亡計画は始まった。

 

「まずは資金が必要だわ。隣国に行くためのお金を稼がないと……たぬぽん。うちの使用人に変化できる?」

 

 ぼくは使用人のうちの一人の姿を覚えた。十歳くらいの男の子だ。その姿で、質屋に宝石を売りに行くのが今回のおしごとだ。

 閉じ込められているといっても、ご主人様は公爵令嬢だからお茶会用のドレスと装飾品はもっている。贅沢好きで妹をいじめる悪女という設定にされているから、ギラギラした悪趣味な宝石もたくさんあるのだ。一つぐらい売ったってバレやしない。

 街を歩くのは人間がいっぱいで怖かったけど、ご主人様のために頑張った。

 公爵家の使用人の服を着ていると、質屋の人はちゃんとした価格で買い取ってくれるんだって。平民だと安く買いたたかれる。えらい人をだますと後が怖いってことみたい。

 たしかに強いやつにはいじわるできないもんね。タヌキの世界でもそうだよ。

 

 帰りにお菓子を買ってもいいよってご主人様が言ってくれたから、ぼくはふかしたお芋を探した。やっとお芋の匂いがするものを見つけたけど、昔ご主人様が食べさせてくれたクッキーと同じ見た目をしている。お芋の入ったクッキーなのかな?ご主人様と一緒に食べよう。

 ぼくはね、ご主人様とよくお散歩したから、お買い物のしかたはわかるんだよ。ご主人様に茶色のお金を出してお釣りをもらうように言われたから、ちゃんと茶色のお金と交換してもらうんだ。

 なるべく人に合わないようにご主人様の部屋に帰ると、ご主人様はいっぱい褒めてくれた。お芋のクッキーも喜んでくれたよ。

 

 お金を部屋に隠してご主人様とお話ししていたら、ドンドンと入り口を叩く音がした。

 

「お姉様。かわりに刺繍してくれる? 私忙しいの」

 

 妹のマリーリアだ。こいつはいつもご主人様を馬鹿にして、学園の課題を押し付ける。刺繍ってとっても時間がかかるのに、ご主人様は自分のと合わせて二人分やらないといけないんだ。終わらなかったりできが悪かったらご主人様はご飯がもらえない。ぼくはマリーリアが大嫌いだ。

 マリーリアはご主人様の婚約者の王子を狙っている。だからたまにわざとけがをして、ご主人様がやったと嘘をつくのだ。優しいご主人様がそんなことするはずがないのに。

 精霊は人間に危害を加えることができない。だからぼくはマリーリアがどれだけ憎くても何もできない。それがとても歯がゆい。

 

「ねえ、たぬぽん。もし私が、復讐したいって言ったら協力してくれる?」

 

 ぼくはもちろんだと言った。噛みつかれたら噛みつき返したっていいんだい! それが自然の掟だ。ぼくはなんでも協力するよ!

 

「じゃあね、お願いがあるの」

 

 それからはぼくはご主人様とたまに入れ替わって学園に通った。これはぼくがご主人様のふりをした学園生活に慣れるためだ。

 目指すは半年後の学園の卒業パーティー。これは貴族学園の卒業生を祝うため、王族が主催するものだ。そこには国中の貴族が招かれる。さらに卒業生の親戚なら国外の人間も呼ぶことができる。

 ご主人様は、卒業パーティーでマリーリアと公爵夫妻の嘘を暴くと決めたのだ。

 

 ご主人様との別れの日。それは卒業パーティーの三か月前、ご主人様がお茶会に参加した帰りのことだ。

 

「ごめんね、たぬぽん。私、おじい様のところに行くから。全部片付いたら、また一緒に暮らそうね」

 

 そう言って、ぼくらは入れ替わった。三か月学園で過ごすのは、案外楽だった。貴族学園最終学年の終わりには、卒業と同時に結婚するだとか、爵位を継ぐ準備をしなければならない人がいるため、課題がなくなる。そのうえご主人様には、悪いうわさがあるから誰も近寄ってこない。

 マリーリアはご主人様から王子を奪い取るために、本格的に動き出した。公爵夫妻もこれに加担している。

 

 ぼくはご主人様がいなくて寂しかったけど、毎日がんばって耐えた。ご主人様の優しい笑顔を取り戻すために。ご主人様が幸せになれるように。

 

 そして運命の日はやってきた。卒業パーティーに、ぼくはご主人様の姿のまま参加する。会場入りすると、王子に付き添われたマリーリアがこちらをみて怯えた顔をしてみせた。頬には扇子で打った痕。すごい! ご主人様の予想したとおりだ!

 

「エミーリア! 貴様、妹の顔を傷つけるとはどういうことだ!」

 

 王子が声を張り上げる。本来王子は卒業と同時にご主人様と結婚するはずだった。しかし王族の結婚は一年以上も前から準備が必要なはずなのに、まったくそんな話が出ない。ご主人様はある予想をした。

 王家も婚約者の交代に正当性をもたせたいのだと。隣国の貴族の血を引くご主人様との婚約はよっぽどの理由がないと解消できない。下手すれば隣国と争いになるからだ。

 だったら国中の貴族が集まる卒業パーティーで、ご主人様が王家の婚約者にふさわしくないと証明させるのが一番だ。

 ぼくは完全には理解できなかったから、ご主人様の言ったとおりにしただけだけど、たぶんご主人様の予想は当たっていた。

 

「私がマリーリアを傷つけたとは、どういう事でしょう?」

 

 その時ぼくの後ろから、大好きなご主人様の声がした。王子もマリーリアも茫然としている。

 

「エミーリアが……二人?」

 

 ぼくはご主人様にかけよって抱きついた。ご主人様はぎゅっと抱きしめてくれる。久しぶりの体温に、ぼくの両目に涙がにじんだ。

 

「たぬぽん! ただいま! ごめんね、ひとりで辛かったでしょう?」

 

 ご主人様の隣には、ご主人さまとよく似た老夫妻と、それより少し若い夫婦がいる。きっとご主人様のお爺様とおじさま夫妻だ。ご主人様が証人になってもらうって言ってたもん。

 

「おかしなことですね……エミーリアはこの三か月、ずっと私たちと隣国におりました。どうやって妹君を傷つけることができるのでしょう」

 

 老人が口を開く。彼はマリーリアと公爵夫妻をにらみつけた。ぼくは知っている。公爵夫妻もこの三か月間、ご主人様が使用人を鞭打つのだと嘘をついていた。

 

「え? でも、ずっとエミーリアは我が家に……」

 

 公爵の茫然とした呟きに、ぼくは気がつく。そうだ、まだご主人様の姿のままだった。

 

「ぽんぽこぽーん!」

 

 ぼくはくるっと回ってタヌキに戻る。久しぶりに戻ったから、ちょっと懐かしい。

 

「精霊……! まさか……」

 

 マリーリアが蒼白になっている。ざまーみろだ! ご主人様をいじめたお前が悪いんだ!

 ご主人様のおじい様が前に出た。ご主人様に似て、威厳があってかっこいい。

 

「精霊は人間を傷つけることができない。三か月精霊と入れ替わっていたエミーリアが、使用人を鞭打ち妹に暴力をふるった? この大噓つきどもめ!」

 

 その後は、王様が出てきて大変な騒ぎになった。王家を守り隣国の機嫌をとるため、公爵夫妻とマリーリアに全ての罪が押し付けられ、嘘を見抜けなかった王子とご主人様の婚約は王家有責で破棄された。ご主人様は隣国で暮らせることとなり、めでたしめでたしだ。

 

「たぬぽん。お芋おいしい?」

 

 ぼくはご褒美にたくさんのお芋をもらった。ご主人様の膝の上で食べるお芋は最高だ。しばらくはこの席を、誰にも渡すつもりはない。

 ご主人様に最近よく話かけてくる騎士がいるけど、ご主人様は渡さないぞ! 認めてほしいならたくさんお芋を持ってこいと言ったら、翌日には甘いお芋をたくさん持ってきた。……まあ、認めてやらんでもない。

何も考えずにノリで書きました。

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