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転生したけど祝福は無かった

この世界には、祝福がある。

神に選ばれた証。

右手に刻まれる、光の紋様。

炎を操る者。

風を纏う者。

鋼の肉体を持つ者。

祝福は力であり、価値だった。

生まれた日、刻印は浮かぶ。

強さに差はあれど、

“持っている”ことが当たり前。

祝福は、この世界の前提だ。

ただ一人を除いて。

王国の端に、剣の名家がある。

カルディウス家。

長男――サイラス。

若くして剣の才能を認められた少年。

銀の刻印が淡く光るたび、

周囲は未来を語った。

父もまた、かつて名を馳せた冒険者。

蒼い刻印を宿す実戦の男。

そして次男――レオン。

彼の右手には、何もなかった。

生まれた日も、空は静かだった。

一年。三年。七年。

刻印は現れない。

神官は言った。

「極めて珍しいが……不可能ではない。」

だがこの世界で、

祝福がないという事実は、

それだけで異質だった。

兄は光の中に立ち、

父は刻印と共に剣を振るう。

祝福と祝福がぶつかる音が庭に響く。

少年は、その光景を見て育った。

何度も右手を見た。

何もない、ただの手。

それでも。

少年は剣を振る。

誰よりも多く。

誰よりも長く。

並びたいと願ったからだ。

兄に。

祝福を持つ者たちに。

この世界に。

ある日。

少年は初めて思う。

祝福とは、なんだろう。

神とは、なんだろう。

その疑問は小さく、

まだ形を持たない。

だが確かに、

彼の中に芽生えた。

これは、

祝福を持たなかった少年が、

祝福を持つ世界で生きる物語。

第1章 ―― 祝福のない子

第1話(会話微増・完成版)

春の匂いが残る午後。

少年は庭で木剣を振っていた。

名は――レオン。

この家では、二番目の息子だった。

カン、と乾いた音。

「腰が甘いぞ」

声が飛ぶ。

振り向けば、兄が立っている。

兄――サイラス・カルディウス。

右手の甲には、淡い銀色の刻印。

――剣神の祝福。

生まれた日、空が揺れたという。

五歳で模擬戦に勝ち、

七歳で騎士団に目をつけられ、

誰もが言った。

「将来は英雄だ」

レオンは自分の手を見る。

何もない。

白い、ただの皮膚。

刻印のない右手。

「ほら、もう一回だ。今のは踏み込みが浅い」

「ちゃんと踏み込んだよ」

「踏み込んだ“つもり”だろ?」

サイラスは木剣を軽く肩に担ぐ。

「相手は待ってくれない。あと半歩、前に出ろ」

悔しい。

でも、正しい。

「……兄さんはさ」

レオンは構えながら呟く。

「なんでそんなに当たり前みたいに強いんだよ」

サイラスは一瞬だけ目を細めた。

「当たり前じゃない。毎日振ってるだけだ」

「それだけで?」

「それだけだ」

軽く打ち込む。

弾かれる。

転ぶ。

息が荒い。

その時だった。

「また二人でやってる!」

門の向こうから声がする。

栗色の髪を揺らし、少女が駆けてくる。

ミリス。

近所に住む、いつも勝手に庭に入ってくる少女。

「混ぜてよ!」

「危ないぞ」

「見てるだけの方が危ない気分になるの!」

ミリスは木剣を拾い、レオンの隣に立つ。

「レオン、ぼーっとしてると置いてくよ?」

「してない!」

「してたよ。今ちょっと遠い目してた」

兄が小さく笑う。

三人で構える。

サイラスが動く。

速い。

重い。

正確。

レオンは弾かれる。

ミリスも転ぶ。

「いったぁ……!」

「大丈夫か?」

「平気! もう一回!」

二人は顔を見合わせる。

悔しい。

でも、楽しい。

「どうやったらそんなに強くなれるの?」

ミリスが兄に聞く。

サイラスは少しだけ空を見て、

「さあな。強くなりたいと思ってる間は、勝手に強くなる」

「なにそれ、ずるい答え」

「秘密ってこと?」

「違う。ほんとにわからん」

当たり前のように、強い。

レオンはもう一度、自分の手を見る。

何もない。

兄は天才だ。

自分は祝福無し。

神に選ばれなかった存在。

それでも――

「じゃあさ」

ミリスが言う。

「強い人の隣にいれば、ちょっとくらい強くなれるよね?」

「理屈が適当すぎる」

「でも、あたしはそれでいく」

そして、レオンを見る。

「レオンも一緒でしょ?」

“たち”。

その響きが、胸に残る。

「……ああ」

小さく、うなずく。

木剣を握り直す。

振る。

振る。

振る。

何百回も。

夕焼けが庭を赤く染める。

サイラスがぽつりと言う。

「レオン」

「なに」

「お前は、俺より伸びるかもな」

「またそれ?」

「本気だ」

「嘘つくなよ」

「嘘じゃない。俺は最初から強かった。でもお前は、強くなろうとしてる」

レオンは笑う。

信じない。

兄は天才だ。

自分は祝福無し。

夜。

布団の中で、右手を掲げる。

暗闇。

何も浮かばない。

「……なんで、俺だけ」

小さな声。

誰にも届かない。

けれど。

ふと思う。

――なら、刻ませる側になればいい。

祝福が無いなら。

奪えばいい。

作ればいい。

積み上げればいい。

その夜、彼は初めて

「神」を嫌った。

そして、

兄の背中ではなく。

ミリスの隣に立てる自分になりたいと、

強く願った。

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