ドラゴンと、光るツノ
──ロックナプル前哨基地──
戦闘を終えた作戦部隊が前哨基地に戻って来た。
「負傷者は医務室へ…それ以外の者は装具点検の後ゆっくり休め!エド!お前は反省会な」
藤原は車両から降りるエドワードを名指しする
「こっちも肋やってんだぞ?!」
「エド…お前さんに医務室は十年早い…」
困惑するエドワードの肩にそっと手を置いたマックスがからかう
「はあ?」
「冗談だ!早く行ってこい!」
藤原は笑って彼の背中を叩く。
エドワードが医務室に歩いていく中、ハリーが藤原の元へ歩いてくる。
「少尉、ご苦労」
「どうも…大佐」
「威力偵察としては十二分な成果だったな」
「ええ…まさかこちらのCASを真似てくるとは…」
「うむ…陸空の連携が以前より高度化しているな…」
「それともう一つ…敵の自動火器の普及が以前より活発になっているように感じました」
「自動火器?」
ハリーは首をかしげる
「はい…今だ大半はKar98のようですが、MP-18やMP-40のようなSMGも多数配備されているように感じました」
「我々のARと比べれば継戦能力は雲泥の差だからな…」
会話する2人のもとに篠原が歩いてくる。
「ん?どうした?」
藤原が問い掛ける。
「これ、エドさんのアーマーに入ってたプレートなんですけど…見てください胸に2発当たってますよね?」
篠原はプレートを指す
「ああ…それが?」
「最初、SMGサブマシンガンかと思ったんですが、明らかに9ミリのパワーじゃないですよね?だから気になって弾丸を取りだしてみたら…」
「みたら?」
ハリーが尋ねる
「7ミリだったんですよ」
「オイローパが使用する銃器は7.92ミリ…おかしいのか?」
ハリーはさらに問い掛ける
「でも、測ったらほぼぴったり7ミリなんですよ」
ハリーは意味が理解できないという表情だが、藤原はその言葉の意図にピンと来ている様子だった。
「…7ミリマウザーか」
「そう!あの短時間で胸に2発撃ち込める7ミリマウザーを使う銃と言ったら?」
「…M1908」
「モンドラゴンですよね!」
「待て待て!2人だけで話を進めるな…!で、なんなんだそのナントカドラゴンってのは?コモドドラゴンの親戚か何かか?」
「M1908 モンドラゴンです。俺達の世界線と同じものなら、メキシコ生まれの銃ですよ」
藤原がハリーに説明する。
「そんな銃をよく知ってるな…」
「ええ…まぁ…日本では一部のマニアには有名ですので…」
藤原はハリーの言葉にばつの悪そうな顔で答える。
「ほう…それはなぜ?」
「いやまぁ…この話は止めておきましょう」
「何かしらのアニメにでも出てきたのか?」
「…俺は止めましょうって言いましたよね?」
藤原の言葉にハリーは何やら察した顔をする
「あ~…では、それをオイローパが使っているのは何を意味するのかね?」
ハリーと藤原は篠原を見る
「え?いや…だから何だって話なんですけど…」
「我々の世界線では、この銃は1920年代には既に第二戦級に降格していたんですよ…大佐はオイローパ帝国が我々の旧ドイツ帝国と同じ国だとお考えでしたよね?」
「うむ…向こうが使っている兵器や言語から推察してな…そしてオイローパという国名もドイツ帝国が掲げたミッテルオイローパ構想に似ているしな」
ハリーは藤原の問い掛けに持論を呈す
「もし仮にそうだとするならば、奴らは第二戦級の兵器をわざわざ引っ張り出してきたということになります」
「ふむ…つまり、第二戦級兵器を引っ張り出してでも歩兵の自動化を進めたいという可能性があるわけか…これが推察出来ただけでも十分だ、よく言ってくれたな」
ハリーは篠原に右手を差し出し握手する。
「さて、後はオイローパがこの世界の魔法なるものを研究して履修しない事を願うしかないな…ナントカドラゴンに魔法…実に厄介だ」
「…大佐…あなた本当は知ってますよね?」
「ん?何がだ?私はそういうアニメとか小説とか何も知らんぞ?」
ハリーは背を向ける。
「さて諸君…まだ居るな?今日はご苦労だった!今日の功績を讃えて今夜のディナーは豪華にするぞ!もちろんフィッシュ&チップスも沢山用意するからな!」
ハリーは装具点検中の兵士たち全員に行き渡るような声量で伝える
「フィッシュ&チップスって前出た油ギトギトのあれか?あのあと腹下したぞ…」
マックスが隣にいたイムレイに小さく囁く
「何か言ったか?」
「何でもありません!サー!」
「よろしい。お前には特別にうなぎの煮凝りも付けてやろう」
「うなぎの煮凝り…てなんだ?」
マックスは首をかしげる
「うなぎのゼリー寄せだな」
「おいおい…勘弁してくれ…」
カークスの言葉を聞いたマックスはその未知の料理に天を仰いだ
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──オイローパ帝国軍 南部戦線作戦司令本部──
司令官室の扉がノックされる。
「入れ」
帝国国営新聞を読んでいたレデブールは入室を許可すると新聞を畳む。
「失礼します。総統府よりの伝書をお持ちいたしました」
入室した彼の補佐官であるマイヤーは端的に述べると彼のデスク前まで歩み伝書を差し出す。
「うむ…」
「総統府によりますと、新型戦車と新飛行隊をこちらに寄越すということです…こちらがその戦車の仕様書になります」
マイヤーは脇に抱えた仕様書を差し出す。
「…ふん!何が新型戦車だ…!主力のⅢ号戦車の砲を挿げ替えただけではないか…!それも5cm砲だと?5cm砲は既に現場から威力不足と判断されていただろう!」
「現在使用しているⅢ号G型が3.7cm砲であると考えると、火力は増強されてはいるのですが…相手の戦車を考えますとそれでも威力不足は否めませんな…一応総統府には『新型戦車は長砲身7.5cm砲が最低条件』と伝えてはおりますが…」
マイヤーの言葉に深くため息をつくレデブール。
「もうよい…自動小銃についてはどうなっている?」
「はっ、現在モーゼル社に新型自動小銃の開発を急がせている所です。」
「モンドラゴンの方は?」
「そちらも、海軍向けと予備役に振られていた物をこちらに回す手筈となっています。また、メーカー余剰在庫分も追加発注が決定しております…ですが…」
「どうした?」
「タカ派はどうも難色を示しているようで…」
レデブールはその言葉に大きく肩を落とすとあきれた表情になる。
「まったく…奴らはこの戦いに勝ちたいのか負けたいのか…」
「勝ち負けよりも、中将を失脚に追い込むことしか頭にないようですな」
「はぁ…皆までう言うな分かっているよ…頭が痛い…」
レデブールは頭を抱える
「それともう一つ…歩兵の自動化に関して、タカ派以外からも難色の声が出ております」
「…」
「自動化の為の複雑な構造故の価格の上昇やそれに起因する整備性の欠如、弾薬の過剰消費…何より…」
「構造故の機械的信頼性の欠如であろう?分かっているよ…」
レデブールは席を立ち、窓の外を眺める。
「私を含めた我が帝国軍将兵達は皆、先の世界大戦を生き抜いてきた者達だ…だからこそ肌で感じるのだよ…だが、最早それを言い訳に出来る時ではない…我々は勝利に胡座をかき過ぎたのだ」
「ええ…しかし、それを考えますと敵方の技術力は目を見張るものがありますな」
レデブールはマイヤーの方を向く
「うむ。自動小銃を全軍に生き渡らせ、装弾数も30発近くあるという報告だ…流石にそれは誤認だと考えられるが油断ならんな…そうだ、魔導技術に関してはどうなっている?」
「正直、この世界の魔導士がどういった原理で魔法を使えるのか…特殊な生物学上の特異点があるのかなど科学的に解明出来ておりません。」
「魔導士による射撃実験は?」
「そちらに関しても対応する術式なるものが無いようで十二分な成果は何も」
「そうか…」
「ところで中将、私もそろそろ現場視察をと考えておるのですが…」
「ほお?」
「やはり、技術屋と語る上で現場の状況は欠かせませんので」
「うむ。許可しよう…是非そうしてくれ」
「では日時は追ってご報告します」
マイヤーは敬礼の後、司令官室を後にした。
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威力偵察から一夜明けた正午前のロックナプル前哨基地…
プレハブ造りの兵舎の屋上で休息を取る第2小隊の隊員達。
ある者は顔にパックをして日光浴する者や双眼鏡で基地郊外を覗く者、ひたすらルービックキューブで遊ぶ者など皆思い思いの方法でこの休息を満喫いていた。
「あぁ~…痛ぇ…」
『マックス・トールセン 伍長』が腹を抱えながら屋上に登ってくる。
「お前また下したんか?」
腹痛に悶えるマックスの様子に『ランディ・ハリス 軍曹』が呆れたように言う
「ああ…クソ…何が豪華なディナーだ。あの油ぜってぇ腐ってる…」
「お前しか腹下してねぇよ…てめぇの腹が弱すぎるだけだ」
「うるせえ…俺はお前ら野生児と違ってデリケートなの!…だいたい、豪華って言っておきながら、ピザとパスタだったしよ…おまけにあの気持ち悪いゼリー寄せもマジで出してきやがったし」
「なんだ?ピザ嫌いのアメリカ人とは珍しい」
「ちげぇよ!…ただ、豪華ってこう…もっとあるだろ?」
「俺はピザがあればオールオッケ〜!」
ベンチに横になって日光浴するグレックが言う。
「オメェはな…!ってかなんだその顔」
パック姿で目元に輪切りの果物を乗せた姿のグレックにマックスは困惑する
「今は男もパックする時代よ〜」
「なんだそりゃ…あ~肉…ステーキ食いてぇなぁ」
マックスは椅子に腰掛けて天を仰ぐ
「んなもん前哨基地じゃ出ねぇよ」
マックスの嘆きをランディが一蹴する
「ちくしょう…!」
「食うか?ステーキ…」
「「え?」」
双眼鏡を覗き込むテックスの一言にマックスとランディの視線が集まる。
「ほら」
ランディはテックスから差し出された双眼鏡で彼が示す方を覗く。
「なんだあのでっけぇ動物」
「マ・ドゥっていう異世界ではポピュラーな大型草食動物で、味や食感は牛肉に似ているらしい」
「マジか!」
「こっちの世界では庶民から王室まで広く親しまれてるって前に現地民から聞いたぞ」
「よっしゃ!早速狩りに行こうぜ!」
「待て待て!」
興奮しているマックスをランディが抑える。
「普通に牛ぐらいのガタイだぞ?狩った所で車は必要だろ?第一、狩りが許可されてるかも分からんし」
「んな細けぇ事はいいだろ?」
「でも最低でも車は用意しないと…勝手に乗っていく訳にもいかんだろ?」
「はぁ…」
マックスは深くため息を付いた
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「ハンヴィーを借りたい?」
マックスを含めた3人が藤原の兵舎にやって来た。
マックスからの突然の言葉に藤原は困惑する
「ああ…ほんのちょっとでいいから…」
「何に使うんだ?」
「いや…大したことじゃ…」
「大したことじゃないなら貸せないぞ?」
藤原の言葉にランディが堪忍した表情になる
「ちょっと狩をと思って」
「狩り?」
ランディの言葉に藤原は眉をひそめる。
「こいつが肉が食いたいって言うから」
「俺のせいかよ」
「狩りなぁ…」
「やっぱりNGか?」
テックスの言葉に藤原は腕を組む。
「特段NGは出てないけど…まぁいいんじゃないか?出てないなら…ただ乱獲するなよ?」
藤原の一言にマックスはガッツポーズを取る。
「ただ、大佐には見つからないようにしろよ?別にあの人はお硬い人ではないけど…一応な」
藤原からの許可を得た三人は意気揚々と兵舎を出て車の方へ歩む。
「おい!ベア!馬鹿力が必要だ!お前も来い!」
ランディは道中でベンチプレス中だった第2小隊の衛生兵『モーリス・ベア・ジャクソン 軍曹』を連れ車に乗り込み狩場へと向かった。
黒い艶のある毛並みにヘラジカのような大きく立派なツノを携え、草原でのんびりと野草を食べる数頭のマ・ドゥ。
その艶のある毛並みは陽光を反射して青みがかり、ヘラジカのような立派なツノは先端が淡く光っているように見えた
その数百m後方にハンヴィーが止まる。
「さて、あとはマークスマンに任せたぜ」
「休暇の日は毎日のようにハンティングしてんだ…任せな」
第2小隊のマークスマンであるテックスは愛銃のスナイパーライフルを取り出すと2脚を展開してボンネットの上に載せる。
彼はスコープを覗き込みじっくりと照準を絞っていく。
「まだか?」
マックスが尋ねる。
「ハンティングってのはな…自然と一体になるまで待つんだ…功を急げば仕損じるだよ」
肌に感じる微かな風が止んだ時、彼は引き金を引いた。
スコープの中のマ・ドゥが地面に崩れ落ちる。その様子を見届けたテックスは顔を上げる。
「見に行こう」
彼らは再び車に乗り込むと狩った獲物の元へと車を走らせた。
「やるな…テックス」
車を降りて倒れたマ・ドゥの見下ろしながら呟く。
テックスは大型ナイフを取り出してマ・ドゥの横に跪く。
「おい…!マジか…!」
テックスがナイフを突き立てる残忍な姿にマックスは目を背ける
「こうやって血抜きしないと肉が臭くなるんだ」
「何でもいいから早く済ませてくれ…ベア、終わったら頼むぜ」
「俺一人で載せるのかよ?!お前らも手伝え」
血抜きを終え、車に積み込む4人。積み込みを終えると基地に急いだ。
「おいおい…ありゃなんだ?!」
戻って来たハンヴィーに積まれた動物の姿に藤原は声を上げる
「どうだ!」
車を藤原の前に停め、両手を広げてドヤ顔で尋ねるマックス。
「こんなデカいなんて聞いてねぇぞ?!」
「こんなデカいなんて言ってねぇもん」
「おい…どうすんだこれ…」
「これまた随分な大荷物だな?」
頭を抱える藤原の背後からハリーが歩み寄ってくる。
「Ah〜…fuck…」
マックスはやっちまったという表情で俯く。
「これは何だ?」
ハリーはハンヴィーに載ったマ・ドゥの骸を見つめる。
「マ・ドゥという動物です…狩って来ました…」
「狩って来た?」
「なるほど…食用か?」
「はい、こちらの世界では広く親しまていると…」
「味は?」
「牛肉に似ているらしいです…」
ハリーからの質問にテックスはバツが悪そうに淡々と返答していく。
「では、糧食係に持って行って調理して貰うといい」
「いいんですか?」
ハリーの言葉にランディが言う。
「もう狩ってしまった以上どうもできんだろう?それに、この前哨基地まで新鮮な肉を輸送することは難しい…この方法なら栄養面も偏りなく高品質な糧食が提供出来る…実にいいアイデアだよ。何より、狩猟は紳士の立派な嗜みの一つだ」
ハリーは彼らの方へ向き直る。
「この基地では定期的にするとしよう…ただし、マックス、ランディ、テックス、ベアの4名が担当する事。本部帰隊の際の後任もお前たちが手配しなさい」
「「イエッサー!」」
「あと、今ある冷蔵庫では容量が足りんな…新しく補充しなければ…というわけで頼んだぞ少尉」
「え?」
ハリーの突然の任命に藤原は目を丸くする
「では頼んだぞ」
ハリーは背を向けて歩き出す
「クソ…貧乏くじ…」
藤原は肩を落として小さく呟いた。




