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SPACE



暑い日差しが照りつける昼が過ぎ、一帯は夜の闇に飲まれている。

日差しを和らげていた涼しい風は一転して肌寒さをまとっていた。


昼間の戦闘から帰還したパトロール2こと、『第115大隊 第48特務複合任務中隊 第2小隊』はいつもの通り賑やかな夜を過ごしていた。

 ある者はビーチチェアに腰掛けて小説を読み、ある者はビール片手に談笑する者…皆、各々の時間を過ごしていた。

もちろん藤原もその一人だ。彼はデスク前のノートPCとにらめっこ中だった。


「はぁ~…」


藤原は椅子の背もたれに深く寄りかかりながら、大きくため息を付いて先ほど完成させた戦闘報告書を見つめた。


《SPACEにおける戦闘報告書》


そう記された報告書の見出し。


『SPACE』とは、PMCが異世界に対して付けた便宜上の呼称である。

 

「20XX年6月12日、ロックナプル地方

現地時間 午後2時07分…

オイローパ中央帝国軍による地雷攻撃によりPC4ことクーガー装甲車が被弾…」


藤原は最終確認を込めて報告書を読み上げる。


──オイローパ中央帝国──


 それは藤原達、PMCラーフ社が敵対している国である。帝国の装備や捕虜の証言から、史実上のドイツ帝国に近い国であることが判明している。またラーフ社内には史実の第一次世界大戦あるいはそれに近しい大戦に勝利した世界線のドイツなのではないかという考察をしている者もいるが真偽は今のところ判明としていない。


「…以上の経緯により、今戦闘における損害は装甲車1両のみ、死傷者は0名である…と」


藤原は確認を終えてPCを閉じる。

そして席を立ち兵舎の出口へと向かう。


兵舎から出た藤原に冷たい夜風が優しく吹き付ける。半袖姿の彼は 上着を羽織らなかった後悔を感じつつ、いつも仲間達がたむろしている広場へと向かった。


既に広場には4名の隊員が楽しく談笑していた。藤原はその輪に入り 傍らにあるクーラーボックスから瓶ビールを取るとベンチに腰掛け る。


「ようやく報告書が終わったか?」


「ああ……疲れたよ……で、なんの話してたんだ?」


藤原はマックスからの問いかけに返答し、すぐに直前の話題につい て問い返す


「こいつの子供がもうじき生まれるって話」


「ああ~、そういえばそうだったな…で、いつ仕込んだんだ?」


藤原のジョークに周りが笑う。彼らの視線は話題の主であり広場で 焚き火番をしていた『マイケル・カークス 軍曹』に向けられ、彼らは談笑を続ける。

 こんな他愛も無いバカ話のおかげで日々の重いストレスを和らげる事が出来る。打ち合わせも何もしていないのに自然と一人、また一人と隊員達が集まってくる。


「ふぁ〜…なんの話してるんですかぁ?」


大きいあくびをしながら、女性隊員が輪に入る。

彼女は『篠原 咲 上等兵』で藤原率いる第2小隊唯一の女性隊員である。平均170cm超えの第2小隊の中で150cmという低身長ながら負けん気は人一倍だ。


「なんだ随分とおねむだな?」


「昼間クーガーの中で地雷に叩き起こされたからな?睡眠不足か?」


周りの隊員達が彼女をイジる。彼女は部隊内での最年少であり低身長も相まって部隊内のイジられキャラとして定着していた。


「ホントそうですよ…だからさっきまで寝てました」



篠原はそっと藤原が腰掛けるベンチの隣に座る。


「さすがはウチのマドンナだ…心臓に毛が生えてやがる」


部隊の最年長である『リック・グレイ 先任曹長』が言う。彼はクーラーボックスから瓶ビールを取り出すと篠原に投げると、


「マジな話、子供が出来るならこの仕事の事はよく考えたほうがいい…金は申し分ないが子供の成長は近くで見てやれないからな…」


と、諭すように続けた。


「そうだぞ?判断を誤ると私のようになるぞ?」


突如彼らの輪にハリーが入り込む。

前哨基地司令官のハリーの突然の登場に第2小隊一同は緊張した面持ちで姿勢を正す。


「私が英陸軍にいた頃…丁度長女が生まれるって時にイラクに派遣され、娘の出産に立ち会えなかった…」


ハリーは焚き火を見つめながら過去の話を語り続けた


「3年間の派遣の後、妻と再開したら…1歳半になる次女を抱えていた」


ハリーの言葉に一同困惑の表情で互いに顔を見合わせ広場には微妙な空気と静寂に包まれる


「…冗談だ」


ハリーの言葉に一同は安堵の表情を浮かべた。


「さて…本題だが…明日、北部方面隊作戦司令部より新たな任務が発令される…私は君達が適任であると考えている。…よろしく頼むよ」


ハリーはそう言うと一同を見渡す。


「ではゆっくり楽しみたまえ」


そう言うと背を向けて歩き出した



──────────────────────────



翌日…


──ロックナプル前哨基地 作戦会議室──


前哨基地内にある作戦会議室…とは名ばかりで長机にパイプ椅子と地図が張られたボードがあるだけのただのテントだ。


30人弱の人員がこの作戦会議室に集う。


「全員!気をつけ!」


号令が鳴り響き一同は姿勢を正す。そして基地司令官のハリーが壇上に歩み寄る。


「結構だ、休んでくれ」


ハリーの言葉に一同は着席する。


「さて、ここに呼ばれたという事が何を意味しているかは皆分かっているだろう」


ハリーは一呼吸置いて再び話し始める。


「ここ最近になってオイローパ帝国軍による小規模戦闘が頻発している。昨日の第2小隊との戦闘を含めるとここ2週間程で4回発生している。…もちろんこれはこの基地に限った話ではない。東部方面、西部方面に置いても同様だ。」


ハリーは一呼吸置く


「以上により統合作戦本部は各前哨基地周辺に点在する敵勢力に対する掃討作戦を計画中だ…しかしながら、敵勢力の具体的な数や反撃能力など現状不明な点も存在する」


ハリーはボードに数枚の写真を貼り出し指揮棒を持つ


「昨夜、我が空軍のMQ-9リーパーが長らく不明だった敵勢力の拠点と思わしき場所を特定した…ここから北東約25km地点にあるクダ村…ここだ」


ハリーは指揮棒で地図を指す


「この村…あるいはその周辺を拠点としている可能性が高い。諸君らにはこの村に出向き威力偵察を頼みたい。第48特務中隊 第2小隊を軸とした合同部隊を編成し、任務に当たってもらう…では少尉頼むぞ」


ハリーは藤原に後を引き継いだ


「では、詳しい内容について説明する」


藤原は作戦資料に目を落とす


「今回は第48特務中隊 第2小隊の12名と第35特務中隊 第1小隊の12名…そして第12機械化混成中隊所属のウォーリア2両を含めた混成部隊となる。みんな一通り顔を見ておけよ」


藤原はボードを向く


「また、本作戦のコードネームは我々第2小隊を《Aアルファ》、第1小隊を《Cチャーリー》、第12中隊を《Eエコー》、そして作戦司令部を《Fフォックストロット》とする。各自自身のコードネームを忘れるなよ?」


藤原は再びボードに向き直す


「Aチームに関しては12名の小隊を各6名に分けた2分隊に再編成し、それぞれアルファ ワン、アルファ ツーと呼称する。A 2はクダ村から凡そ5km地点より、本隊を離れて小型ドローンによるより細かな内部の偵察を行え…作戦開始は明朝、日の出と同時に行う。それでは…各自準備を始めてくれ」


藤原が締めの言葉を告げた直後、ハリーが前に立つ


「では諸君…武運を祈る」



──────────────────────────


──オイローパ帝国軍 南部戦線作戦司令本部──


作戦司令本部の一角にある司令官室…

この一室で複数の報告書を険しい表情で読み続ける男がいた。


「う~む…奴らの即応力は目を見張るものがある…」


 帝国軍南部戦線総合司令官『エーリヒ・フォン・レデブール 中将』は左拳を強く握りしめた。

彼は開戦当初から南部戦線の総指揮に携わっていた。その為ラーフ社と自国軍との圧倒的な技術力の差を当初から目の当たりにしていた。

彼も当初は徹底抗戦の構えであり、複数の大規模作戦を立案し指揮してきた。しかしその全てが被害に対して十分な成果を上げることが出来ずに終わってしまい、最終的には戦線を停滞させる方針へと転換した。とは言え、軍内部にはそれをよく思わない派閥もあり現状は現実とタカ派との板挟み状態であった。


レデブールが報告書に目を通していた時、扉がノックされる


「レデブール中将、ギュンター・クライン中将がお見えです」


その来客の名を聞いたレデブールは一瞬だけ眉をピクリとさせる


「…通せ!」


その言葉の直ぐ後に重厚な木製の扉がゆっくりと開かれる。扉の先には憎たらしい顔でこちらを覗く50代の中肉中背の男がいた。


 その男はレデブールが対立するタカ派の主要人物である。

彼はゆっくりと室内に歩み出す


「レデブール中将…ご機嫌いかがかな?」


「これはこれはクライン中将…わざわざこんな所までなんの御用ですかな?」


クラインの嫌味にレデブールも嫌味で返す


「異界戦線における最重要戦線である南部戦線の現状を視察に来ただけですよ」


「中将自らお越しとは…しかしあいにく今だに進展はありませんぞ?」


レデブールはバカにするような口調でクラインの言葉に返答する。


「なんと…それは聞き捨てなりませんな?それでは総統閣下も憤慨なさるでしょう」


レデブールは彼を睨む


「総統閣下?」


「ええ…私は総統閣下のご指示の元ここに来ているのですから」


クラインはニヤリと微笑む


「貴様…何を吹き込んだ?」


「人聞きの悪い事を言わないで頂きたい…私は伝統ある帝国の事を思って行動しているだけ…」


クラインの言葉にレデブールは鼻で笑う


「戦線に変わりないという事は今だに膠着状態にあると?」


「…そうだ」


「ふむ…貴殿も由緒ある一族の者であるなら、徹底抗戦するべきでは?」


クラインは彼に問い掛ける


「奴らとは根本的な戦力差があるのだぞ?」


「しかしながら、国力は我が方が勝っているはずでは?」


「我が軍は開戦当初、徹底抗戦の構えであったが結果的に戦力の3分の1を失ったのだぞ?」


レデブールはそう言うと彼を睨む


「たかが3分の1であろう?」


「たかが?」


「先の世界大戦において我が帝国は国力の3分の2以上を失ったのだ。それから比べればまだ余力はある」



「それとこれとは話が違…」


「いや変わらんよ中将」


クラインはレデブールの言葉に被せる


「我々が求めているのは結果なのだよ…過程でなくな…いいですかな?中将」


レデブールは無言で睨見つける


「総統閣下によい報告が出来ることを期待しているよ」


クラインはそう言い残して部屋を後にする。

彼が退室するやいなや、レデブールはデスク上の資料や報告書を床に投げつけた。


「クラインめ…兵の命をなんだと思っておるのだ…!?」


程なくして、再び扉がノックされ、別の男が入室してきた。


「マイヤー中佐か…」


レデブールはその男を一瞥すると呟いた。

『ヴィルヘルム・マイヤー 大佐』はレデブールの右肩的存在であり、彼が最も信頼する補佐官である。


「これはまた…随分とご乱心のようでありますな…中将」


「ああ…さっきまで疫病神が居たからな」


「疫病神?」


マイヤーは眉をひそめる。


「クラインだよ」


マイヤーは彼の言葉に納得した表情を浮かべる。


「ああ、ギュンター・クライン中将でありましたか…彼はなんと?」


「ふん!相変わらず徹底抗戦しろと言うだけだ!…しかし今回は…」


「今回は…何か?」


「総統閣下に何かしら吹き込んだようだ…!」


レデブールは机を叩く


「なるほど…総統閣下を懐柔しようという魂胆ですか…となると」


マイヤーの表情が曇る


「私を蹴落としてこの異界戦線に本格的に介入するつもりだ…そうなればこの戦争は泥沼と化すぞ…!」



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