異世界戦争
のどかな草原が地平線の先まで続く。
季節は春を終え夏になろうとしている。
暑さを増した日射しがそれを知らせるが、その暑さも時おり吹く風が紛らわし涼しさを覚える。このまま横になって目をつぶれば眠りに落ちてしまいそうなほどだ。
そんな異世界ものでよく語られるようなのどかな光景。
そんな誰もが憧れるような美しい世界は今、大きく影を落としていた…
それでは本編をどうぞ
20XX年 6月12日
帝国暦 1356年 5月29日
現地時間 午後2時07分……
草原の真ん中で、突然地面が爆ぜた。
土煙が舞い上がり、一台のクーガーHE装甲車が爆風に飲み込まれる。
車体が大きく傾き、装甲が悲鳴を上げる。
「くそっ! 地雷か!?」
「PC4被弾! PC4被弾!」
後続の装甲車から隊員たちが飛び出し、即座に展開。
この部隊の指揮官――『藤原啓一少尉』の声が無線に響く。
「全員降車! 戦闘準備!」
被弾したクーガーから隊員達がよろめきながら降車する中、敵の銃撃が降り注ぐ。
藤原は即座に指示を飛ばす。
「ランディ! 50キャリバーで応戦しろ!」
「|了解!」
「マックス! CPに連絡して火力支援を要請しろ!」
「了解!」
装甲車の銃座からブローニングM2重機関銃が咆哮を上げ、敵の射線を叩く。
マックスが無線を握りしめる。
「CP! こちらパトロール2! PC4被弾、敵襲! 座標175-155、火力支援要請!」
《こちらCP、了解。座標175-155へ砲撃開始》
数分後、ここから数十キロ後方の砲兵隊陣地からK9自走砲から放たれた砲弾の雨が空を切り裂くような音を響かせながら敵陣に降り注ぐ。
爆煙が上がり、敵の動きが止まる。
振り注ぐ砲弾により、多数の爆煙が上がり、敵のトラックが炎上。兵士たちが逃げ惑う。
「支援砲撃到達! 敵退却開始!」
マックスが車外に飛び出し、藤原に叫ぶ。
「よし!……リック!そっちは?」
「死傷者なし! 逝ったのは車だけだ!」
藤原はグッドサインを返し、即座に応戦を再開。
やがて敵の銃声は途絶え、静寂が戻った。
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ロックナプル前哨基地。
戦闘から数時間後、パトロール2が帰還し、隊員たちは車両から降りて安堵の息を吐く。
藤原少尉は被弾したクーガーの搭乗員に指示を出す。
「PC4のメンバーは医務室で精密検査だ。それ以外は装備点検後、休め」
「お疲れ様、少尉」
40代後半の『ハリー・ウィンター大佐』が近づいてくる。
彼はロックナプル前哨基地の司令官だ。
「お出迎えありがとうございます、大佐」
「大変だったな」
「いつものことですよ」
二人は会話を続ける
「相手はすぐに退いたのか?」
「ええ…砲兵隊による支援砲撃の後、すぐに」
「敵の数は?」
「兵力はおよそ30名弱だったかと…戦車やAPC等は確認させていません。トラックが3台だけです」
「なるほど…ここ最近他の前哨基地でも散発的な戦闘が多発しているようだ…それに不確定だが戦力を増強している動きもあるらしい」
「戦力増強?つまり、何か大きな作戦が?」
「分からん。だが、可能性は高いだろう」
ハリーは歩き出し、藤原もそれに続く。
「それにしても…酷いな…」
ハリーは回収された被弾した装甲車を見上げる。
「IEDか?」
「いえ、対戦車地雷です。破片から|Tellermine 35《テラーミーネ35》かと思われます」
ハリーの問いに藤原は答える
「よく耐えたな…」
「MRAPだからですよ…ハンヴィーならそのまま吹き飛んでいたでしょう」
「戦場は変われど脅威は変わらずか…何はともあれ、無事に帰って来て何よりだ。休んでくれ」
ハリーは労いの言葉を掛けると歩き出した。
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すべては、半年以上前に始まった。
20××年11月13日。
太平洋上に浮かぶ3つの大きな島。
これは民間軍事会社(PMC)『RALFラーフ.International.Defence.Force(R.I.D.F)』の拠点だ。
R.I.D.F.は世界的に最も巨大な軍事力を持つPMCで、陸、海、空の三軍を持つその規模は一国の軍隊に匹敵する。
そんなラーフ社の演習場の一角に突如巨大な時空の歪みが生じた。
よくある異世界と現代が繋がった的な流れで敵が攻めてくるかと思えば事情は違った。
その歪みからは数名の『人間』がやって来た。当初は目的も言語もわからない状態であったが、身振り手振りのコミュニケーションや相手側の魔導師が、言語習得の魔法でも使ったようで、通訳として対話が可能になった。
彼らの話は、虫のいいものだった。
「我々の世界が、謎の高度武装集団に襲われている」
「抵抗できないまま村や街が壊滅、住民は奴隷や虐殺に」
「どうしようもないので、別次元の者に助けを求めた」
というのだ。
上記にもあるが自分達で何も出来ないから他の人に頼むとはただの他力本願という所だろう。しかし、少なからず自力で抵抗はしているらしいので最後のあがきというか...
ラーフ社は最初、消極的だった。
もし本格的な介入をすれば、莫大な費用がかかる。その上、敵勢力になるであろう相手がどれ程の軍事力を持つかもわからない。
もし、現在のラーフ社を越える軍事力があるとすれば結果は目に見えている。
これ以外にも、米軍の下請け的存在になりつつあったラーフ社にはすでに手一杯の問題もある。
報酬は少ない、国力は発展途上国レベル。
介入コストは膨大、敵の軍事力も不明。
しかも中東駐留やウクライナ関連で手一杯。
軍が消極的になるのも無理はない。
だが、小規模派遣団を投入して調査を進めると……
事態は一変した。
異世界には「手付かずの石油・鉱山資源」が溢れ、広大な土地がある。
枯渇しつつある地球資源を確保でき、出所を偽れば世界市場に売れる。
かつ、敵は大国で、完全制圧でなくても莫大な賠償金が取れる。
「武力行使による平和維持」――
ラーフ社が出した最終判断だ。
軍は介入を決定した。
もちろん、莫大な代償を覚悟の上で――
それから半年。
20××年6月。
ラーフ社は膨大な陣地を奪取し、敵は大損害を被って戦線を膠着させた。
散発的な戦闘が続く中、最近の敵は……明らかに変わり始めていた。
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藤原は装具チェックを終えて基地内を歩いていた。
駐留する隊員達の談笑する声が微かに響く中、ふと駐車場に乱雑に放置された先ほどのクーガー装甲車を見つめる。
(戦場は変われど脅威は変わらずか…)
ハリーの言葉が脳裏に蘇る。藤原はクーガーに近づく。
以前いた中東での日々を思い出す。
「敵国は…オイローパ中央帝国とか言ったな…装備はナチスドイツの生き写しのようなものばかり…」
藤原は拳を握りしめ、静かに呟いた。
「100年近く経っても…戦争の中身ってのは変わらないもんだな…」
ため息を付くと傍らのクーガーを見上げる
「仲間を守ってくれてありがとうな…」
藤原は呟くと兵舎に向かって歩き出した。




