悪魔の子2
ポンポンと、チャイムが鳴った。掠れた、それでも不思議と不快じゃない音だ。
非常時のチャイムだ、それに気づいた者はすぐさま黙り込み、その異様な雰囲気に他の皆も黙り込む。
次の瞬間、何が言われるのか、痛いほどの沈黙が落ちる。
ぶつ、そう何かが途切れたような音がしてようやく人の声へと変わった。
『只今より、この辻影高等学校を帝国軍の支配下と置く。許可なく行動した者、我らに反抗の意志を見せた者は軍規により厳しく罰することを明言しておく』
帝国軍?
どうしてここに?と思ったのがみんなだったが、罰則が恐ろしく黙り込んでいた。罰則というのは、政府関係なく軍が決めたもので、軽いものでも軍施設での強制労働などきついことを全員が知っていた。どこかには、罰則により失踪した人もいるとか拷問を受けて殺された人もいるとか都市伝説じみた、それでもさもありなんな話を聞くためみんな恐れていた。
そして、みんなというのは私も含めてだ。
私、宮古綴。
『これから呼ぶ者を幹部候補生として徴兵する。心して聞くように』
淡々と続ける声はこちらの困惑を拒絶しているように有無を言わさない調子だった。
『一組井上、二組町田、吉岡』
そこまで一気に続けたあと、声は少し止まった。勘違いだろうか、少し笑ったあと柔らかな声で続いた気がした。
『…宮古』
それはわたしの名前だった。
思わず笑みが漏れたが、驚いたようにお互い顔を見合わせているクラスメイトには気づかれなかったらしい。よかった。
『以上4名、速やかに会議室まで向かうように。そして以上より軍の辻影高等学校の支配権を失い、元に戻すとする。各自楽にするように』
その言葉によってようやくクラスメイトたちはふぅっと緊張を解いた。そして、選ばれた子に言葉をかけている。それはわたしにも。
「お前、すげぇな、なんで選ばれたんだ?」
「本当だよ、がんばれよ」
「うーん、割と他の3人に関しては納得なんだがよ」
好き勝手言い募ってくるクラスメイトたち、もちろんキレたりしないが少しうんざりだ。しかもまだ分かってないと見えたがキャラを崩すわけにもいかないからへらりと笑って見せる。
「あはは、じゃとりあえず会議室行ってくるね」
「行った先で間違えだったとか言われんじゃねぇのか?あはは」
ゲラゲラ笑うクラスメイトを尻目にそっと扉を抜ける。隣のクラスを覗くと、井上と村上はもう居なかった。わたしが動くのが遅かったのか、急がなきゃと思い足を早める。
しかし、やることがある。足を止めずに進めながら、頭皮を持ち上げる。何か引っ掛かるものを手に感じてゆっくりと外す。さらりと音を立てて黒髪が肩から流れ落ちる。顳顬と首裏からも指を差し入れて顔を撫でる。ゆっくりとゲルパック状の塊が顔から剥がれ落ちた。
もう一つ隣のクラスを抜けて、階段を降りる。しばらく薄暗い廊下を進み、ようやく会議室が見える。どきりとする。いつもは駆け抜ける場所なのに今日はここに入らなきゃいけない。少しばかり躊躇うが、一つ息を吐いて決心してノックする。
「…二組、宮古綴です。入室致します」
「許可する」
「はっ」
ガチャリと入ると、全員揃っていた。目の前にはゾッとするほど美しい男。その後ろにはいかついおじさん。そして男を囲むように呼び出された3人が気まずげに座っていた。
3人は学友だったわけだが、見たこともない表情をしていた。どうしたんだろう。
しかし、それどころではない。男が、わたしを心底満足したように微笑んで見ていた。
「久しぶりね、朔夜」
「あぁ、遅かったじゃねぇか」
「うるさい」
「早く準備しろよ、そのうざったい制服も似合ってねー」
「古式ゆかしくてかわいいでしょ」
「古式ゆかしい…変な感性だな」
「そう?さ、早く出発しましょう」
「そうだな」
俺らの古巣に。




