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もしも〇〇だったら  作者: rir


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3/3

もしも勇者が平凡だったら



異世界に召喚されたとき、大輝は期待した。チート能力か、現代知識の応用か──少なくとも何か特別な力が与えられるはずだと。しかし現実は残酷だった。彼に与えられたのは「勇者」という称号だけ。魔力も剣の才能もなく、地球での知識といえばスマホゲームの攻略法と遅刻しない通学路くらいのものだった。


「魔王を倒せ」と王様は言う。大輝は首を振った。「義務なんてないです。元の世界に戻したいなら手伝いますけど」


王は冷たく言い放った。「戻る方法はない。魔王を倒すまで、ここで生きろ」


絶望したが、大輝は諦めなかった。義務はない。なら、代わりに倒してくれる人を探せばいい。過去に召喚された勇者の子孫がいると聞き、彼はある計画を立てた。


まずはこの世界の文字を学び、歴史書を読み漁った。三ヶ月後、ようやく古い記録から手がかりを見つける。五百年前に召喚された勇者「レオンハルト」の血を引く一族が、北の辺境の村に住んでいるという。


旅は厳しかった。魔物に襲われ、泥棒に狙われ、何度も死にかけた。それでも大輝は進んだ。自分が戦う理由はないが、生き延びる理由はある。この世界で平凡に暮らすために、勇者という枷を外さなければならない。


そしてついに、霧深い山あいの村にたどり着いた。村人に案内され、彼は小さな農家を訪ねた。戸を開けたのは、小麦色の肌に鍛えられた体躯の青年だった。名はカイン。その目には、先祖から受け継いだという誇りと、田舎の生活に飽きたような野心が光っていた。


大輝は深々と頭を下げた。


「お願いです。私の代わりに魔王を倒してくれませんか」


カインは一瞬驚いたように眉を上げたが、すぐに笑みを浮かべた。


「面白い。俺の先祖は勇者として召喚され、魔王を倒した。でもその後、王国は俺たちを辺境に追いやった。栄光はすべて王室のものになった」


彼は大輝の肩をポンと叩いた。


「でもな、もし俺が魔王を倒せば、今度こそ真の勇者として認められる。先祖の名誉も回復する」


大輝は胸を撫で下ろした。これでやっと、この世界で自分の居場所を見つけられる。農作業を手伝いながら、小さな店を開くことを想像した。


「ただし、一つ条件がある」とカインが言った。


「俺が戦っている間、お前はここで村を守れ。魔物が襲ってきたら、お前が戦うんだ」


大輝は凍りついた。結局、戦いからは逃れられないのか。しかしカインの目は真剣だった。


「勇者ってのはな、戦うだけじゃない。守るべきもののために立ち上がることだ。お前には戦う義務はないって言うが、この村の人々を守りたいとは思わないか?」


大輝は黙って村を見渡した。子どもたちが笑いながら駆け回り、老人たちが日向で談笑している。彼らはこの異世界で、初めて大輝を温かく迎えてくれた人々だった。


ため息をつき、大輝はうなずいた。


「わかりました。でも、戦い方は教えてください」


カインは満足そうに笑った。


「それでいい」


大輝は初めて、この世界に「帰る場所」ができたと感じた。魔王を倒すのは彼の役目ではないが、守るべきものを見つけた。それだけで、この異世界での生きる意味が、少しだけ見えてきたような気がした。


遠くで雷鳴が轟く。魔王の軍勢が動き始めたのかもしれない。しかし今日は、平凡な勇者と、栄光を渇望する青年が、不思議な同盟を結んだ日として、歴史に刻まれることはない、小さな物語の始まりだった。

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