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もしも〇〇だったら  作者: rir


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1/3

もしも勇者以外が魔王を倒したら



魔王城の巨大な鉄扉が軋みながら開いた時、勇者レオンとその一行は、すでに戦いの終わった光景を目にした。


広間の中央にある黒曜石の玉座。その前に、漆黒の鎧をまとった魔王の亡骸が倒れていた。深紅のマントは裂け、胸には一つの大きな傷が開いている。周囲には砕けた魔像の破片や、消えかかった魔法陣の残滓が散らばっていたが、生きた敵の気配はなかった。ただ、重い静寂と、冷たい石の床に広がる黒い血の跡だけが、ここで激しい戦いがあったことを物語っていた。


「…遅かったか」


聖女リリアが呟く声が、広間の高い天井に吸い込まれていった。戦士のガルドは慎重に魔王の側に近づき、鎧の傷跡を調べた。


「傷は新しい。倒されてから、せいぜい数日だろう。だが…これは我々の知るどの武器の傷跡とも違う」


魔術師のエルヴィンが杖を掲げ、周囲に残された魔力の残滓を探った。彼の目が細くなった。


「複数の者がここで戦った。少なくとも三人、いや四人か。強い魔力の痕跡が残っているが…どれも我々が知る魔法体系とは異なる。まるで、別の世界から来た者のようだ」


レオンは玉座の階段に腰を下ろし、深く息を吐いた。十年の旅。王国の命運を背負い、仲間と共に幾多の苦難を乗り越えて、ついにこの瞬間を迎えたはずだった。だが、彼らの栄光は、誰か別の者たちに奪われてしまった。


「一体、誰が…」


その時、広間の片隅でガルドが何かを見つけた。それは、小さな金属のバッジだった。錆びた鉄に、見慣れない紋章——交差した剣と杖の上に、翼を広げた梟が刻まれている。


「こんな紋章、見たことがない」


エルヴィンがバッジを受け取り、じっと見つめた。


「…一週間前、北の関所で、四人の旅人が魔王城に向かうのを見たという噂を聞いた。装備は粗末だが、瞳には尋常ならざる決意が宿っていた、と」


リリアが祈りの言葉を捧げながら、魔王の亡骸の傍らに跪いた。


「彼らもまた、魔王に大切なものを奪われた者たちだったのでしょう。たとえ名もなき冒険者であっても、その想いが真実なら…魔王を倒す資格はあったはずです」


レオンは立ち上がり、仲間たちを見回した。失望と虚無感が胸を締め付ける。しかし、彼はゆっくりと首を振った。


「確かに、我々の目的は果たされなかった。だが、魔王は倒された。王国は救われた。それでいいのではないか」


彼はガルドが拾った謎のバッジを見つめながら、続けた。


「我々の旅が無駄だったわけではない。この十年で、我々は多くの人を助け、多くの国を救ってきた。魔王を倒すことだけが、勇者の役目ではない」


エルヴィンが軽く笑った。


「では、我々はこれからどうする? 凱旋して、『魔王は名もなき冒険者たちが倒しました』と報告するのか?」


レオンは仲間の顔を一つ一つ見つめ、確かな口調で答えた。


「そうだ。そして、真実を伝えよう。英雄とは、名や地位で決まるものではなく、たとえ無名であっても正しいことを成し遂げる者だと。我々は…これからも、そうあり続けよう」


一行は魔王城を後にした。背後に残るのは、玉座に座ることのない魔王の城と、誰にも知られることなく消えていった名もなき勇者たちの伝説だった。


そして、彼らが城を出た時、遠くの丘の上で、四人の影が小さく見えた。傷だらけの鎧を身にまとった彼らは、魔王城を静かに見下ろし、やがて風の中に消えていった。


レオンはその影に向かって、そっと右手を胸に当てた。敬礼の代わりに。


「ありがとう、そして…さらばだ、名もなき勇者たちよ」


風が丘を渡り、新たな伝説の始まりを告げるように、雲の切れ間から陽光が差し込んだ。魔王のいない世界で、真の平和が始まろうとしていた。

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