第三十四話 岡山編 桃太郎の地のフルーツパフェとえびめし
春風がやわらかく頬を撫でる午後、美緒と隆司は岡山駅を降り立った。
駅前には桃太郎像が堂々と立ち、観光客たちが次々にカメラを向けている。
「うわぁ、本当に桃太郎の像があるんだね。ちょっとびっくり」
美緒が目を丸くする。
「そうだろ?岡山といえば桃太郎。駅前にあるのは定番だな」
隆司が笑いながら荷物を持ち直す。
「へぇ〜、やっぱりそうなんだ。岡山って、私の中では“桃とフルーツの国”ってイメージなんだけど」
「それも間違ってない。果物王国だからな。でも桃は夏が本番。今の季節はイチゴとか柑橘がうまいんだ」
「へぇ〜、知らなかった!フルーツって夏ばかりだと思ってた」
「春の岡山は“いちごパフェ”が外せない。行ってみるか?」
「もちろん!」
二人は駅前から繁華街へ歩き出した。
街路樹の桜がまだ花を残し、春らしい柔らかい空気をまとっている。
フルーツパフェとの出会い
評判のフルーツパフェ専門店に入ると、休日の午後とあって人で賑わっていた。
甘い香りが漂い、テーブルには色とりどりのパフェが並んでいる。
「わ、メニューが豪華!見てるだけで楽しいね」
美緒が目を輝かせる。
「だろ?季節ごとに中身が変わるんだ。春はイチゴが主役。俺は“春のよくばりパフェ”にする」
「私は、やっぱり王道のイチゴパフェかな」
ほどなくして運ばれてきたのは、艶やかな赤がまぶしいパフェ。
グラスには層をなす果物とクリームがぎっしり詰まっていた。
「おぉ……芸術作品みたい」
美緒が感嘆の声を漏らす。
「岡山は日照時間が長くて果物が甘く育つんだ。しかも農家ごとに品種を工夫してるから、質が高い」
隆司はさらりと説明する。
「へぇ〜、そんな理由があるんだ。じゃあいただきます……ん!甘酸っぱくてジューシー!」
「だろ?俺のよくばりパフェも味見してみるか?」
美緒はスプーンを伸ばして味見する。
「わぁ、柑橘が爽やか!下の方にシャインマスカットも入ってるんだね」
「そう。ハウス栽培の早い時期のやつ。春から楽しめるのが岡山らしいだろ?」
「確かに。フルーツって、それぞれ主張が強いのに、こんなに調和するんだね」
「まるで旅みたいだよな。いろんな土地の料理が思い出の中で混ざり合う」
「……父さん、そういうこと言うとちょっとカッコいいよ」
美緒は笑った。
春の街を歩きながら
パフェを食べ終え、外へ出るとひんやりとした風が気持ちいい。
「春のフルーツって、軽やかでいいな。食べた後、体がすっきりする」
隆司が言う。
「ほんとだね。岡山って“太陽の国”って呼ばれるくらい日照時間が長いんだっけ?」
「よく知ってるな。その通り。だから果物がうまい。農家の努力ももちろんあるけど、土地の恵みが大きい」
「なるほど〜。食べ物ってやっぱり土地と繋がってるんだ」
二人は川沿いを歩きながら、春の景色とフルーツの余韻を楽しんだ。
えびめしとの出会い
夕方近く、二人は繁華街の洋食店に入った。
「今日のもう一つの目当て、“えびめし”を頼もう」
隆司がメニューを開く。
「えびめし?名前だけ知ってるけど、どんな料理なの?」
美緒が首をかしげる。
「黒っぽいソース味のご飯に小エビを混ぜ込んだ洋食だ。岡山独特のB級グルメ。見た目はちょっとびっくりするけど、味は絶品」
「へぇ〜、すごく気になる!」
やがて運ばれてきた皿には、黒褐色のご飯がこんもり。
上には錦糸卵が鮮やかにのっている。
「ほんとだ、色が濃い!カレーっぽいのかな?」
「いや、カレーでもハヤシでもない。独自のソース味。さ、食べてみろよ」
「いただきまーす……!わ、ほんとだ。ソースのコクと香ばしさ、それにエビのぷりぷりが合う!」
「ご飯一粒一粒にしっかり味が絡んでるだろ?焦げた香りがクセになるんだ」
「うん、これはハマるね。東京じゃ食べられない味だ」
「岡山は洋食文化が根付いてる土地だから、こういう独特な進化を遂げた料理があるんだ」
「なるほど〜。フルーツ王国ってだけじゃないんだね」
食が教えてくれること
食べ終えて店を出ると、街は夕暮れに染まっていた。
「岡山の料理って、フルーツの華やかさと、えびめしの庶民的な力強さ、両方があるんだな」
隆司がしみじみと言う。
「うん。どっちも“人を喜ばせたい”って気持ちが詰まってる感じがする」
美緒も頷く。
「農家も料理人も根っこは同じ。人に食べてもらって笑顔になってもらうのが目的なんだろうな」
「そう考えると、今日のパフェもえびめしも、ただ美味しいだけじゃなくて、人の思いまで感じられるね」
二人は夜風に吹かれながら次の目的地を思い描いた。
「明日は広島か。お好み焼きと牡蠣鍋が待ってる」
隆司が楽しそうに言う。
「わぁ、豪華!……でも今日のえびめしも十分豪華だったな」
美緒が笑った。
「そうだな。じゃあ今夜は、フルーツとえびめしの余韻を大事にしよう」
「賛成!」
岡山の春の夜は、甘酸っぱいいちごと香ばしいえびめしの記憶を残しながら、静かに更けていった。




