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面白かったこと、楽しかったことを他人に話そうとするが、いざ顔を合わせると話す気が失せている不思議。

作者: ムクダム

 面白い映画や本に触れたり、何か楽しい出来事を経験したりすると、今度、友人や家族と会ったときにそのことを話そうかなと思うことがある。しかし、いざ顔を合わせるとその気持ちがふっと失せてしまい、当初想定したこととは全く別の会話をしていることが多い。

 歳を重ねるにつれてその傾向が強くなってきていると感じ、これはどういう理由だろうかと考えてみたのだが、そもそもそういった話をしたいと思った動機が原因らしいことが分かった。

 何かに感銘を受けた場合、一通りその感動を味わうと、なぜ自分がそのように感じたのか掘り下げたいという欲が生まれる。そして、その掘り下げに当たっては、なぜ面白いと感じたのか、どういった点に感心したのかといったことを言葉にして他人に伝えようとすることが有効である。他人に伝えるために自分の気持ちの整理、掘り下げが進むのである。他人に自分の気持ちを共有したいというよりは、自分の気持ちの整理のために他人に話をしようとしているのである。

 なんとも身勝手な動機だ。そこにちょっとした後ろめたさがあるため、聞かされる人の耳にすっと話が入るように事前の整理を入念に行うようになる。そうすることで、他人と話す前に自分の中の掘り下げが完了してしまい、話す気が失せる結果に繋がっているようだ。

 幼い頃は事前に話すことを整理するという意識が薄いから、次から次へと言葉が口から飛び出すことになるが、歳を取れば取るほど、時間は有限であり、無駄を少なくしたほうが良いという考えが芽生えてきたように感じる。人生のゴールは日々近づいてきているため、殊更意識をしていなくても、自然と効率を気にするようになるのだろうか。延々と無駄なおしゃべりをする時間というのも楽しいもので、そこに罪悪感を覚えるのは何となく寂しい気持ちにもなるが、まあ仕方ないのかもしれない。

 ところで、世の中に目を向けると、多くの人が自分の面白かったこと、楽しかったことを発信することに熱心な様子がうかがえる。電車での移動中や、喫茶店やファミレスなどで集まって対面で話をするだけではく、文章や動画をネットで発信する人もいる。対面で話すよりも、顔の知らない不特定多数を相手に語ることの方が多くなっているように思える。個人が情報を発信する手段が広く普及したことによる当然の流れだろう。

 発信する動機もさまざまだ。頭の整理のため、自分のことを知ってほしいという欲求によるもの、自分の幸せを他の人にもお裾分けしたいという純粋な厚意によるものなど多種多様である。別に悪いことをしているわけではないから、その動機に物申すのは忍びないが、ちょっと気になることがある。

 自分の感情の補完のために、他人の共感を求めて発信を行なっているようなケースが見受けられるのだ。例えば、大枚を叩いて物を購入したり、イベントに参加したりした場合に、自分が期待したほどに満足できなかった場合、購入した物や体験を他人に褒めてもらうことで、それらに対する満足度を底上げしようという思惑が感じられる。いやらしい言い方だが、元を取ろうとしているのである。他人に発信するうちに、当初は分からなかった良さを発見することができる可能性もあるが、他人の意見で自分の気持ちが上書きされる危うさもあるように思える。最初に感じた自分の気持ちというのも大事なものなのだ。

 これが行き過ぎると、他人に褒められること、羨ましがられることが自分の楽しさ、嬉しさだと勘違いしてしまうことになりかねない。補完のために利用するはずのものに、逆に本体が乗っ取られるようなもので、あまり健全な状況とは言えない。何かに触れた時、すぐに自分の気持ちをアウトプットして他人の目に晒す前に、一旦、落ち着いて自分の気持ちと向き合うことも忘れずにいたい。

 また、何かを売りつけるための宣伝目的で、楽しさ、嬉しさを発信するのはやめた方が良い。SNSなどで自分の気持ちを表現する振りをして、商品のURLを貼り付け、販売サイトに誘導するやり口が目に余る。どれもテンプレートな言葉で作成されており、投稿者自身の言葉、気持ちでないことは明らかだ。宣伝目的として割り切ってやっているものと思うが、言葉は自分に返ってくる。無節操にそういった言葉を使い続けると、言葉に縛られ、自分の気持ちを表現する術を失うことになりかねない。人生において、自分のことを自分なりに表現できなくなるほど辛いことはないのだから、目先の利益に飛びつくと酷い後悔に襲われることになるだろう。終わり

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