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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

MK is dead~転生したら早川殿だった件セルフパロディ~

掲載日:2025/09/03

タイトルにも含まれていますが、拙作『転生したら早川殿だった件』のセルフパロディです。

あえて区分するなら、ビターエンドかベターエンドに分類されると思います。

 とある病院の、一人用病室。

 窓から夕陽が差し込むその部屋の中で、少女が一人、ベッドに身を横たえていた。

 年の頃は十代後半。全身を包帯で雁字搦めにされてはいるが、幼気(いたいけ)な顔には傷一つ付いていない。

 少女が憮然とした表情で天井を見つめていると、ノックも無しに病室の扉が開かれ、無精髭を伸ばした壮年の男が入ってきた。


「せめてノックしてから入ってくれませんか、『室長』。」

「グッドニュースだ…遺体は『MK』だと、科学的に証明された。」


 『室長』と呼ばれた男が片手に持っていた封筒から抜き出し、突きつけた書類の文面を目でなぞった少女は、長い長いため息を吐いた。


「終わった…これで終わったんですよね。まさかクローンとデジタル技術の合わせ技でMKのバックアップが存在するとか、そんなどんでん返しは無いですよね、室長?」

「その可能性は限りなく低いだろう。MKは血液、唾液、皮膚片…髪の毛一本に至るまで現場から徹底的に隠滅してきた。科学捜査が発達してからは尚更だ。そんな女が、自分の生体情報に繋がりかねない爆弾を進んで作っておくとは思えない。」

「何か、分かった事は?」

「…『極めて健康的な二十代女性の遺体』だとさ。大した女だよ、見かけどころか中身まで、百年以上サバを読んでたんだからな。」


 少女と室長は日本政府に所属するとある秘密組織の一員である。

 その最優先目標は『MK』――はるか昔から日本の、あるいは世界の歴史の裏で暗躍して来た謎の女スパイを抹殺する事にあった。


「室長にあの写真を見せられた時はビックリしましたよ…西南戦争、五一五事件、二二六事件、極東軍事裁判…明治から昭和にかけて撮影された写真に、同じ顔の女が写ってるとかホラーでしたもん。」

「極秘資料だ、忘れるな…大西洋憲章の調印やヤルタ会談でも目撃されているらしい。」

「マジですか…結局、MKは何がしたかったんですか?バックには誰が?」


 少女の疑問はもっともだった。

 通称すら不明瞭な秘密結社を運営する財力と経営能力、訓練を受けた成人男性を赤子のようにあしらう体術、三桁の言語を自在に操る語学力、男女問わず成り済ます事が可能な変装術…。謎を列挙すればキリがない女だったが、関係者の頭を最も悩ませたのはただ一点…MKの行動原理が掴めない事にあった。

 国家を後ろ盾とする組織は国家の利益となるよう動き、金銭を目的とする組織は金目当てで動く。だがMKとその手下達は、ある時は日本の為に動き、ある時は日本の敵として暗躍した。明らかに資産が目的と思われる行動もあれば、投下資金の割にリターンの乏しい行動もあった。

 行動原理が不明確である事は必然的に裏社会での畏怖と尊敬を集め…いつしかMKに関わる事は世界中の治安機関、諜報機関にとっての禁忌(タブー)あるいは切札(ジョーカー)と成り果てていた。

 そのMKの息の根を止めたのが、誰あろう病床に横たわる少女だ。

 結局、本人の息のある内にその行動原理を聞き出す事は出来なかったのだが。


「これは俺の仮説だが…全ては今川家のため。復讐と復権が目的だったんじゃないか、と思う。」

「今川…って、今川財閥の?何でそこで今川が出て来るんですか?」


 今川家は、現在の日本で「陰の実力者」とも称される一族だ。

 かつて江戸幕府の庇護の下で「高家」を歴任した今川家は、明治維新によって拠り所を失い、断絶する――かに見えた。

 だが、文化的事業の世界展開に成功する事で資産家として復権。政財界で隠然たる影響力を確保し、太平洋戦争末期には連合国との折衝まで務めた。

 戦後、連合国が主導した極東軍事裁判と新憲法制定に伴い、旧来の政治勢力は今川家を除いて壊滅。以降80年近くに渡って、今川家は「内閣以上皇室未満」と例えられる、危うい地位の上にある。


「こう考えたらどうだ?明治初期の士族の反乱は、かつて江戸幕府を転覆させた連中を共倒れさせるためのMKの陰謀だった。昭和初期のゴタゴタで暗殺された政治家の何人かは『新政府軍』の係累だ。そして最後に、連合国の力を利用して仇を一掃した…。」

「そんな…あの戦争で大勢の人が死んでるんですよ?今川家に直接危害を加えた訳でも無いのに…。MKはそれを見過ごしたんですか?大義の為に?」

「俺に聞くな、仮説だと言っただろ…慎重なMKには珍しく、メモ帳が数冊見付かった。今解読班が解析中だ、その内何か分かるかも知れん。まあ、とにかく…よく頑張った。とりあえず、休め。学校と『アルバイト料』の話は…また今度にしよう。」




 病院を後にした室長は、走り出した車の後部座席でスマホを取り出し、目当ての番号をタップして相手の応答を待った。


「…もしもし、MK対策室室長です。」

≪お待ちしておりました。あの子の容体は…?≫

「全身に銃創と打撲…ですが顔には傷一つありません。…やはり仮説は正しかったかと。」

≪MKが今川の血族に危害を加えた事は無い…貴方の予想は正しかったと、そういう事ですね?≫

「ええ、無理を言ってアイツを修羅場に放り込んだ甲斐がありました。一つだけ不可解な点があるとすれば…MKは今回に限って、アイツへの接触がやけに多かった。今川の血族は他にもいるのに、です。」

≪逃走ルートがある状態であの子との戦闘を継続した…それも初めてのケースなのですね?≫

「これから資料を洗い直しますが、恐らく。それと、アイツ…早川(はやかわ)(ゆい)の養子縁組の件ですが…。」

≪それが…一族の中でも意見が割れておりまして。世間の評判を思うと、私もこのままの方が良いのでは、と…。≫

「一度当人と話してやってくれませんか。こんな業界に引き込んだ私が言えた義理じゃありませんが…自分に『家族』がいると、知っているのと知らないとでは…天と地ほどの差があると思います。」

≪…考えておきます。それでは…。≫


 相手が通信を切った事を確認して、室長はスマホをポケットに仕舞った。


「ホント…どうして『風間(Kazama)百子(Momoko)』なんて分かりやすい偽名で早川唯(アイツ)との接触を繰り返したのやら…メモ帳を解読したら分かるのかねえ。」

(案外、昔の恩人に顔がそっくりだったから…だったりしてな。)


 気の抜けた苦笑を浮かべる室長の視界の端で、夕陽が山裾へと消えていく。


「何にせよ、ひい爺さんから続く因縁もこれでお終いだ…あばよ、『MK』。」


 それは、一世紀以上に渡って続いて来た暗闘に終止符を打つ…ほろ苦い勝利宣言だった。

※以下ネタバレ

拙作『転生したら早川殿だった件』を未読の方にはピンと来ない内容だったかも知れませんが、同作に登場する女忍者『(もも)』が闇落ちしたら…という話でした。

『百』は『早川殿』に絶対的な忠誠を誓っているため、『早川殿』の死後も今川家のために尽くそうとしてやり過ぎた場合、このような結末になるのではないかと妄想しました。

実際には『早川殿』が遺言で行動を規制するので、このような事態にはならない…と思います。多分。

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