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約束



配信を切った後も妙に落ち着かなかった。


そもそも今日という1日が非日常で、落ち着いてなんかいられない。


焦燥感なのか幸福感なのかわからない感情を胸に僕はベッドへと倒れる




いつの間にかしっかり寝てしまってはいた。






翌日の電車内、妙な胸騒ぎで落ち着かなかった。



座席で見慣れたなんの変哲もない景色を見送る。


正確には景色は何も入ってこない、ただ見るという作業をしているだけ。



ぼーーっと眺めているとコツコツと足音が聞こえてくる。


動いてる車内でよく歩けるものだ。

車掌さんかな?


その姿を確認せずに窓の外を見ていると



「わわっ…」


小さな声と一緒に、視界の端で影が揺れた。


(…ん?)


視界を戻した次の瞬間。


「ひゃっ…」


ドカンっ、と。


何かが、僕の上に落ちてきた。


全身に、特に足腰にものすごい衝撃が走る。



「痛ッ!?」


反射的に声が出る。


気づいた時には、


僕の膝の上に、滝川さんが跨っていた。


「……」


「……」


一瞬、時間が止まる。



ラブコメでよくあるシチュエーション。


ラッキースケベって言うの?



それは二次元の話で、三次元は重みと衝撃が先に来るぞ…。



あんな生優しいものではないと身をもって体験出来た。


例えて言うなら椅子から転げ落ちたような…。


あと周りの目線。


他の乗客、主に生徒たちはまるで見てはいけないものを見たような表情をしている。


うん、わかる、僕だったら目を逸らすもん。


「ご、ごめんなさい〜!」


滝川さんは慌てているが、電車がガタンと揺れる。


「わっ」


今度は完全にバランスを崩して、


ぎゅっ、と。


抱きつく形で、僕の胸元に顔を埋めた。


「ちょっ…!」


近い、重い近い近い重い。


柔らかいし、重いし、いい匂いするし、心臓に悪すぎる。


「す、すみません〜…電車のバランス、難しいです〜…」


声が、近すぎる。


というか、ほぼ耳元。


(無理無理無理無理)


「い、一回離れて…!」


「むぅ…はい〜…」


不服そうな顔で、ゆっくりと離れる。


何が不満なんだよ!!


滝川さんは僕の隣に、ちょこんと座り直した。


「おはようございます〜」


何事もなかったみたいに、ふにゃっと笑う。


「…おはよう」


心臓の音が、うるさい。


「びっくりしました〜…三田さん、ちゃんといましたね〜」


「いやいるでしょ…」


「もしかしたら逃げてるかもって思ってました〜」


「……」


逃げてはないけど…不安だったよ。


滝川さんは、少しだけ体を寄せてくる。


さっきよりは距離があるけど、それでも近い。


「約束、一回ですよね〜」


「…うん」


「だから〜今日はその一回です〜」


軽い調子なのに、逃げ道を塞ぐみたいに。


「……」


「ねえねえ、三田さん、滝川、重くなかったですか?」


「うん、重かった、体メチャクチャ痛い」


「ええ!大丈夫ですか〜?」


そう言って滝川さんは僕の手や腹を摩り始める。


「ちょっ…くすぐったいから!」


「だって〜…滝川の体重で骨でも折れていたら…」


「なら摩ってないで病院連れてってよ!」


「ええ!骨折しているんですか〜?ど、どうしましょう…障害事件です〜…と、とにかく病院に…」


「…落ち着いて…折れてないから…」


「はあ〜良かった〜…でも、大丈夫ですか?」


大丈夫、か…各部を打診してみるが特に異常はなさそうだ。


「…うん、大丈夫みたい」


「…うぅ…ごめんなさい…怒っていますか?」


「いや、全然」


「嘘です〜さっきから全然こっち見てくれないです〜」


「……」


見てないことについてはその通りだった。


見たら、余計にまずい気がして。


「断言する、怒ってないから…」


「ふーーーん…」


僕、心臓に負担がかかり過ぎて長生きできないと思う。


「ガライヤさんの時と違って、三田さんはクールですね〜」


「なっ…」


「ギャップ萌えですね〜滝川、そういうの、好きです〜」


心臓が、またうるさくなる。


じわじわと締め付けられるような、せかせかとした落ち着かなさ。


(…何が一回分だよ…そもそも無理だろ、これ)


一回で済むわけがない。


そして何が無理なのか、言語かするには僕の語彙力が足りなさ過ぎる。




気づけばもう最寄り駅だった。


立ち上がる。


距離をしっかり取る。


さっきみたいな事故は、もうごめんだ。


「……」


横を見ると、


滝川さんは、少しだけ名残惜しそうにこちらを見ていた。


「なに」


「いえ〜?」


そのまま、改札へ向かう。


駅から学校までは、歩いてすぐだ。


並んで歩く。





「三田さん〜」


「…なに」


「今日のお昼〜」


嫌な予感がする。


「…なに」


「一緒に食べませんか〜?」


やっぱり来た。


「……」


「その一回に、お昼も入りますか〜?」


にこにこと。


でも、逃がさない聞き方。


「いや、それは…」


「ダメですか〜?」


少しだけ、覗き込まれる。


(ズルいだろ、その聞き方…)


断りづらい。


というかもう負けてる。


「…場所は?」


気づいたら、そう聞いていた。


「やった〜」


ぱっと明るくなる。


「屋上とかどうですか〜?」


「ないよ、屋上なんて」


「え〜?そうでしたっけ?」


適当だな。なんで自分の通ってる高校の屋上のある無しがわかんないんだ。


「……じゃあ、中庭で」


何故か僕の方から場所の提案をしていた。


だって嫌とかじゃないし…。


「はい〜!」


即答。


その声が、やけに嬉しそうで。


「……」


(なんでそんな嬉しそうなんだよ…)


校門が見えてくる。


「お昼、楽しみです〜」


そう言って、


「……うん」


短く返す。


滝川さんは、少しだけこちらを見て、


「逃げないでくださいね〜?」


なんて軽く言ってはいるが、ものすごい圧を感じた気がした。


「……」


言い返せない。


というか、言い返したら、何かが壊れそうで。


「…逃げないよ」


気づけば、そう答えていた。


滝川さんは、一瞬だけ目を丸くして、それから


「えへへ〜」


満足そうに笑った。


――なんなんだよ。


この距離感。


このテンポ。


この感情の揺さぶり方。


(…おかしいだろ)


出会って、まだ一日も経ってない。


なのに…まるで。


ずっと前から知ってるみたいな距離で、当然みたいに隣にいて、当然みたいに約束を増やしてくる。




何が目的なんだ?


僕なんかと関わって、何がある?


…分からない。


…なんでこんなに、急に、距離を詰めてくるんだ??



いや、でも案外一日フレンドみたいな感じで明日には他人になるのだろうか…?


そんな不安が襲ってくる。


不安なのに、嫌じゃない、むしろ嬉しくて、だからこそタチが悪い。

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