僕の自己紹介
向こうから聞かれないのは軽く心外だけど、このタイミングなら良いだろう、お兄さん呼ばわりはなんだか変な気分なので、名乗ろう。
「…三田です」
「えっ何を見たんですか?…あっ、お兄さんのスマホを拾った時に滝川、パンツ見えていましたか!?きゃー」
「………」
なんだこの人、急に、すごいベラベラと訳の分からない事を…。
あ、僕の苗字の三田と見たが掛かっているのか。
くだらない!実にくだらないよ!!
「いや、僕の名前…三田竜也って言います…」
「あー…なるほどですね〜竜也さんですね〜」
ドキッ
っとした。
いきなり下の名前で呼ぶかね?
(ちなみに配信者としてはガライヤさんだけどね)
「滝川の下の名前は〜…なんだと思います〜?」
なんだそれ、
分かるわけないじゃないか。
名前なんて何通りあると思っているんだよ。
「…ヒント、ありますか?」
「ありますよ〜」
滝川さんは、指を3本立てた。
「ひらがなで3文字、漢字だと2文字です〜」
「…」
一気に候補が増えた気がするのは気のせいだろうか。
分かるわけないが、何も答えないのも芸がない。
何かそれっぽい名前…。
「愛奈…?」
「全然違います〜」
あ、違った。
「香凛?」
「違います〜」
楽しそうに首を振る。
(くっ…分かるわきゃないだろ)
「…結奈?」
一瞬、動きが止まった。
正解…??
「…惜しいです〜」
「え、近い?」
「ゆは合ってます〜」
ゆ、で始まる三文字。
コレも多いぞ、
ゆかり、ゆずき、ゆみこ、ゆりかetc…
「…もうひと声ヒントを…」
「欲張りさんですね〜…冬に関する名前です〜」
別に欲張ったつもりはないが…。
ゆで始まる冬に関するもの…。
冬至の柚子…?
「柚葉…?」
「なんでですか〜!柚は関係ないです〜!冬と言ったら雪じゃないですか〜って、あ〜!言っちゃった〜!」
柚だって関係あるだろう。
あと口を滑らせてくれたおかげでだいぶ近づいたぞ、雪か…。
雪なんとか、この時点で少し珍しい名前なのかな。
「雪…雪…ああ、ダメだ、パッと出てこない…!」
沙雪とか、深雪とかなら分かるんだけど…最初が雪だと全く思い浮かばない。
頭を抱えていると、
「正解は雪美です〜」
答えを言われた。
なら最初から言ってくれたら良いのに…。
「雪美さん」
僕が復唱した途端、滝川さんの足がピタリと止まった。
「えっ、どうしたの?」
滝川さんは両手で顔を覆い
「きゅ、急に下の名前呼ばれると〜照れちゃいます〜」
と、籠った声でそう言った。
「……」
僕だってドキッとしたけど、自分から名前当てゲーム仕掛けておいて、それはないんじゃないかな!
心の中でツッコミを入れつつ、表情には出さないようにする。
「……あ、じゃあ」
少しだけ間を置いて、言い直す。
「滝川さん、でいいですか」
顔を覆っていた指の隙間から、ちらっとこちらを見る。
「…それはそれで、ちょっと他人行儀です〜」
「どっちなんですか」
「どっちもです〜」
なんだそれ。
でも、声はもう落ち着いている。
滝川さんは歩き出しながらぽつりと言った。
「でも〜…」
「?」
「下の名前で呼ばれるの、嫌じゃないですよ〜?」
一瞬、また足が止まりかける。
「…心の準備がいるだけです〜」
「じゃあ…」
喉を鳴らしてから、慎重に。
「…雪美さん」
今度は止まらない。
でも、歩く速度が、ほんの少しだけ落ちた。
でも。
「…やっぱり、ヤバいです…」
「!?」
何がやばいと言うのだろうか?
僕はこれからも問答無用で「滝川さん」呼びにする事にしよう、呼ぶ方だって恥ずかしいし。
配信だと名前を呼ぶのに全く抵抗ないのに、やはり現実だとこんなにも変な感じになるのか…。
この出来事は今日の配信で話そう。
配信で思い出したけど滝川さん、良い声だよな、配信とかやってたりするのだろうか…?
「滝川さんって…」
「…はい〜?」
「配信とかやってたりするんですかね?」
「…配信…?」
滝川さんは眉間に皺を寄せて考え込んでいる。
ダメだ、コレはやってない、もしくはそんな界隈知らないって顔だ。
「…いや、なんでもない、です、ただそういうのやっているのかなって思っただけ…です」
「なっ…!滝川、そんなふしだらな女じゃないですっ」
滝川さんは目を見開いて首を振っている。
「はあ?」
なんだこの人。
何と勘違いしているのだろうか。
「…配信って言うのは…」
生配信か否か、顔出しするかしないか、ゲームするか歌うか喋るか、配信と言うのは様々な種類がある。
ニ○ニコやYou○ube、それに僕が使っているアプリの名前を例に挙げて説明した。
「そうだったんですね〜…滝川の知らない世界です〜、滝川、変な勘違いをしていました〜…恥ずかしい〜」
(本当にね)
表情には出さず心の中だけで苦笑する。
「でも滝川、本当にそういうの、やった事ないです〜口下手なので〜」
(大概喋るじゃないか、まあ口下手と言えば下手かもだけど…)
「ふーん、滝川さん、いい声してるからそういうの向いてそうだけど」
「あうぅ〜…」
「??」
変な呻き声を上げた滝川さんは両手で顔を覆う。
「そんなに褒められると〜…調子が〜…」
その声と仕草に思わず口元が緩む。
配信上、何人かの異性と関わったけど…
その度に割と気恥ずかしさだったり、喜びだったりを感じたけど…こんな生々しく、素直なトキメキを感じたのは初めてだ。
全身が痺れるこの感じ。
アニメや漫画のようなこの美味しい展開、良いのか…?コレは…。
え、なんか作り話みたいな展開だけど、コレは配信で話したい!!
「三田さ〜ん…」
「あ、はい!」
「三田さんは〜配信とか、そういうのお好きですか〜?」
「好きって言うか…やってるけど」
自然と配信アプリの画面を開き、滝川さんに見せる。
「ほえ〜…」
滝川さんは興味があるのかないのか分からないような反応を示す。
「滝川も〜三田さんの配信見てみたいです〜」
「えっ…それはちょっと…」
「なんでですか〜?」
「だって…恥ずかしいし…」
「普段恥ずかしい事を言っているんですか〜?」
そうじゃないだろ。
まあ、確かに配信者としての僕は現実の僕より多少明るいと思うけど…
そのテンションの違いを見られるのは非常ーーに恥ずかしい!
というかなんでポロっと配信やってるなんてバラしてしまったのだろーか!
…まあ、見に来れるわけないのだから、それは良いか。
つづく




