第1話 気づけば異世界、そして小屋でした
※一部、主人公の紹介を加えて調整しました。再投稿です!
目を覚ました時、そこは木の小屋の中だった。
天井は高くて、年季の入った梁がゆるやかに曲線を描いている。
古いけれど、どこか落ち着く匂いがした。
干し草の上に体を起こし、そっと息を吸い込む。
あたりは静かで、空気は少しひんやりしていて。
誰かの気配はなく、ただ、小鳥のさえずりと風の音だけが聞こえていた。
(……ここ、どこ?)
自分の記憶を辿る。
確か、前の世界では――
家電メーカーで働いていた。開発部で、試作品をいじったり、改良したりするのが好きで、
休日はずっとDIYに夢中で、工具や素材を触っていると落ち着いた。
変わり者だって言われてたけど、それでも物を作るのが好きだった。
「名前は……リアナ、でいいのかな?」
ぽつりと呟いてみる。
鏡があるわけじゃないけど、なんとなく“自分”の名前はそれだとわかる気がした。
前の世界では違った名前だった気がするけれど、今はもう――この世界にいる。
不思議と、怖くはなかった。
「なんとかなる。……きっと、なるよね」
そう呟いて、そばに置かれていた小さなポーチを手に取る。
中には、数枚の銀貨、小さなナイフ、簡素な道具袋。
(……いわゆる“初期装備”ってやつ?)
思わずそんなツッコミが浮かぶあたり、自分は案外、冷静なのかもしれない。
少しして、小屋の扉をそっと開ける。
差し込んできた朝の光は、やわらかくて優しくて――
私は、新しい世界の最初の一歩を、静かに踏み出した。