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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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もし明日があるなら…

作者: あずき

20XX年 八月十九日ー


「おい!大変だ―!」 

一人の男性が慌ただしくやって来た。片腕にラジオを抱えている。

「どうしたんだ?」

「こ、ここにもうすぐミサイルが飛んでくるらしい!」

「なんだって?!」

その場にいた皆がざわつき出した。

「ね、ねえ!あれ…」

女性が窓の外を指差した。

雲一つない青空の向こうに戦闘機が何台も見えた。


去年の八月二日に第X次戦争が始まった。

どこの国も巻き込まれ、今までにないほどの大規模な戦争となった。もうどことどこが戦ってるのか、誰が味方で誰が敵かなんて、よく分からなかった。


「つい最近まで、私達ふつーだったんだよね」

配られたサンドイッチを頬張りながら、ゆかはポツリと呟いた。

「ふつーって?」

隣で聞いていたセキヤが聞き返す。

「え…それは、ふつーに高校通って、授業受けて、友達と喋って、家帰って、あったかいご飯食べて、あったかいお風呂入って、あったかいお布団で寝て…」

サンドイッチは冷え切っていた。味もなんだか、砂のようだ。

「でも、戦争始まるかもって前々から言われてたろ」

「信じたくなかったんだよ。まさか、本当にこうなっちゃうなんてさ」

ゆかは足元の石を眺めた。二人はまだ制服姿だった。

ゆかとセキヤは今高校に二年生のはずだ。

本来なら。

去年の夏から第X次戦争が始まり、日本は参加して高校には当然通えなくなった。夏休みもなくなった。そんなことはちっぽけなことだろうけど。 

家も、友達も、家族もー。

大切なものを幾つも失い、二人の日常は崩壊しつつあった。

今は元々住んでいたところから遠く離れた避難所に避難し、全く知らない人達とぎゅうぎゅうに詰まった狭い空間で暮らしている。食料は国から配給されてるが、もうそろそろ尽きそうだ。

「っていうか、もう戦争自体終わるんじゃね?」

「…人類が絶滅するから?」

ゆかの返答に、セキヤはこくりと頷く。 


二人は薄々気づいていた。

もうすぐ世界が滅ぶことに。きっと何もかも、みんななくなってしまう。


サイレンがウォンウォンとうるさく鳴り響いている。遠くの空に戦闘機が見えた。あれがどこの国のものなのかすら、二人は知らない。

「なぁ」

「なによ」

「人間ってさ、結構馬鹿だよな」

「そうかもね」

「なんで仲良くできねぇんだろうな」

「ほんとそれな」

「なんでこうなるまで誰も止めないんだろうな」

「やめるにやめれなかったんだろうね」


「そのサンドイッチ一口くれよ」

「やだよ、これ私のなんだから」

戦闘機が近づいてくる。いつの間にか向こうのの空は赤く染まっていた。爆発と、悲鳴が聞こえる。

なんとなく、現実味がない景色だ。

「逃げねぇの?」

「どこに逃げるのよ?もうすぐ全部なくなるのに」

「だよなぁ」

 

戦闘機がさらに近づいてきた。けど、不思議と怖くはなかった。ただ、もっと生きたかったなぁと、ぼんやり未練を感じた。


「なぁ」

「なによ」

「生まれ変わったら何になりたい?」

「えー、でも、人間はいいや。もうこりごり」

「俺も人間にはなりたくない。カブトムシかな」

「そういえばカブトムシ好きなんだっけ?」

「ああ。ホントなら今年も虫取りしたかった」

「子供っぽいわね」

「あ、でも…」

「?」


セキヤがゆかを真っ直ぐに見る。キラキラと熱い輝きをもつ、真剣な眼差しだった。


「生まれ変わっても、またお前に会いたいな」

「私も、生まれ変わってもあんたに会いたいわね」

それから、どちらともなく照れくさそうに笑い合った。


戦闘機からミサイルが投下された。ゆかたちにめがけて真っ直ぐに降ってくる。


「ねぇ」

「なんだよ」

「もし明日があるなら」


ミサイルが落ちてきた。

一段と大きな音がして、辺りは何もかも吹き飛ばされた。


ーもし明日があるなら、あんたに告白するよ。


ミサイルが落ちた時、

二人は恋に落ちた。


お読みいただきありがとうございました!

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