アストとランティアとのお話
「主様。お洋服が届きました」
「さぁ袖はこちらです」
二人に言われるがまま、先日注文した服が納品された。
仕事が速い。
支払いは……。
「ナズナ様がされます。経理はナズナ様のお仕事ですから」
「主様、早く着てみせてくださいな」
二人に急かされるように。
誰かに服を着せてもらうなんていつぶりか。
弟、妹がいたから、自分のことは自分でしないといけないと思った。
先生の手を煩わしてはいけないと。
物心ついた時から自分がほかと違うことに気づいていた。
それが魔法と呼ばれるものであること。
先生が教えてくれた。
使い方。
考え方。
そして意味を。
時々妹たちが虐めを受けたとき、こっそりやり返していた。
私のかわいい大切な愛する存在がないがしろにされることが、どうにもならないくらい苦しくて。
自分のこの感情は間違いだと思った。
だから、先生に相談したら、受け入れていいと。
間違いではないと。
大切な存在がいて、心が痛むのは当たり前。
そのままでいいと。
嬉しかった。
認めてもらえたことが。
でもちゃんと怒られた。
魔法は傷つけるのではなく守るために使うように。
「やっぱり主様には淡い色が合います」
「伸縮性に長けた布地ですので、動きやすいと思いますが、苦しくはないですか?」
同じ顔が私を見上げている。
「大丈夫です。とても体に合っています」
動きやすい。
伸縮性に長けているということが売りだと説明されたけど。
偽りはなしのよう。
形も流行りのものなのかしら。そういうことに疎いから、二人にお願いしたけれど。
色合いはとても好き。
……でもふとよぎってしまう。
妹のあの子が好きそう。と。
「とてもお似合いです」
「やっぱり主様はなんでも似合いますね」
「この服なら装飾はこれかな」
「こちらじゃない?」
私をおいて、二人が盛り上がっている。
渡される装飾は以前からあるもの。
時代関係なく綺麗なものを選んでいた。
先代のものだけど、私が使っていいと。
鏡にうつる私はどこか私じゃないみたい。
「少しいいですか?」
「はい」
「なんでしょう?」
二人の声が綺麗に重なって私を見つめている。
「二人は前のこの屋敷の主人にもこんな風にお仕えしていたんですか?」
年齢からして。
この屋敷に先代の主がいたのが最近であればありえる。
でも皆様の様子からしてそれは違う気がする。
少なくとも、私以外の魔法使いはここにはいない。
かなり前だ。いたとしても。
それぐらい、魔法使いの香りがない。
私たち魔法使いは、同胞を香りで見つける。
特有の香り。
それがない。
この屋敷が魔法使いのためにあるのであれば、以前の主も魔法使いと考えるのが妥当。
香りのなさから、二人の年齢から考えればそもそもここにいないと思う。
「私たちはメイドです」
「主様にお仕えするのが仕事です」
「お着替えも」
「お掃除も」
「主様が心地よく過ごせるように」
「主様が主様であれるように」
「そのためにあります」
「主様がいて存在できるのです」
「使用人とはそういうものです」
まっすぐ。
偽りのない言葉。
……。
「……そうですか」
それ以上聞くことが憚れた。
そんな気がした。
怖いと思った。
笑顔で。
可愛らしい二人。
テキパキと動かれる姿はお仕事として、しっかりと務められている。
有無を言わせない声だった。
それ以外答えなどないかのようで。
それが当たり前で。
疑問などなくて。
「こちらがお茶会用ですね。でしたら装飾はこれでしょうか」
「二人に任せます」
「ありがとうございます!」
パッと花が咲くように笑う。
……こういうところは、年相応というのかしら。
「なんでも言ってください」
「私たちは主様のためにあるのです」
基本的に自分のことは自分でしてきた。
だからなにかを頼むことがない。
その事が不服のようで。
今日、何度目だろうか。
「……ではお茶をお願いできますか」
鳴らされない鈴がただ机にならんでいる。
「承知しました!」
嬉しそうにお二人が準備を始められた。
香りがふわりと舞う。
慣れた手つき。
綺麗な所作。
……どこでそういったことを学ぶのだろう。
私も先生から淹れ方や茶葉について、教えていただいたけれど。この綺麗な所作は、一朝一夕でできるものではないと感じた。
……どこか、年齢を越えるような……。