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わからない

 皆さんとお話させていただいた、感想としては。


 カンパニュラさんとナズナさん以外は若く年が近く感じられた。

 メイドのアストさんとランティアさん、庭師の弟のタンケイさんはより年が近いように感じる。


 ナズナさんはとても分かりやすく主人としての仕事をお話しくださった。


 「スファレライト様にはこのお屋敷の主人として、年に数回行われるお茶会の主催を。そして、魔法使いのためにこのお屋敷の主人として生きてください」


 意味がわからない。

 お茶会の主催はまだわかる。

 こういうお屋敷ではお茶会をすることがあると聞いたことがある。

 情報交換の場として活用されているとか。

 孤児院に寄付をしているお金持ち。

 そういう人たちはこのお屋敷のように大きな家に住んでいて、兄弟たちが働いている。

 使用人として。

 読み書きが出来るとその分仕事の幅が広がる。

 外にでた兄弟たちは仕送りをしてくれている。

 それもまた、孤児院の経営に大きく貢献しているし、弟たちの就職先にもつながる。

 信用があるから。

 得られる情報を孤児院に持っていこう。

 あの子達の未来に繋げたい。

 

 でも魔法使いのために主人でいるってどういうこと?


 「ナズナさん。それはどういうことでしょうか。魔法使いのためって……」

 「スファレライト様が魔法使いであることは存じ上げています。ほかにも同じような方がいることも。この屋敷は魔法使いのためにあります。魔法使いのための屋敷の主人は、魔法使いのために存在するのです」

 ふんわりと笑った。


 ……わからない。 


 「あなたはこの屋敷の主人となる。我々はあなたを心からお慕いしております」


 ……わからない。

 まだ出会って数時間。

 私はこの方たちを知らないのに。

 どうして、こんなにもまっすぐ私を見つめるのだろうか。

 まっすぐ、慕っているというのだろうか。


 「……どうしてですか?」

 「どうされましたか?」

 「どうして私を慕っていると?」

 「あなただからです。スファレライト様だからお慕いしているのです。それ以外ございません」


 ……私だから?


 わからない。


 私が弟たちに想ってもらえるのは、私が自慢できる存在だから。

 私が先生いわく、秀才だから。

 孤児院に寄付があるのも、孤児院に価値があるから。寄付をする意味があるから。

 孤児院の価値は先生やそこにいる子供たち。

 私たちの価値。

 私たちの価値は先生がつけてくれた。

 先生によって私には価値が与えられた。

 先生が価値をくれたのは、私が秀才だから。

 それに応じて、たくさんのことを教えてくれた。

 全部、私が相手に見合うなにかを提示しているから、慕ってもらえる。


 なのに、この人は違う。

 私はこの人になにも提示していない。

 この人だけじゃない。

 メイドの双子さんにも、家令のカンパニュラさん、庭師のお二人、料理人のダリアさん、家庭教師のキルサンタスさん。

 一緒に夕食をとったけれど、みなさん私をナズナさんが向けてくださる目と同じで。

 一緒に夕食をとること自体、驚かれて断られたけれど、無理をいってお願いした。

 一人での食事は嫌だった。

 孤児院ではいつだってみんなで一緒にだ。


 「主様にまた料理を振る舞えて本当に嬉しい。お口に合いましたでしょうか」

 「とても美味しいです。どれも。とても」

 「よかったです! あースファレライト様はお若いからこういうのでは物足りないかもしれませんが……。デザートもありますよ」

 「ありがとうございます」

 机一杯に並べられた料理はあっという間になくなった。

 といってもみんなとても静かに食事されていた。

 孤児院でもみんなゆっくりと静かに食事していた。

 みなさん作法が綺麗だった。

 音もなく動かれていて、無駄のない動きで。


 ……お兄様たちを思い出してしまう。


 似ていないのに。

 とても似ている。


 「スファレライト様。本日はいかがだったでしょうか」

 ナズナさんが寝る前のハーブティーをいれてくださった。

 「皆さんと少しお話させていただきましたが、とてもいい方ばかりで。主人として精一杯がんばります」

 「頑張る必要はありませんよ。主様は主様。スファレライト様であればそれだけで。それが何よりなので」


 まただ。

 私が私であること。

 それ以上のことを求められない。


 「このハーブティーとても美味しいです」


 とりあえずにっこりと笑う。


 うそをついてはいけない。


 それは先生からの教え。

 魔法使いである私たちは、人よりできることが違う。この力の使い方次第では、簡単にこの国をなかったことにできる。

 跡形もなく。

 だからせめて、誠実であれ。

 正しくあれ。

 完全無欠になれなくても、それに近づくように。

 その一歩が、うそをつかない。


 「それはなによりです。……さて。明日の予定ですが」

 カップをおいて、向かい合う。

 「スファレライト様はとても荷物が少ないように感じます。これから多くの人の目にそのお姿がうつります。さっそく、仕立て屋を呼んでおりますので、アスト、ランティアとともに服の購入を。仕立て屋に声をかけておりますので、スファレライト様が好まれるものを、お選びください」


 ……。

 服。


 かばん一つできた。

 孤児院では共有のものがほとんど。

 おさがり。

 もちろん新しいものを誕生日に先生が買ってくれたが、私は服よりも勉強道具を求めた。

 妹たちがボロボロの筆記用具を使っているのが嫌だったから。

 少し使って、すぐに共有にした。

 先生も許してくれたし、みんなそうしていた。


 私だけのものでいえば、ほんとうに鞄に入れてきたものだけ。

 それもたいしてない。

 動きやすい数着の服と、先生がここに来るために用意してくれた新着。筆記用具。

 髪飾り。


 それだけ。


 「……ありがとうございます」

 ハーブティーのお礼と同じ笑みを浮かべる。


 どうしようか。

 好みといわれてもわからない。

 今日はわからないことばかり。


 マラカイトお兄様ならきっとそんなことはないのだろう。

 ……私が主人でいいのかしら。

 先生は必要だと。

 彼らも、私がいいと。


 ……なにもわからない。

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