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初めまして

 「あなたが私たちの主人のスファレライト様ですね」

 先生は私に一人でお屋敷に入るようにといって、帰ってしまった。

 門をくぐってすぐに声をかけられた。

 「お初おめにかかります。お待ちしておりました。スファレライト様。執事のナズナにございます」

 初老……というほどかしら。そのぐらいの年齢の男性が恭しく頭を下げた。

 「……スファレライトと申します。ナズナ様。よろしくお願いいたします」

 同じように頭を下げると。

 苦笑いを浮かべながら私の荷物を手にされた。

 「スファレライト様は我々の主人です。様などと。おやめください。……礼儀作法を学ばれたとはうかがっていますが、我々使用人には不要にございます」


 あ……。

 そうか。

 目上の方への作法。身分の高い方への作法として先生に教わったものがあるけれど。

 ここでは私が身分としては高くなってしまうのか。

 ……だからといって失礼な態度は違う。


 「……では。ナズナさん」

 「はい。なんなりと」

 先生とは違う優しい笑顔を向けてくれた。

 「お荷物はこれですべてでしょうか」

 ナズナさんが持っているかばん一つ。

 「はい」

 「……承知いたしました」

 少しだけ驚かれた顔をしたけれど、すぐににっこりと笑みを浮かべて。

 「まず、お部屋へ。ここまで遠かったでしょう。お茶を用意いたします。その後、使用人たちの紹介をさせていただきます。なんなりとお申し付けください」

 ……先生より年上だろうか。

 低い声はとても優しくやわらかい。

 ……どう考えても私が主人などおかしな話。

 先生は詳しいことは使用人に聞くようにと言って話してくださらなかった。

 「こちらになります」

 案内された部屋はとても日当たりがよく、明るい部屋だった。

 道中、とてもきれいに手入れされていた庭も窓から見渡すことができる。


 外から見て感じたように、人の気配がない。

 ここまで誰にもすれ違わなかった。

 他に誰もいないの?

 でも紹介って言っていたから他にもいることは確かだし、一人で全てをするなんて物理的に難しい。

 ……魔法使いなの?

 ナズナさんをジッと見つめるけれど、その感覚はない。


 私達魔法使いは同胞を見分けることができる。

 先生も魔法使い。

 だから、魔法使いの孤児を見つけることができて、孤児院で育てている。


 「スファレライト様」

 「はい」

 視線に気づかれた?

 あからさますぎたかしら。

 「我々使用人は全員で私をいれて9人となります。御用の際には、それぞれの鈴を鳴らしてください。どこにいてもすぐにおそばに参ります」

 机の上に色の異なる鈴が9つ。

 「私ナズナの鈴はこちらになります」

 鈴をよく見ると花の絵が描いてある。

 「少しお話させていただきます」

 紅茶を淹れる手つきはとてもきれい。

 「ここは花屋敷と呼ばれております。ここから見えます庭は庭師によって一年中花が咲き誇っております。それゆえ、花屋敷という名がつけられております。先代の主人が花をとても好まれる方でした。スファレライト様はいかがでしょうか。花はお好きですか?」

 「はい。好きです。妹たちが庭の手入れをしてくれていて、様々な花を植えていました」

 この庭ほど広くはないけれど、いつだってキレイに花が咲いていた。

 「そうですか。お好きな花があれば、庭師にお伝えください」

 「ありがとうございます」

 カップに注がれた紅茶はとても豊かな香り。

 「こちらにお屋敷の間取り図を用意しております。まず。こちら。ここが主人スファレライト様のお部屋になります。こちらが、執務室。こちらが客間」

 間取り図一つ一つの部屋を説明してくださった。


 ……やっぱり大きなお屋敷。

 それなのに使用人は9人?

 主人が私一人だから成り立つのかしら。

 ……私自身家事全般できるからお手伝いしたいわ。

 あ……でもそんなことをきっと断られてしまう。

 本で読んだ限りだけど、主人というのは基本的には家事はしない。

 使用人の仕事だから、それを奪ってはいけない。


 紅茶おいしい。

 「とてもおいしいです」

 「お口にあってなによりです。……他のものが来たようです」

 ん?

 足音はなかった。

 ノックもなかった。

 それなのにナズナさんはドアに向かい、開けた先に。

 「失礼いたします。主様」

 恭しく頭をさげて一人ひとり入ってこられた。

 「皆集まりましたので、改めまして」

 横一列にならんだ皆さん。

 「家令のカンパニュラと申します。年老いたものゆえ、耳が少々遠くて、動きも大変遅くなっております。鈴でお呼びいただいても、時間がかかるやもしれませんが、何卒宜しくお願い致します」

 おじい様。

 でも背筋は伸ばされていた、シャキッとされている様子。

 「執事のナズナにございます」

 優雅にお辞儀。

 ナズナさんは物腰のやわらかそうな方。

 「こちらがメイドのアスト。ランティアです」

 ナズナさんに名前を呼ばれた女性が二人。

 一歩前にでて、深々と頭を下げた。

 ……双子ね。

 右目がかくれているのがアスト。左目がかくれているのがランティア。

 「主様の身の回りのお世話をさせていただきます」

 二人の声がそろっている。

 「つづいて。料理人のダリアです。食事に関することはすべて彼女が取り仕切っています」

 「ダリアです。主様は好き嫌いなどありますか」

 「いえ。アレルギーもありません」

 「それはなにより。今日の夕食も腕によりをかけますのでお楽しみに」

 にっと笑って。

 ……お姉様の事を思い出した。

 とてもよく似た空気のお姉様がいた。

 快活で、暖かいお姉様。

 「庭師のストレチアとタンケイです。兄弟となります」

 「庭師のストレチアと申します」

 「…‥タンケイです」

 最低限しか話さないのか、それ以上なかった。

 ……似ていない。というか。兄弟ではない。


 魔法使いは魔法使いがわかる。

 私の眼には他にも見えているものがある。


 どうして兄弟といったのだろうか。

 孤児院の私たち達も兄弟のようにふるまうけれど、兄弟と紹介はされない。

 「最後に。家庭教師のキルタンサスです」

 「キルタンサスと申します。よろしくお願いいたします」

 にこやかな笑みを浮かべている。

 ナズナさんを若くしたような空気感だけれど、重さがない。

 「このお屋敷の主人として参りました。スファレライトと申します。至らぬところが多々あると思います。ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」

 先生に教わって、キレイだとほめてくださった動き。

 深く一礼して。

 ふんわりと笑った。

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