恋敗れて、時を下る
とある世界、とある大陸、魔法のある国のお話。
ケリム王国の王城にある一室で、小机を挟んで三人の男女が顔を合わせている。
部屋の主である王太子ウィレムが、向かいに座る娘に告げた。
「マルグリット・バオール。君を私の婚約者として迎えたい。死によって光輝の彼方に旅立つ日まで、私と共に生きてくれないだろうか」
「謹んで承りますわ、殿下」
動じる様子もなく立ち上がり、笑顔で礼をして座り直すバオール公爵令嬢。
その隣では、もう一人の娘が蒼白となっていた。
「イブリン・トーレス。これまで婚約者候補としてよく励んでくれた。心から感謝する。君の功績には財物にて報いよう。目録は後に邸宅へ送る。選んでやれず、すまなかった」
深々と頭を下げる王太子に、トーレス侯爵令嬢は「滅相もありません」と返し、一拍置いて問う。
「殿下、何故私が選ばれなかったか、教えていただけないでしょうか」
彼女の震える声に、王太子は顔を背けて答える。
「君を妻とするには私の度量が足りないためだ。君の、思ったことをはっきりと口にする態度はとても心地よかった。だが私は神ではなく人間であり、時には失敗もする。その際には君の率直な批判が私には耐えられない程に鋭く刺さるのだ。
私が失敗した時、君はそれを叱り、反省を促し、改めるように励ましてくれる。
だが、マルグリットは失敗を止められなかった事を悔やんでくれるのだ。
君にも私に寄り添ってくれる気持ちがあるのは分かっている。
マルグリットが私の失敗を肩代わりするだけではないのも分かっている。
それでも、私が過ちを犯したとき、隣に居て欲しいとより強く思ったのはマルグリットだったのだ。それが君を選べなかった理由だ。
王太子でなければ、たまに大喧嘩をしながらも君と夫婦としてやっていけたかもしれない。しかし私はいずれ王になる。私は直言を恐れない王妃ではなく、足りぬ器を補ってくれる王妃を選んだ」
自分が彼に示したものが、彼が最も求めているものではなかった。という事だ。
「……私があなたの妻たりえなかった理由について、確かに承知いたしました。至らず申し訳ございません」
納得したという言葉を、しかし表情に無念を滲ませて口にしたイブリンに、勝者となったマルグリットが言う。
「あなたが、王たる者は苦くとも良薬を飲める度量の持ち主である必要があり、殿下がそうなれる方だと信じているからこそ、勇気をもって苦言を呈し続けたのは分かっています。選ばれなかったとは言え、妻としての一つの在り方でした。そんなあなたを退けて妻となる者として、あなたの分まで殿下のために生涯尽くすと誓います」
婚約者候補が絞り込まれていく中で、最後まで争った恋敵であり戦友でもある人の、理解と誠意のある言葉に、僅かに慰められる。
「ありがとうございます。このような言葉を申し上げる立場ではないと承知しておりますが、どうか、殿下をよろしくお願いいたします。お二人で末永くお幸せに」
涙をこらえ、恋敗れた事を認め、二人を祝福するが、そこで今、最も欲しくない言葉が投げかけられる。
「イブリン、君を受け止められる器の男は大勢いるはずだ。どうか良き伴侶を見つけて君も幸せになってくれ」
ウィレムが自分のこれまでに感謝し、労わってくれているのだと理解はできる。しかし、心からの思いやりであっても、愛する人から他の男を探せと言われるのは耐えられなかった。今こそ彼が自分を選ばなかった理由が分かった気がした。
ありがとうございます、それではお先に失礼いたします、と、やっと口にして、イブリンは部屋を後にした。
* * *
我が家へと帰る馬車の中から、暗灰色に染まった空を見上げる。
今にも雨が降り注ぎそうな空模様に、自分の心情を重ねる。
イブリンは先ほどの言葉を振り返る。
――どうか良き伴侶を見つけて君も幸せになってくれ
(あなた以外の男性との幸せな人生?そんなものはあり得ません)
ウィレムは美しく、幼い頃、婚約者候補達との顔合わせでは皆が魅了された。
一人の戦士としても、指揮官としても秀でており、すでに初陣も経験している。
何かを学べば、教師達が手放しで褒め、あるいは自信喪失するほど聡明だった。
自分を襲った賊を捕らえた後、更生の機会を与えたいと願う慈悲があった。
(ずっと好きだった。あなたは美しくて、強くて、聡明で、優しい。あなたと共に生きるよりも幸せな事なんて知らない。)
しかし、だからといって、王妃の座を無理矢理にでも奪おうとは思わない。
――あなたの分まで殿下のために生涯尽くすと誓います
マルグリットは美しく、気高く、鷹揚で。イブリンに自分より勝る点を見つけると、それが何であれ謙虚に教えを乞う謙虚さがあった。殿下の面目を顧みない頭でっかちな所など、イブリンの未熟な点を見つけると教え正してくれる優しさがあった。恋敵を蹴落とすのではなく、磨き上げて、それを乗り越えようとする潔さがあった。
時にはお茶の席で一緒に殿下の良い所を語り合った。競争相手ではあったが、それ以上にお互いに切磋琢磨する親友だった。
(私より王妃に相応しい人がいる。それに目を背けて我欲のためにマルグリット様を害するなんてできない。それはウィレム様を不幸にするだけ。そんなことは望んでいない。)
愛する人は自分ではない女性を選んだ。自分が求める幸せはもう手に入らない。ならば。
(……いっそ、死のうかしら)
人生を諦めるような考えに至った頃、家に辿り着く。来客が待っていると告げられた。
「イブリン、こちらは魔道研究所の方々だ。お前に相談があるらしい。私には詳細は伝えられないという事だが、とにかく話を聞いてみてくれ。」
訝しげに語るのは、イブリンの父であるトーレス侯爵ファブリシオ。
言われるがまま応接室に入ると、曇り空と同じ色のローブを着た三人の男女が礼をしてきた。
「では、人払いするとしよう。既に確認したかもしれないが、盗み聞きするつもりはない。くれぐれも娘に対して粗相のないように」
父と使用人たちが出ていき、部屋に四人だけとなる。
* * *
「魔道研究所の方が、私にどのようなご用でしょうか」
無表情な魔導士達に、恐る恐る訪ねてみる。
最初に口を開いたのは、すっかり禿げた頭と、対照的に豊かな髭がたくわえられた老人。
「私、ヘングンは未来視の術を使います。見る場所も時間も選ぶことはできませんが、先日使った際に、王国が危機に陥る未来が見えたのです。」
「それはいったいどのような?」
「二十年後、国王となったウィレム殿下が、赤熱病となり苦しんでおられました。治すための月華草の煎じ薬が手に入らず、国政が滞った状況で隣国が侵略の動きを見せていました」
赤熱病とは、ケリムよりも南方の国家で虫から人へ媒介され発生する病で、急に高熱を発してから十日以内に快癒するか死に至り、生き残れば以後は耐性ができる。致死率は二割だが、生きのびても完全に回復するまで長期間を要する厄介な病として知られている。しかし非常に栽培の難しい月華草という薬草から作る煎じ薬を飲めば、ほぼ確実にかつ速やかに快癒する。
「お待ちください。確かに月華草は貴重品ですが、王城の温室で栽培が行われていたはずです」
「それが、全て枯れていたようです。日持ちする薬ではないため備蓄もなく、打つ手がない様子でした。王が病を得たのと月華草の枯死は隣国とその協力者の謀略の可能性が高いでしょう」
「そんな……陛下をお助けする方法はないのですか?」
次に話し出したのは、包みを抱えた恰幅の良い中年の男性。
「私はブレイグと申します。私は人を一人、未来へと送る『時下りの術』が使えます。そして、王宮の温室から分けていただいた月華草とその種がこの包みの中にございます。これを渡した人物に時を下っていただければ、未来のウィレム陛下は恐らく救われます。
ですが、問題がいくつかあります。
一つ目は、時を下る人物の同意です。自分の居場所、家族、友人、今持っているすべてを捨てても構わない。それでも時を下りたい人物はなかなかいません。
二つ目は、下った先で身分の保証がされないかもしれない事です。突然現れた見知らぬ人物が自分は過去から来たと言っても取り合う人間は居ないでしょう。
三つ目、あくまで記録上のものですが、時下りの成功率は平均して十回に一回にも満たないのです」
「低すぎる。それでは術を使う意味がないも同然ではありませんか」
絶望しかけたところで、自分と同じ年頃に見える女魔導士が話し始める。
「そこで私ヘイベルの、求める人を探し出す『人探しの術』の出番となるのです。『時下りの術』は下る者のそこへ至りたいという意志が強ければ強いほど成功率が上がるそうなのです。そして、私が『未来のウィレム陛下を救いたいと最も強く望む人物は誰か』と術で探した答えがあなたなのです。イブリン様」
「私が下れば、ウィレム殿下を救えるかもしれないと?」
「さようでございます。あなたが時を下られた後、トーレス侯爵様とご令息のクレメンス様、そして王家には協力を得るつもりですので、時を下った後の身分が保証される可能性は高いでしょう。その伝があれば王家に月華草を届けられるかと存じます」
(どうせ死のうと考えていた身でしょう。殿下を救えるなら、我が身を惜しむ理由はありません。
……それに、二十年だったかしら、未来のウィレム様がマルグリット様以外の女性にも目を向けられるようになっていたら、私も公妾として娶っていただけるかもしれない)
愛する人に対する、救いたいという使命感と諦めきれない未練。ないまぜになった心を落ち着かせて、決断する。
「分かりました。ちょうど今日、陛下の婚約者となり損ね、世を儚んでいた所だったのです。命を含めて失うことなど怖くありません。私に時を下らせてください」
* * *
トーレス家の敷地の片隅で、特に旅装でもなく、ただ月華草とその種の入った包みを抱えたイブリンの周りを、魔導士達が囲む。
「王家とトーレス家には未来で王国の危機が見えたため時下りを実施する、送られるのは志願されたあなた様である、という事のみ伝えます。月華草自体を守ろうとすれば、下手人が別な手立てを企てるかもしれませんので」
「承知しました。時を下った後、私が皆様に信用していただけるように、くれぐれも段取りをよろしくお願いいたします」
「心得ております。お若い、ご傷心のご令嬢にこのような使命を託すこと、心苦しい限りです。ご成功を祈っております」
「どうかお気になさらず。私にとってウィレム殿下のために働くのは幸福であり、その結果死んだとしても悔いはありません」
「……殿下が羨ましい限りですな。では、始めます」
メングンとヘイベルが立ち会う中、ブレイグが時下りの呪文を唱え始める。詠唱が進むにつれて、自分の体が、服が、包みが透けていくのが分かる。やがて意識も遠くなって、目の前が真っ白になる。
* * *
――気が付くと、魔導士達は居なくなっていた。目の前の光景はトーレス家の敷地のままだが、違和感がある。
皮膚が張り詰めるようだった早春の空気が、花々の香が入り混じった暖かな晩春の空気に取って代わっているような。
落ち着かない気分のまま、屋敷へ向かうと、庭師らしい中年とその弟子らしい少年の姿が見える。
(庭師に見覚えがある気がする。ずいぶん老けたけれど、ポールなの?もしかして、もう時下りに成功したの!?)
「ポール。庭師のポールよね。私よ。イブリンよ。」
こちらを見た男の眼が見開かれる。
「イブリンお嬢様!まさか本当にお若いままのお姿でいらっしゃるとは……。今、旦那様へ使いをやります。」
屋敷で待っていると、現れたのは自分の知る父に近い年頃となった兄のクレメンス。よく似ていると考えているうちに、抱きしめられる。
「イブリン、よく帰ってきた。陛下の婚約者になれなかった悲しみのあまり、自殺同然の試みに身を投じたと聞いていたぞ。本当に良かった。父上と母上は今領地に居るが、無事を知らせればさぞ喜ばれるだろう。」
ああ、自分は家族をこんなにも悲しませていたのか、申し訳なかったな、と罪悪感に捕らわれたが、すぐにやるべきことを思い出した。
「お兄様、今の国王陛下は、赤熱病に掛かっていらっしゃいませんか?」
「何故お前がそれを知っている!?」
「陛下が赤熱病に掛かり、それに合わせて月華草が王宮から失われる未来が見えると聞いて、私は時を下ったのです。ここに月華草と種もあります。」
「でかした!よくやった!直ちに王城へ向かうぞ!」
* * *
移動する馬車の中で、クレメンスは今までの出来事について語る。
「お前が消えてから二十年経った。今はウィレム陛下の御代だが、陛下は今まで風邪すら引いたことのない頑健な方だったのに、今朝急に倒れられた。医師の見立てで赤熱病と分かったのだが、温室の月華草が全て枯死していて成す術がなかったのだ。お前が来てくれて本当に助かった」
問題が解決したかのような兄の笑みに、イブリンも友人を気遣う余裕が出る。
「マルグリット様もさぞご心痛でしょうね。早くお会いして憂いを取り除いてさしあげたいし、今までどうだったかなど、お話もお聞きしたいわ」
何気ない言葉に、酢でも飲んだような気まずい顔になるクレメンス。
「残念だが、マルグリット様は二年前に亡くなっている。」
「そんな!まだお若いのに何故!?」
親友の死を知らされ、衝撃を受ける若いままの妹に、年を重ねた兄は気遣うように続ける。
「癌だったそうだ。陛下は深く悲しまれて、それ以来王妃の座は空席のままだ。後添えを勧める声は多いが頑として拒否されている。王子は四人居る上に皆優秀なので跡継ぎに不安が無いとはいえ、公妾すら置かない程だ。」
「そう、ですか……。ただ一人の女性を、亡くなられた後まで想い続けるなんて、陛下は一途でいらっしゃるのですね……」
(私には望みが無いと。我ながら浅ましい考えだったわ。恥ずかしくて死んでしまいたい。今はまだ死ねないけれど)
羨望、失望、羞恥。王と王妃の深い絆を思い知らされ、首を垂れる。
* * *
王城に到着した後、特に難しい事はなかった。魔導士達とも連携し、第一王子ジェフリーをへ渡された月華草は速やかに煎じ薬とされ、与えられた王は程なく快癒した。初期に癒えたため、後遺症もなかった。
王の急病による混乱を狙った謀略は失敗し、手引きしたと分かった某伯爵家は取り潰しとなり、国境へ速やかに送られた援軍により隣国も侵攻を断念した。
* * *
数日後、王城の広間にて、論功行賞の席が設けられる。
玉座に座るのは、ウィレム・ケリム国王。
「イブリン・トーレスよ。我が命と国の危機を救ってくれたそなたの功績は大きい。望みの褒美を言ってみよ。何であれ私にできる限りの願いは叶えよう。」
(ああ、ウィレム様、年を経られて、ますます麗しい……、いえ、そんなことを考えている場合じゃなかったわ)
「では、自裁の許可をいただけますでしょうか。」
褒美どころか、まるで死罪人の要求のような、正気とも思われない願いに周囲は息をのむ。
ウィレムが問う。
「馬鹿な。何故そなたが自裁せねばならぬのだ」
「陛下、あなたがマルグリット様を婚約者と定めたあの日、私は死ぬつもりだったのです。あなたと共に生きることができない生に未練などありませんでした。
死ぬ前に魔導士様から未来の危機についてお話を伺い、まだ私が陛下のお役に立てるかもしれないと知って、使命のため、死を先延ばしにできるか試しただけなのです。そして使命は果たせました。
ただ、運に恵まれただけとはいえ、功績を立てた身で勝手に死んでは後に良くない憶測を呼んでしまいますので、私が心から望んで死ぬことを公の場で表明したかったのです」
さらに続ける。
「私の名誉のため申し上げますと、褒美として娶って欲しいと暗に仄めかしているのではありません。私は陛下をお慕いしております。しかし陛下は亡き王妃殿下を今も心から愛していらっしゃいます。王妃の座は空席のまま、公妾も持たないお考えだとも承知しております。私は陛下が王妃殿下へ捧げる至誠を汚すつもりはございません。
ただ、陛下をお救いできた事を喜びとして、光輝の彼方で王妃殿下に再会し、功を誇るのが今の私の望みでございます」
「……マルグリットはまったく私には過ぎた妻であった。これを彼女に」
王から侍従を通して渡されたのは一通の手紙。
「もし、そなたが時を下ることができたら渡して欲しいとマルグリットから頼まれていたものだ。読んでみてくれ」
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おめでとう、イブリン。無事で何よりです。
悪いけれど、最初に文句を言わせてちょうだい。私、あなたが居なくて本当に寂しかったのよ。陛下と共に生きた、これまでの日々はとても幸せだったけれど、親友のあなたと二度と会えない日々でもあったの。
こんな思いをするなら二人とも娶って欲しいと陛下に頼むべきだった、と何度後悔したでしょう。
そして、あなたにお願いがあって、この手紙を書きました。
残念だけれど、私は陛下より先に光輝の彼方へ旅立たねばならぬようです。
でも、私が死んだ後、頼りなかった王子様からこんなに賢明な王となられた陛下を誰にも渡したくなくて。
「私が死んでも、後添えは娶らないでください。王子が四人もいれば跡継ぎは十分でしょう」なんて無茶なお願いをしてしまいました。王の立場を考えれば許される事ではないのに。
それでも陛下は「分かった、約束しよう」と仰ってくださったけれど、後であなたとの約束を思い出したのよ。あなたの分まで陛下のために生涯尽くすって。それなのに陛下に意地悪なお願いをしてしまうなんて、約束を破る事になってしまうと反省したの。
だから、ちょっとだけ妥協すると決めたの。イブリン、あなたならいいわ。私と最後まで王妃の座を争って、お互いに認め、高め合ってきたあなたなら。
陛下を置いて逝ってしまう私の代わりに、王妃になって。あなた以外の誰にも、陛下を渡さないで。
今の陛下なら、あなたの夫として不足はないから、心配いらないわ。
私に寂しい思いをさせた罰だと思って、受け入れてちょうだい。
どうかウィレム様をよろしくお願いします。
マルグリット・ケリム
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* * *
「マルグリット、様……ごめんなさいっ」
手紙を抱きしめるようにして泣くうちに、いつの間にか傍らに寄り添ったウィレムが声をかける。
「手紙の内容は聞いている。イブリン。そなたにとって、私に選ばれなかったのは昨日の事のようだろう。自分を捨てたばかりの男が、ずっと老けた姿で縋ってくるのはさぞ滑稽だと思う。だが、そなたが良ければ、マーガレットの願いを叶え、王妃として私を支えてくれないだろうか」
イブリンの前で跪き、その手を取る国王。呆けた表情で、それを見つめる。
「まるで、都合の良い白昼夢を見ているような心地です・・・・・・」
「いや、これは現実だとも」
(マルグリット様のように、平然とはできないわね)
「謹んで承りますわ、陛下」
泣き笑いで、かつても今も愛する人の求婚を受け入れる。
こうしてケリム王国の危機は去り、王は新たな王妃を得た。
彼らの物語は、時を超えた愛と友情として語り継がれたという。
おしまい。
拙文をここまでお読みいただきまして、誠にありがとうございます。