24 お祭り騒ぎ~1~
たまに流れてくる噂で、戦争はこちらの国が有利な状況らしいと聞いた。なんでも優秀な騎士がいるようで、巧みな戦術を立て、多くの兵士を指揮しているそうだ。
確かに、戦地から離れた王都ではあまり戦争の気配を感じることはない。少し物価が上昇しているとは思うが、平和そのものだ。
しかし、戦争で傷を負った兵士が少しずつ帰還しており、記憶の魔女の仕事も増えてきていた。
お客さまが持つ凄惨な死体や飛び散る鮮血の記憶に吐きそうになりながらも、魔法を使い涙を流せば私の中からもその記憶は消えるため、なんとか精神的にまいってしまうこともなく日々を過ごしていた。
むしろ、それほどまでの経験をしながらも国を守るために戦ってくれている戦士たちに敬意を持った。
今日もまたお客さまの記憶の結晶を瓶に入れた私は、隣の部屋で保管しようと引き出しを開けた。
引き出しの中の瓶に貼られたラベルに書かれた文字が、「戦争」ばかりになっているのを見るだけで気が滅入る。
こんな記憶を返してほしいと思う人なんていないだろうから、さっさと処分してしまいたいのだが、万が一割れてしまえば記憶が元の持ち主に返ってしまうので、大切に保管するしかない。
もちろん、祖母もこの店を営んでいたのだから、全てを保管したままでいては、あっという間に部屋が決勝で埋め尽くされてしまう。だから、できる限り瓶のサイズは小さいものを使い、祖母が若い頃に消した記憶の結晶は、お客さまが生きていれば100歳をすぎたであろうと判断できたものは時々割って捨て、整理している。
比較的発展しているこの国の寿命は他の国より長いとは言え、平均でも60歳ほどだ。100歳をすぎても存命な人は見たことがない。
その時、急に外が騒がしくなった。私の店の前はいつも人がおらず静かなのに、一体何事なんだろう。
ドアを開けて顔をのぞかせると、大きな歓声が聞こえてきた。まるで祭りの日のようだ。
大通りまで行ってみると、宣戦布告のニュースの号外を配っていた新聞売りの少年が、明るい表情でまた号外を配っていた。もしかして、戦争が終わったのだろうか。
「号外だよ! お姉さん、まだ持ってないの?」
突然、満面の笑みの新聞売りの少年に話しかけられて肩を揺らした。
「持ってないけど、お金もないの。ごめんなさい」
「持ってないの? じゃああげるよ!」
「え、申し訳ないから! 気持ちだけもらうわ。ありがとう」
新聞を押しつけられて、慌てて返そうとした。安い紙とはいえ、印刷にはそれなりの費用がかかっているはずだ。お金もないのに受け取るわけにはいかない。
ところが、少年はいっそう笑みを深めた。
「今日は特別さ! めでたい日だ。みんなでお祝いするために、タダで渡していいってお父さんに言われてる」
少年はニヤリと笑った。
「お客さんが勝手に僕に押しつけてきたお金は、僕のお小遣いにしちゃうけどね。だから、ほら」
「本当に? ありがとう」
ありがたく受け取ると、少年はまた、めでたい知らせを広めるために走って行った。
新聞には、『戦争勝利』と大きな字で書かれていた。新聞を書いた人の喜びが伝わってくるような浮かれた字だった。
……勝ったんだ。
勝利に安堵すると同時に、カイルさんの無事を確かめたくてたまらなくなった。
よくよく読んでみると、新聞の下の方には最後まで戦った兵士たちの凱旋パレードが二週間後に予定されていると書いてあった。このパレードを見に行けば、カイルさんに会えるかもしれない。
その期待を胸に、新聞を抱きしめた。
家に戻る道中でも、戦争に勝った喜びはそこかしこに溢れていた。
果物売りのおばさんは、通りかかった私に気づくやいなや、りんごやらオレンジやらブドウやらを投げてよこした。きっと今の時期は高いであろう、旬ではない果物までも大盤振る舞いだ。
イーサンの母親は、一週間あっても食べ切れなさそうな量のパンをくれた。
普段はサービスなんて考えもしないような強面の肉屋のおじさんまで、ハムとベーコンを一切れずつくれた。
お祭り騒ぎの街に響き渡るみんなの笑い声が、きっとカイルさんも無事だと思わせてくれる。カイルさんたちが守ってくれた街の幸せな日常を噛み締めながら、家に帰った。
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