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14 彩り豊かな日々~1~

 ドアベルが鳴る。今日は、昨日のうちに予約していったお客さまがいらっしゃる予定だ。約束の時間よりは少し早いが、準備もできているし問題ない。


「いらっしゃいませ」

「よっ」


 ご予約のお客さまは女性だったはずだけど?

 低い声に振り向くと、カイルさんがドアにもたれて立っていた。今日も騎士服は着ておらず、暑いからか半袖だ。組まれた腕は鍛えられているようで、筋肉の形がわかる。

 自分の腕と見比べていると、カイルさんは首を傾げた。


「どうした?」


 カイルさんの腕をまじまじと観察していた自分が急に恥ずかしくなって、自分の腕を背中に隠す。


「なんでもありません。気にしないでください」

「俺の腕が気に入ったか?」


 もう。


「からかわないでください! それよりも、今日はお客さまがいらっしゃるんです。帰ってください」


 ぐいぐいと背中を押して店から追い出そうとしていると、急にドアが開いた。


「こんにちは……?」


 丸い目がかわいらしい歳下の女の子に見つめられて、ゆっくりとカイルさんの背中から手を離す。


「……いらっしゃいませ。こちらのお席へどうぞ」


 素直に従ってくれた女の子の後ろでこっそりカイルさんをにらむと、カイルさんはへへっと笑った。

 カイルさんがすんなり帰ってくれなかったせいであんなところをお客さまに見られちゃったんだけど。何をのんきに笑ってるのよ。


「申し訳ありません、すぐに彼には帰ってもらいますので」


 他の人がいると彼女も話しづらいだろう。男性だからなおさら。


「いえ!」


 お客さまは目を輝かせて食い気味に否定した。昨日と比べて妙に明るい。無理をして気丈に振る舞っている気がする。


「誰かに話を聴いてほしい気分だったので、助手さんもぜひ! こんなイケメンな助手さん、いつの間に見つけたんですか? 魔女さんも隅に置けないですね」

「……えっと、いいえ、その、助手とかじゃ」

「今日が初出勤なんですよ。よろしくお願いします」


 お客さまの圧力に押されてタジタジになりながらも勘違いを正そうとすると、カイルさんに言葉を被せられた。


「あたしが助手さんの初めてのお仕事ってことですか!? 嬉しいです。よろしくお願いしますね!」

「そう、初めてなんですよ。まだ慣れていないのですが、何か失敗してしまっても大目に見てくださると助かります」


 ……勝手にカイルさんが私の助手ってことで話が進んでいる。

 カイルさんの騎士としての立場を心配してあんなに悩んでたのに、自分から仕事にまで関わってくるとかバカなの?

 たまに出かけるくらいなら魔女だということは知らなかったって言うこともできたかもしれないのに、魔女の仕事の助手なんてしていたら言い逃れできないじゃない。


「ちょっと、魔女の助手なんて名乗って大丈夫なんですか」


 カイルさんの服の袖を引っ張って、お客さまには聴こえないようにカイルさんの耳にささやいた。


「あー、大丈夫じゃないかもしれないが。仕事中の君とも一緒に過ごしたい。君にとって特別な存在になりたいんだ。俺に君の助手という立場をくれないか?」


 袖を掴んでいた腕を取られて、耳元に口を寄せられる。告白の言葉とも取れるような言葉をささやかれて、肩に力が入った。


「あのお?」


 お客さまの声に冷静になる。今は仕事中。


「……お客さまがいいとおっしゃっているので、今日は特別ですよ」

「ああ。ありがとう」


 ため息混じりに許可を出すと、カイルさんはニカッと笑った。


 紅茶をコップに注ぎ、お客さまの話を聴く。昨日ご予約にいらっしゃった時に簡単な話は聴いているが、もう一度ゆっくりと確認する必要がある。


「飼っていた鳥が、死んじゃったんです」


 先ほどまでカイルさんと楽しそうに話していた人と同一人物とは思えないほど、急にお客さまが纏う雰囲気が暗くなる。感情を押し殺したような掠れた声に、胸が締め付けられた。


「鳥かごから出すといつも手の上に乗ってきてくれて、あたしの手からエサも食べてくれて、本当にかわいかったんです。なのに」


 お客さまは肩を落とした。


「ある日、家に帰ったら動かなくなってました。両親は、かなり長生きだったから寿命だろうって。毎日あの子と一緒だったのに、いなくなっちゃってからはどうやって生きていったらいいか分からなくなって。ご飯を食べるのも、友だちと遊ぶのも、両親の店を手伝うのも、何もかもどうでも良くなっちゃったの」


 その鳥のことを本当にかわいがっていたのだろうということが伝わってくる。お客さまの目が乾いていることも心配だった。


「そしたら母が、いっそのこと魔女さんのところであの子の記憶を消してもらいなさいって。私がいつまでも悲しんでご飯を食べなくて病気になったら、あの子が悲しむって。だから」


 こういうパターンはたまにある。お客さまの状態に合わせて判断しなければ。


「その鳥さんのことが、大好きだったんですね」

「そうなの。毎日一緒だったから」

「お客さまは、その鳥さんとの記憶を消したいのですか?」

「うーん、母が消すべきって言うからきっとそうなのよ」


 むむっと口を尖らせる。これは、たぶん記憶を消しちゃいけないパターンだ。

 お母さまのことを強く信頼しているようだから、お母さまの意見と相反した意見を言うと、お客さまは反発して「絶対に消す」となってしまう可能性がある。

 きっとお母さまも娘のことを思って言ったんだろうけど、なあ。


「俺も昔、飼っていた犬が死んだんだが」


 それまで黙っていたカイルさんが急に口を開いた。


「そうなんですか?」


 一瞬何を言うか分からないカイルさんを止めるか悩んだが、その話の切り出しとお客さまが関心を示したことから、黙って話を聴くことにした。

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