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13 二人でお出かけ~3~

 着いたレストランは手頃な価格のアットホームな店だった。少し気を遣わせてしまったようだ。それでもさすがカイルさんの選んだ店だ。味も接客も素晴らしくて、頬が落ちそうなほどだった。


「おいしいです!」

「そうか」


 笑みを向けると、カイルさんの優しい顔にドキッとした。もうダメだ。すぐにドキドキしちゃう。

 視線をお皿の中に戻して食事を再開すると、くすりと笑われて頰が熱くなった。動揺していないふりをして食べ進めているが、きっとカイルさんにはバレている。


 支払いはすんなりと私にさせてくれて、店を出た。

 家まで送ってくれるというカイルさんの言葉に甘えて歩き出す。手はもはや当然のように繋がれていた。


 今日がもう終わってしまう。家まではあと少ししかない。カイルさんと別れたら、この感情ともおさらばした方が、いいのかな。


「ティア」


 家の前に着き、静かな声で名前を呼ばれて見上げると、カイルさんはうっすらと微笑んでいた。


「今日は楽しかった。ありがとう。服もちゃんと買えたしな」

「いえいえ、お礼を言うのはこちらの方です。買い物に付き合っていただいてありがとうございました。お金も払っていただいてしまって。どのようにご恩をお返しすれば良いのか……」


 カイルさんは首を傾げた。


「服代は食事代で手を打ったと思ったんだが。俺の趣味も混ぜたしな。だが、どうしても恩を返したいというなら」


 カイルさんは、繋いでいた手を掬いあげて、私の顎くらいの高さまで持ち上げた。何をするのかと動向を伺っていると、カイルさんはフッと息だけで笑って、私の指先に口付けた。


「!?!?」


 指先に感じる、少しカサついた柔らかい感触。カイルさんの形の良い唇が触れているところを目にして、声にならない悲鳴をあげた。


「これで恩は返してもらったからな。そもそも、今日は俺が無理に取り付けたデートだったし」


 キス!? デート!? え、これデートだったの!?


「また次に会う時には、今日買った服を着てくれると嬉しい」


 私の手に買った上着が入った袋を押し付け、それじゃ、と去っていくカイルさんの背中を呆然と眺める。ずっとカイルさんが持ち歩いてくれていた袋は思っていたよりも重く、力の入らない手から滑り落ちた。


 きす。でーと。きす。でーと。

 今の私の頭の中は、壊れた人形だ。


 何とか衝撃から立ち直り、重い袋を両腕で抱えて家に入る。

 早速上着を袋から出してクローゼットに仕舞うことにした。


 上着が二枚も入っているとはいえ重すぎない? これを軽々と運んでいたなんて、さすが騎士ね。

 それに、次に会う時に今日買った服を着て欲しいって言ってたけど、これからの季節はだんだん暖かくなる。上着のいらない時期も近そうなんだけど、たとえ暑くても着てしまおうかな。


 そんなことを考えながら袋を開けた私は、あんぐりと口を開けた。

 袋からは、四着の服が出てきたからだ。つまり、二着の上着以外にもう二つ。

 淡いピンクを基調として、首元や腰回りに黒が大胆かつ上品にあしらわれたワンピース。

 腰は紺色で、裾にかけてグラデーションがかかり薄い水色になっていくチュールのスカート。


「どういうこと!?」


 カイルさんが言っていた着てほしい服というのはこれらに違いない。うっすらとだが、試着させられた記憶もある。


「重いはずだわ……」


 ため息を吐きつつも、気になってしまってワンピースを手に取った。

 普段の私なら白や黒だけのシンプルな服ばかり。鏡に映る自分は、ピンク色のワンピースのおかげか血色が良く、健康的に見えた。


「かわいい……」


 動きやすく、サイズもぴったりだ。

 ワンピースを脱ぎ、スカートも履いてみる。持っていた紺色のブラウスとあわせてみれば、裾の水色が爽やかで品が良く見えた。くるりと一回転してみればスカートがふわりと広がって、美しい。


「もう、またお礼をしなきゃいけないことができたじゃない」


 声に少し安堵が混じっているのを感じてしまう。自分の中のカイルさんへの気持ちを消して関係を絶った方がいいと思うのに、お礼をしてからでもいいよねと先延ばしにしようと思ってしまう。


 カイルさんも、デートだって言ってたし。指にキス、されたし。


 思わず顔を両手で覆った。甘酸っぱいこの気持ちをもっと感じていたい。カイルさんが私との関わりを嫌だと思っていないのなら、もう少しだけ、もう少しだけ。

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