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12 二人でお出かけ~2~

「うーん」


 カイルさんに強引に連れ込まれた店で、私は額に指を当てて悩んでいた。

 店には最近流行りのレースが多いデザインがずらりと並んでいる。可愛らしいが、お値段は張りそうだ。


 一番安そうな上着ってどれ?

 色は無難に白とかクリーム色とかでいいとして。できるだけ布が薄くて丈が短い方が安そうよね?


「どんなのが着たいんだ?」


 カイルさんに問われて、反射的に今見ていた上着を手に取った。


「これにしてみようかと思います」


 飾りもない。分厚くもない。うん、まだましそう。

 今までに着たことのある服と比べてもトップレベルの肌触りの良さだ。


「それも……シンプルでいいとは思うが。せっかく買いに来たんだ、もっと似合う上着を探そう」


 カイルさんは私が手に取った上着を戻すと、自ら上着を探し始めた。


「これはどうだ?」

「これは?」

「これも似合うかもしれないな」


 次々に服を体に当てられて目が回りそうになる。


「カ、カイルさん! そんな高級そうな上着には手が届きません……!」


 カイルさんにしか聞こえない小さな声で訴えると、カイルさんはキョトンとした。


「俺が買うんだから、問題ないだろ」

 

 問題ありまくりですよ! カイルさんがどうして私なんかにそこまでする必要があるんですか! 自分で買います!


「ん?」

「うっ」


 片眉を吊り上げて長身で見下ろされ、圧力に押し負ける。


「ありがとうございます……」

「ああ」


 大人しく頭を下げると、カイルさんは機嫌良さげに笑った。


 そこからが大変だった。ファッションショーが始まったのだ。

 カイルさんに渡された服を着ては脱ぎ、着ては脱ぎ。途中からは笑顔の店員さんも参戦して、数えきれないほどの服を着る羽目になった。いつの間にか自然な動作で試着室に誘導され、なぜか上着だけでなくワンピースやスカートなども試着させられていた。


「上着、どっちがいい?」


 試着室を出るとすぐに声をかけられた。カイルさんを見ると、落ち着いた色味の灰色のニットポンチョと、赤みが強いブラウンで、腰の位置がきゅっと細くなって裾が広がるデザインのコートを手に持っていた。


 ……なんとなくかわいいなって思った上着だ。


「どちらも非常にお似合いでしたよ」


 目が消えてなくなりそうなほど微笑む店員さんに、カイルさんが頷く。


「よし、両方買おう」

「カイルさん!?」

「お買い上げありがとうございます」


 焦っている間に、店員さんが服を袋に入れ始めてしまう。私が全力で節約すれば1か月か2か月は生活できそうな金額を、カイルさんは特に気にする様子もなく支払った。


「待ってください、払います」

「独り身で金の使い道がないんだ。貯め込むよりもこうして使うべきだろ?」


 ニコニコと笑うカイルさんの手の中や懐にお金を押し込もうとするも、騎士の動きに勝てるはずがない。完璧なガードに諦めざるをえなかった。


「……ありがとうございます。せめて夕食はごちそうさせてください」

「お、いいな。店は俺が決めてもいいか?」


 楽しげにお店の案を挙げ始めるカイルさんを見つめる。本当に、親切な人だ。恩の返し方が分からない。


「よし決めた。行くぞ」


 するっと手を取られて、歩き出す。大きな骨ばった手は私の手をすっぽりと包み込んだ。触れ合ったところから熱が伝わってきてこそばゆい。


 独り身だと、言っていた。誠実そうな人だから、恋人がいるなら異性と二人で出かけたり手を繋いだりはしないだろう。騎士は、誰にでもこんなことをするんだろうか。人と関わる機会が少ない私は、思わず勘違いしそうになってしまうのに。


「あれ、ティアさん?」


 突然声をかけられて、びくりと肩が震える。振り向くと、パン屋のイーサンが小麦粉の袋を抱えて立っていた。


「珍しいね、男性と歩いてるなんて。依頼者さん?」


 イーサンの視線が、繋がれた手に注がれている。知り合いに見られた気恥ずかしさに、咄嗟に手を振り払った。


「ううん」


 首を振ると、イーサンは人の良さそうな笑顔でニコッと笑った。


「ね、そういえばこの間渡したぼくのパン、食べてくれた?」

「うん、食べた! 外はカリカリで中はしっとりふわふわで、おいしかった。もうお店に出せるんじゃない?」


 イーサンは私の両手を取ってぶんぶんと振り、嬉しそうに首を縦に振った。


「そうなんだよ! 母さんにも店に出せるレベルだって言われてるんだ。ようやくパン屋としての一歩を踏み出せた気分だよ! でも、やっぱりティアさんに一番に食べてほしかったんだよね。ティアさんはぼくにとって、特別な人だから」


 イーサンに見つめられて、不思議な気分になる。思わず目を泳がせて、返すべき言葉を探す。これは、友だちだから、よね? カイルさんのことがあって、私が少しそういう気分になってるだけよ。


「ティア、そろそろ行くぞ」


 頭がぐるぐる回って混乱していると、後ろから声をかけられた。


「ティア……?」


 イーサンが何かをつぶやいたけれど聞き取れなくて、聞き返そうとするとイーサンは手を振った。


「ごめん、邪魔しちゃったね。今度ゆっくり話そう。昔の思い出とかさ」

「そ、そうね。ありがとう。またね」


 手を振り返してカイルさんの方に向き直ると、カイルさんは何やら難しい顔をしていた。眉毛は寄せられて、眉間に皺が寄っている。


「すみません、お腹空いてますよね。お待たせしました」

「いや、そうじゃない」


 カイルさんは皺を寄せたままつぶやいた。


「この鈍感め……」

「え?」

「いや。なんでもない」


 歩き出したカイルさんに、気がついたらまた手を繋がれていて。さっきまでよりも強く繋がれた手に、鼓動が早くなっていた。

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