Episode 6.魔法の特訓は必要ないみたいです。
先程、火を指先から出せる事が確認出来たので、次は球状の火を出してみようかなと思います。
「『ひのたま』!!」
――ボゥッ!
上に向けた右の人差し指の先に、一瞬音を立てると…小さな火球が浮かび始めました。
本来は火球と言う魔法なのですが、私の魔力量が少ないせいか…冬頃実る球状の果実のようにかなり小ぶりです。
「ごめん!えいっ!!」
とりあえず、威力はどれくらいなのか見てみたいので、目の前に見えるスライムに投げつけるように指を向けました。
――ビュンッ!!
思っていたよりも速い速度で小ぶりな火球がスライム目掛け、私の人差し指から放たれたのです。
――バシュッ!!
あっという間にスライムまで到達し、小ぶりな火球は音を立ててぶつかりました。
大した事のない小ぶりな火球だったので、私は全く期待していませんでした。
次の魔法で止めを刺してあげないとスライムが可哀想なので、何を試してみようか考えていた所でした。
――ボッ!!
何かに火が着いて燃える音が聞こえたのです。
ふとスライムの居た場所を見ると、そこにはスライムは居らず周囲の草がパチパチと音を立てて燃え始めるところでした。
――ピロン!!
燃える音に混じって私の耳元で何か音がしたような気がしましたが、それどころじゃありませんでした。
「ああああ?!?!やばい!!」
意識は軽く五百年以上生きてきた悪魔ですが、脳や身体はまだ五歳女児ですので、軽くパニックになりました。
「あ!『みず』!!」
そう唱えながら燃えている草に向かって、右手の人差し指で指差しました。
――ザパアアアアンッ!!
「え!?」
想像以上の水量に辺りは水浸しになってしまいましたが、燃え始めていた場所の火は鎮火出来たみたいです。
もしかして、デルジェイム家またはリーズランデ家もしくはその両方の得意属性が水や氷で、火は不得意属性なのかもしれません。
まぁ、ユーレとお楽しみ中のリスティス叔母様に…後で聞けば分かると思います。
――――
先程、小さな火球でスライムが一匹…消えてしまったので、他のスライムが居る茂みに私は向かおうと思います。
辺りを見渡すと、五歳女児の足では数分くらいかかりそうな距離の位置でスライムが草を溶かし食べているのが確認出来ました。
「とおい…。うぅぅぅん…。」
この丘の上に来るまでに、相当体力消費しているので…これ以上遠くまで歩きたくないので、何か良い手は無いのかなと悩んでしまいました。
「にやり…。」
ふと思い出したことがあり、私の表情に悪い笑みが溢れました。
「ふっふっふっふっふっ!!『しゅんかんいどう』!!」
――ビュンッ!!
私の身体が一瞬にして遥か前方に瞬間移動したのです。
「すたっ!とうちゃくっ!!」
格好良く両手を空に向かって広げると、今まさに着地したばかりのように周囲にアピールしました。
そんな事してはいますが、実は内心上手くいくかでドキドキしていました。
――パチパチパチパチパチパチ…。
「え?」
背後から拍手が聞こえてきたので、思わず声が出てしまいました。
「アルシェ様!!凄いです!!」
ユーレとお楽しみ中だったリスティス叔母様の声が拍手の後から聞こえたので、少しホッとしました。
知らない誰かに、五歳女児が瞬間移動する所を見られた日には大騒ぎになると思います。
「ニヤッ。」
私は含みのある笑顔をして、後ろを振り返りました。
そこには、リスティス叔母様の姿しかありませんでした。
「ユーレ?どこ??」
一体どうしたのか気になって、とりあえず聞いてみることにしました。
「大丈夫です!アルシェ様を一人きりにさせてしまい…申し訳ありませんでした。これからはお側を離れませんので、ご安心ください!」
絶対にこの様子、何かあったに決まっています。
ですが、私はあくまで五歳女児です。
二人ともいい大人だと思いますし、深い詮索はリスティス叔母様に怪しまれてしまいそうですので、やめておきます。
「リスティスおばさま?ぴかぴか、みたい?」
目の前に当てやすそうなスライムがいるので、雷でも落としてみようかなと思いました。
「ぴかぴか…ですか?雷の事でしょうか??」
「それ!!リスティスおばさま、さがって!」
身振り手振りでリスティス叔母様が感電してしまわぬ距離まで、私の後方に下がらせました。
はじめは『落雷』を使おうと思ったのですが、身体との相性が良すぎると大惨事ですし、相性が悪いと倒し切れないかもしれないので、『電撃』を使う事にしたのです。
「アルシェ、ひっさつ!『でんげき』!!」
そう唱えながら、右手の人差し指でスライムを指差しました。
――バリバリバリバリッ!!
私の指から放たれた漆黒の稲光。
轟音をたてながらスライムに直撃したのです。
――ドゴォォォォン!!
眩しいくらいの閃光と爆裂音が一瞬辺りを包みました。
――ピロン!
さっき『火球』をスライムに放って倒した時と同じ音が聞こえたのです。
スライムについては予想通り跡形も無く消えており、地面もスライムがいた周辺が広範囲に黒焦げになっていました。
「ピロン、おとした。リスティスおばさま、なに?」
困った時のリスティス叔母様頼りです。
「それはですね?生ける者を殺めますと、殺めた相手の魔力量の十分の一が魔力として身体に取り込まれ、魔力量が増えるのです。」
「えっ!?」
転生前の私は悪魔でしたので、敵を殺めても…魔力量が増えるというような感覚は全く感じ無かったと思います。
確かに…敵を殺めた後、身体の高揚感は上がったような気がしていたのですが、まさかその高揚感は魔力を身体に取り込んでいる時の感覚だったかもしれませんね。
「正常に取り込まれますと、自分だけにしか聞こえない音が聞こえることがあるそうですよ?魔力量が二百を超えると聞こえなくなるそうですが。」
私は一度もそんな音、悪魔として生きてきた頃には聞いたことがありませんでした。
悪魔なので一年で増える魔力量が多くて、敵を殺めるくらいの頃には二百を超えていたのかもしれないです。
「アルシェ、ステータス!わくわく!」
スライム二体でどれくらい魔力量が増えたでしょうか。
一匹は魔力量が百あったので十は増えていそうです。
「アルシェ様、スライムでは一増えれば良い方ですので…あまり期待されてもダメですよ?」
この時、リスティス叔母様の忠告は私の耳には届いておりませんでした。
「わくわく!!『ステータス』!!」
胸躍らせながら私は右手を前方に突き出して唱えたのでした。
[ステータス]――
名前 :アルシェ=デルジェイム
年齢 :五歳
性別 :女
種族 :人間
魔力量:三十一
魔法 :未知の魔法
スキル:未知のスキル
――
「がーん…。」
十一しか増えていないことにショックを受けました。
「凄い!!十一も増えてるじゃないですか!!五歳で魔力量三十一ですよ!?アルシェ様凄い!!」
もしかして…はじめに遭遇したスライムが長生きか何かの個体で百あっただけで、普通は十くらいなのでしょう。
さっきのリスティス叔母様の忠告をしっかり聞いていれば、この時の私はショックを受けずに済んだのでしょう。
「そうだ!リスティスおばさま?ユーレ、どこ?」
本当にこれは…私が二人の事をこれ以上の詮索はやめると決めたのをすっかり忘れてしまっていて、思わず口から出てしまったのです。
予想通り…リスティス叔母様は一瞬言葉を詰まらせました。
「ゆ、ユーレですか?どこ行ったのでしょうね?気がついたら居なくなっていましたので、きっとユーレは用事があって帰ったんです。」
「アルシェ、リスティスおばさま、かえる!」
五歳女児らしく帰ったと言う言葉に反応した事にして、帰る事にしました。
「そうですね!家に帰りましょう!!」
リスティス叔母様の手を握り帰路についたのですが、小声で『いちきおく』と言うのは忘れませんでした。
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この話の主な登場人物
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名前 :アルシェ=デルジェイム
年齢 :5歳
性別 :女
種族 :人間
職業 :なし
魔力量:31
魔法 :未知の魔法
スキル:未知のスキル
肌 :肌色(ブルベ系)
髪 :ボブ(黒色)
目 :焦茶
その他:七英雄の一人、魔法騎士アルディスの末裔。
異世界転生者。
元災厄レベルの悪魔。
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名前 :リスティス=リーズランデ
年齢 :28歳
性別 :女
種族 :人間
職業 :アルシェの乳母兼護衛
魔力量:284
魔法 :中級魔法全般
スキル:剣士スキル全般
肌 :肌色(ブルベ系)
髪 :ロング(黒色)
目 :焦茶
その他:七英雄の一人“悪魔”のアーシェの末裔。
元国の騎士団所属の魔法剣士。
アルシェの叔母(母の妹)。
グラマラス&スレンダー。
アルシェ崇拝者。
ユーレとは恋人同士だが…?
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名前 :ユーレ
年齢 :不明
性別 :無性
種族 :スライム(のはず)
職業 :不明
魔力量:不明
魔法 :不明
スキル:不明
肌 :水色
髪 :長髪のような形
目 :◉
その他:リスティスが名付け親の”名付き“。
頭や髪や四肢のようなものがある。
リスティスとは恋人同士だが…?
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