Episode 5.叔母はスライムが大好きみたいです。
ユーレとリスティス叔母様が名付けた異形のスライムは、自分よりも弱いと見た目で判断したのか…上から目線で私に声をかけてきたのです。
「あ゛?」
転生する前の私にはあり得ない状況でしたので、思わずイラっとしてしまい、顔と声が出てしまいました。
「ヒ…ッ…。」
何故かユーレと言う”名付き“スライムは、急に怯え上がって地面の上で畏まっています。
「ユーレ?どうした?」
私は五歳女児らしく、ニッコリ笑いながらユーレに聞きました。
「ア…アナタサマハ…ア…アクマ…ナノデスネ。」
今、確かにユーレは私に向かって怯えながらそう答えました。
イラッとした瞬間に見えない悪魔のオーラでも出たのでしょうか?
「アルシェ様?!危ないです!!近づいてはダメです!!」
遠くから大きな声がしたかと思った瞬間、すぐ背後にリスティス叔母様の気配を感じました。
「リスティス…コノカタハ?」
「え!?ユーレが大人しい…。何故?何故?私以外にはユーレは懐かないはず…。何故?何故?」
リスティス叔母様はユーレが私の前で畏まっている姿を目の当たりにして、ブツブツと何か言っています。
「リスティス?コノカタハ?」
ユーレのリスティス叔母様に対する問いかけは、聞こえていなかったのか、ユーレの態度にショックを受けたのかスルーされてしまったようですが、ユーレはめげず同じ問いかけをしました。
「このお方は…”悪魔“のアルシェ様です!!私の身も心もアルシェ様に捧げる誓いを昨日させて頂いたの!!だから、ユーレ…ゴメンね?」
「ヤハリ、アナタサマハ…アクマデシタカ。ブレイナタイドオユルシヲ…。」
「それにしてもユーレ、アルシェ様が”悪魔“だってよく分かったわね?」
二人のやり取りを聞いていた私はある事に気がつきました。
ユーレは私のことを…本当の悪魔と認識し、悪魔と呼んでいると思われるのですが、リスティス叔母様は私のことを…祖先のような”悪魔“と呼ばれる賢者と認識し、”悪魔“と呼んでいると思われます。
まぁ、私は悪魔とはバレたくないのですが、今後も魔物の類からバレて悪魔と呼ばれても、リスティス叔母様が一緒に居れば”悪魔“と勘違いするだけなので、それはそれで使えるかなと思い始めました。
「リスティスおばさま?ユーレ、かれし?」
満面の笑みを浮かべながら気になってた事を聞いてみました。
「え…。あ…。その…。アルシェ様…。」
リスティス叔母様は顔を真っ赤にして俯いてしまいました。
「ユーレ?リスティスおばさま、だいじにね?」
すかさずユーレに対して、大事にしないとどうなるか分かってるでしょうね?的な顔をして言いました。
「ダイジョウブデス。リスティス、アイシテイマス。」
さっきのお楽しみの様子だけで判断すると、二人はとても深い仲のようでしたので、リスティス叔母様がユーレに遊ばれいないかを確認したかったのです。
それにしても、スライムと本気で付き合っていたなんて…。
私の乳母になる前まで居たと言う、国の騎士団で人間の男と何かあったのかもしれませんが。
「よかった!!リスティスおばさま、しあわせ!」
「アルシェ様…ありがとうございます。でも…皆んなには内緒ですよ?」
私は、二人に向けニヤニヤと悪い笑みを浮かべました。
「だいじょうぶ!わたし、リスティスおばさま、みかた。いわない。」
そう言い終わっても悪い笑みを私はし続けています。
私のその姿を見ていたユーレが、何か言いたげです。
「ユーレ、どうした?」
私はユーレの顔を覗き込みながら、話を振りました。
「リスティス?アクマ!!アルシェサマ…アクマ!!」
ユーレはここぞとばかり、リスティス叔母様に向けて私が悪魔だというアピールをしてきたのです。
私は一瞬やられたと思いましたが、結果どうなるかは大体予想がつきました。
「だからね?ユーレ…それは、知ってるから。アルシェ様は“悪魔”なの!!私が一番最初に気づいたんだから!!」
「ねぇ…?けんか…ダメ。おしまい!」
周囲の期待を裏切らないのが、リスティス叔母様の好きなところの一つでもあります。
あとは、ユーレにリスティス叔母様への反論の隙を与えないように、私は話に割り込みました。
「申し訳ございません…アルシェ様。」
「わたし、まほう、あそぶ!!」
すっかり忘れていたのですが、今日は魔法を使って遊ぶという大きな目的がありました。
リスティス叔母様もハッとした表情になり、私の手をとりました。
――――
「それでは、何をして遊びましょうか?」
「わくわく!」
ユーレの潜む草高い茂みから出て、先ほどの丘の頂上付近までリスティス叔母様に手を引かれ戻ってきました。
「わたし、まほう、つかう!!」
無邪気な五歳女児っぽく言ってみたのですが、リスティス叔母様には“悪魔”にしか見えてないかもしれません。
「それでは…そうですねぇ…。その辺にいるスライムさんに魔法使って見てください!」
目をキラキラと輝かせて、リスティス叔母様は私に言いました。
その辺にいるスライムと言われましたが…ユーレの知り合いとかではないのかと少し心配になりました。
「スライム…ユーレ、ともだち?」
「イイエ。アルシェサマ。ワタシハココノスライムジャナイ。」
置き去りにしてきたユーレも茂みから出てきたようです。
「ダメですっ…。」
いつの間にリスティス叔母様の背後に回り込み、身体をぴったりと密着させました。
「リスティス。スコシクライ…イイダロ?」
ユーレから、ここのスライムじゃないと聞いた私は…ピンときてしまったのです。
それは、リスティス叔母様が国の騎士団にいた頃、ユーレとの運命的な出会いがあり…二人は付き合い始め、私の乳母となるため騎士団を離れる際、一緒に連れてきてここの丘に住まわせているのではないか?と言う事をです。
「少し…だけですよ…。」
全く…リスティス叔母様と言う人は…。
人間の男には一切興味が無いようで、家の中でもお母様から心配されていたのですが…。
まさか…“名付き”の人間風のスライムに熱をあげていたとは、普通に考えても全く想像もつかない事です。
「リスティス…アイシテル…。」
リスティス叔母様のドレスの後ろをたくし上げて、ユーレがピッタリと密着して後ろから抱きしめています。
相手はスライムのユーレですので、実際にはお楽しみの真っ最中なのだと思います。
「ユーレ!!好きっ!!好きっ!!」
証拠に…僅かにですがスライムの蠢くような音が、リスティス叔母様のドレスの内側の辺りから聞こえています。
五歳女児はこの大人な空気を読んであげようかなと思います。
少し離れた場所で、スライム相手に魔法を使う訓練でもしようと、歩き始めました。
――――
さて、私の現在の魔力量二十で何が出来るでしょうか。
とりあえず、転生前に得意だった火系魔法から試してみる事にします。
まずは…近くの草を溶かし食べているスライムに…。
「えいっ!『かんいかいせき』!!」
――ピロッ!
[ステータス]――
種族:スライム
魔力量:百
――[中断]――
ちょっと待って!!
百って何?!
――[再開]――
弱点:火、雷、氷
耐性:水
――
私が魔力量二十と言うのに…スライムが百もあるなんて…。
最弱モンスターより魔力量が低い事に…非常にイラッと私はきてしまったので、この勢いのまま魔法をどんどん試していきたいと思います。
「ついて…『ひ』!!」
そう言いながら右の人差し指を前に突き出しました。
――ポッ!
音を立てて可愛い火が指先から飛び、宙で消えました。
これはいける!!
この人間の身体でも魔法が扱える事が、幻想ではなく確信に変わった瞬間でした。
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この話の主な登場人物
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名前 :アルシェ=デルジェイム
年齢 :5歳
性別 :女
種族 :人間
職業 :なし
魔力量:20
魔法 :未知の魔法
スキル:未知のスキル
肌 :肌色(ブルベ系)
髪 :ボブ(黒色)
目 :焦茶
その他:七英雄の一人、魔法騎士アルディスの末裔。
異世界転生者。
元災厄レベルの悪魔。
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名前 :リスティス=リーズランデ
年齢 :28歳
性別 :女
種族 :人間
職業 :アルシェの乳母兼護衛
魔力量:284
魔法 :中級魔法全般
スキル:剣士スキル全般
肌 :肌色(ブルベ系)
髪 :ロング(黒色)
目 :焦茶
その他:七英雄の一人“悪魔”のアーシェの末裔。
元国の騎士団所属の魔法剣士。
アルシェの叔母(母の妹)。
グラマラス&スレンダー。
アルシェ崇拝者。
ユーレとは恋人同士。
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名前 :ユーレ
年齢 :不明
性別 :無性
種族 :スライム(のはず)
職業 :不明
魔力量:不明
魔法 :不明
スキル:不明
肌 :水色
髪 :長髪のような形
目 :◉
その他:リスティスが名付け親の”名付き“。
頭や髪や四肢のようなものがある。
リスティスとは恋人同士。
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