Episode 45.私の本当の姿を知って欲しいのです。
「何するの!?やめて!やめて!!」
怯えるフィーナをよそに私は闇に包み込まれました。
「アルシェ?!アルシェ!?大丈夫なの!?」
いつものように私を覆っていた闇が身体の中に取り込まれました。
「心配してくれたんだねぇ?フィーナは優しい子だよ?」
「えっ?!あ…あなたは…?ねぇ??アルシェは?アルシェはどこ??」
私の部屋にあるベッドの上に仰向けのフィーナは…私に馬乗りされて両手を押さえつけられております。
その状態で、アヴィレネーナの姿となった私を別人と捉え…アルシェの姿の私に声をかけ続けているのです。
「アルシェ様なら、フィーナさんの上にいらっしゃるじゃないですか?」
「だって…こんな整った美人さんがアルシェだなんて信じたくないよ…。」
褒めているのか貶しているのか…フィーナの真意は深くは読み取れません。
「我が名はアヴィレネーナ。悪魔さ。お前さん怖くはないのかい?」
「はい…!!アルシェと似ても似つかない…美人さんに襲われるなら…怖くないです。」
全く…フィーナは、私と知ってか知らずか言いたい事を言ってくれます。
「じゃあ早速、お前さんを頂いちまおうかねぇ?」
「ダメです!!私はアルシェのモノなんです!!だから…アルシェに許可を得て下さい!!」
本当に訳がわからないのですが…私と知った上でワザとこのような事を言ってきているのでしょうか。
「お前さん、アルシェの事好きかい?愛しているのかい?」
「はい!!私はアルシェの事…小等部の頃に出逢ってから好きすぎて…困ってます!!それに…愛してます!!」
私には面と向かってこんな事言ってきた記憶は一切ありませんので…私がアルシェに化けていて、本物のアルシェを隠しているとでも思っているのかもしれません。
「その言葉、アルシェにも言えるかい?」
「あなたが私の…私の、アルシェ返してくれるなら。そんな事言うくらいお安い御用よ。」
「お前さん、今言ったね?約束だよ?」
私達をベッドの傍らで見守っているアーシェは今にも吹き出しそうな表情です。
「ねぇ?アーシェさん、何かおかしい事でもあるの?」
「いえ?本当に断ってしまって良いのですか?アヴィレネーナ様直々の愛を頂けるのに…。」
うっとりとした表情で私の顔を見つめるアーシェがフィーナに対し、そう答えました。
「だから言ってるじゃない。私はアルシェのモノなの!!」
「そうですか…。では…アヴィレネーナ様。この私で宜しければ…愛、頂けませんでしょうか…。」
アーシェとは毎晩のように添い寝しているのですが…やはりそれだけでは満足できないのでしょうか。
アヴィレネーナに変身している時、アーシェの気分が物凄く昂揚しているのは見て取れましたが、自ら求めてくるまでとは思ってもおりませんでした。
「フィーナと言ったか?今からする事をしっかり見ておくんだね?」
本当にここ最近、変身する機会も殆どなく、以前のように求められる事もなく生活してきましたので、久しぶりの事で私の方が胸の鼓動が激しく聞こえてくるくらいでした。
「アーシェ?こっちおいで?」
私は馬乗りにしていたフィーナから降りると、フィーナの横に仰向けで寝そべり、アーシェを呼びました。
使用人の服を着ていたアーシェは、手早に服などを脱ぐと私の寝そべるベッドの傍までやって来ました。
「アヴィレネーナ様…。では…失礼します。」
――――
私はアヴィレネーナの身体でアーシェとほんの僅かな時間ではありますが、久しぶりに身体を重ねました。
フィーナは隣の部屋から聞こえてくる声と、私とアーシェの声の間に挟まれてしまい、目を瞑って平静を装っておりました。
「悪いね?アーシェ。戻るよ??」
五分ほどアーシェとの時間を楽しんだ後、私は『変身解除』を行いました。
アヴィレネーナの身体で居ると、いろんな事が無詠唱で行えるので…変身解除後のアルシェの姿はこの上なく不便で仕方ありません。
アーシェとフィーナが見守る中、アヴィレネーナの身体から闇が解き放たれていきます。
みるみるうちにアルシェの姿へと戻っていきました。
「え…?!アルシェ??あの美人さんが…アルシェのこと攫ってすり替わっていたんじゃないの??」
「だから、さっきの悪魔のこと…アーシェが私だって言ってたでしょ?」
一度こうだと思い込むと、実際自分で見てみるまでは信じない性格で、昔からフィーナに振り回され手を焼いてきました。
「だって…あんな美人さんがアルシェなわけないって。」
「どう言う意味??さっきのアヴィレネーナは…私の前世の姿だからね?この前までいたヴィレースは前世の私の孫娘だから。」
何故かフィーナはアーシェを睨みつけ始めました。
「どうしたんですか?フィーナさん?怖いですよ??」
「アーシェさんばかり…あんな美人さんと…ズルい!!ズルいです!!」
自分からアルシェのモノと拒絶しておきながら、アヴィレネーナの正体が分かった途端、手のひらを返したように悔しがっております。
しかも、怒りの矛先をアーシェにぶつけてきているという我儘ぶりです。
「フィーナ?また変身してあげるから。今度は拒絶しないでよ?私…フィーナを喜ばせようとしただけなのにさ?結構傷ついたんだからね?」
「だって…いきなり目の前にあんな美人さん現れたら誰でも戸惑うと思うよ?」
アーシェはフィーナを見ながら勝ち誇ったような表情をしております。
「ねぇ…アーシェさん?そうやって私の事小馬鹿にするのやめてもらえます?」
「フィーナさん、自意識過剰なのじゃないですか?私は別に何とも思っておりませんよ?」
相変わらずこの二人はどこか反りが合わず、いつもヒヤヒヤしてしまいます。
「あれ?隣の部屋静かになったよね?」
私はすかさず話題を逸らしました。
「うんうん!ちょっと見に行こうよ?」
気づけばアーシェとフィーナはベッドの上から降り、部屋の扉に手をかけて出ていくところでした。
二人の関係性はもうよく分からなくなって来たので、考えないようにした方が良いのかもしれません。
「キャア!!」
隣の部屋からリスティスらしき声の悲鳴が聞こえました。
どうせアーシェの事です…扉に鍵が掛かっているのを見越して空間転移で扉の前後をすり抜け、踏み入ったのだと思います。
「はぁ…。」
私はため息を深く吐きながら、ベッドから降りるとレーユの部屋へと向かいました。
――ガチャ…ガチャ…
扉はやはり鍵がかけられており、外側からは開かないようになっておりました。
――コンコン!
中からはアーシェの声が聞こえて来ております。
――ガチャッ…
扉の鍵が開けられた音がしましたので、私は扉の取手に手を掛けて押し開けてみる事にしました。
――ギィィィィ…
レーユの部屋の扉が内側に開くと、そこにはベッドの上で裸の状態のレーユとリスティスがチラッと見えました。
ベッドの前にアーシェが立っており、何やら大きな笑い声を出しておりました。
フィーナはと言うと…流石に年頃の乙女なので…恥ずかしそうにアーシェの影に隠れて身を低くしておりました。
「もう!!アーシェ??何してるの?!」
「アルシェ!!ねぇ…私…アルシェの部屋、戻ってて良いよね?」
アーシェに声をかけたのに第一声はフィーナからでした。
悲痛な表情をしていたので、フィーナの言う通りにさせました。
「で、アーシェは何を大声で笑っていたの?」
「いや…アルシェ様。レーユの話…聞いてあげて下さい!!」
ふとレーユを見ると、リスティスに対し怒っているような表情で見つめておりました。




